48 / 53
それから 2
しおりを挟む
国王様に謁見した後は、アルのお母様のいる部屋に通された。
「初めまして、ご挨拶が婚姻の後になり申し訳ございません――」
あたしが頭を下げると、ユングフラウお義姉様によく似た方が、驚いた顔でこっちを見ている。
金色の髪に、美しい藍色の瞳。目元はアルと全く同じで、アルはお義母様似なんだと分かる。
「アルの嫁は、クリオス社の研究員で月の灯(ライト)と精霊銃を発明した人なんですってね?」
「その通りです、母上」
「我が国のためを考えたら、アルの嫁には勿体ないんじゃなくて?」
「おっしゃる通りですが、私たちは愛し合っております」
「わたくしの息子に対してこんなことを言うのもあれですけれど……、こんな男のどこが良かったのかしら? 顔?」
アルとお義母様の会話にも、あたしが平民だとかそういう話は一切出ない。
あたしはお義母様に、ひたすらアルでいいのかって聞かれる。
この国の王族の中で、アルの評価が低すぎる。扱いが散々じゃないかしらって、ちょっとアルが可哀想になってきた。
「アルは、いえ、アルバート王子は、本当に素敵な方です」
「具体的に、どこが?」
「えっと、それは実はよく分かりませんけど、アルバート王子の性格も愛してます」
「あらあら。物好きがいて良かったわねえ、アル」
うん、お義母様と話していると、ユングフラウお義姉様を思い出す。
そんなわけであたしたち、国王様にもお義母様にも簡単に認められてしまったし、牢に入れられたのはプルートゥ大佐の指示だから許して欲しいと謝られてしまった。
ここまで簡単だと、アルって本当に厄介者扱いだったんだなって、分かる。
これからアルの評判を上げて行くのもあたしの務めに違いないと決意を新たにしてお城を出た。
その後は、成人したばかりの第五王子と電撃結婚した平民の女性『ウィルダ妃』について、連日新聞が記事に取り上げた。
あたしはもともと新聞社に取材されていた立場だったから、取材を担当した記者によるあたしの印象だとか、研究の功績だとかが、これでもかというくらい新聞に載る。
あたしは平民出身を叩かれるかと思いきや、現代社会のロイヤルプリンセス像として、世間に賞賛されてしまった。
平民だとか貴族だとか、そういうのに囚われずに恋愛結婚をしたあたし達は、世の憧れでもあるらしい。まさかそんな反応になるなんて、あたしが一番驚いている。
話題になってしまったこともあって、結婚式はお城で行われた。あたしが精霊銃を撃って衛兵たちを吹き飛ばしたところがバージンロードになっていたので、現実に目を背けたくなる式だったことは言うまでもない。
厳かな雰囲気ではあったけど、金管楽器のファンファーレが鳴って新婦の登場時、あたしの頭の中は「あそこで精霊銃を撃ったなー」ということでいっぱいになった。
きっと、結婚式の最中に脱獄の思い出がフラッシュバックした王家の嫁は、あたしが最初で最後だと思う。最後であって欲しい。
アルは、あたしのウェディングドレス姿が好きだと言って、式の最中もずっとあたしにベタベタしてきた。
神聖な神前の場で何をやってるんだと神父様から相当怒られたけど、アルは神父様よりも神様に近い存在なので、「あの神はそんなことは絶対に気にしない」と反論した。そんな新郎もなかなかいない。
とにかく、あたしたちは祝福された。とっくに神様の前で夫婦になってしまっていたから、結婚式って何のためにするのかしらって思わなくなかったけど。
でも、アルの白いタキシード姿が本当に素敵だったから、本物の王子様があたしの夫なんだわって実はまた惚れ直してしまって、式中ずっとウットリしていられた。
アルを見る度に幸せな気持ちになる。やっぱりあたし、アルの外見に弱いのかしら。
あたしたちのロイヤルウェディングが話題沸騰してしまったから、同時期にニュースになったプルートゥ大佐の違法行為については、あまり世間の印象に残らなかった。
そのプルートゥ大佐だけど、処分は降格と謹慎に加えて例の首輪をつけて生活することになったらしい。
冥府の神の加護があったとしても、もうあの人はその力を使うことはできないだろうって、アルがとても悪い笑顔を浮かべて言っていた。
あたしのお父様とお母様は、王族に嫁ぐことよりもあたしが牢に入れられることになった事実にずっと怒っていた。
アルとの結婚が面白くないと言っている。親の立場からすれば、確かにアルは主人として色々と問題があるから当然のことかもしれない。
あたしがアルのことを大好きなのは分かってくれているから、少しずつ態度が軟化してきてはいるものの……。
お父様はこんなことならさっさとマティアスの元に嫁にやればよかったと後悔していた。
そこで初めて、マティアスの家からそんな話を貰っていたことを知る。お父様はあたしがつらいだけだろうと心配して、その話をあたしに伝えずに断ってしまったらしい。
マティアスに結婚の話をして怒られた意味がようやく分かった。
あたし、求婚された相手にそろそろ結婚しないのかって尋ねてたことになる。マティアス、あたしが無神経なことを話す女だと思って怒っていたのね……。
いつかちゃんと謝らなきゃって心から思う。本当にごめんなさい……。
「初めまして、ご挨拶が婚姻の後になり申し訳ございません――」
あたしが頭を下げると、ユングフラウお義姉様によく似た方が、驚いた顔でこっちを見ている。
金色の髪に、美しい藍色の瞳。目元はアルと全く同じで、アルはお義母様似なんだと分かる。
「アルの嫁は、クリオス社の研究員で月の灯(ライト)と精霊銃を発明した人なんですってね?」
「その通りです、母上」
「我が国のためを考えたら、アルの嫁には勿体ないんじゃなくて?」
「おっしゃる通りですが、私たちは愛し合っております」
「わたくしの息子に対してこんなことを言うのもあれですけれど……、こんな男のどこが良かったのかしら? 顔?」
アルとお義母様の会話にも、あたしが平民だとかそういう話は一切出ない。
あたしはお義母様に、ひたすらアルでいいのかって聞かれる。
この国の王族の中で、アルの評価が低すぎる。扱いが散々じゃないかしらって、ちょっとアルが可哀想になってきた。
「アルは、いえ、アルバート王子は、本当に素敵な方です」
「具体的に、どこが?」
「えっと、それは実はよく分かりませんけど、アルバート王子の性格も愛してます」
「あらあら。物好きがいて良かったわねえ、アル」
うん、お義母様と話していると、ユングフラウお義姉様を思い出す。
そんなわけであたしたち、国王様にもお義母様にも簡単に認められてしまったし、牢に入れられたのはプルートゥ大佐の指示だから許して欲しいと謝られてしまった。
ここまで簡単だと、アルって本当に厄介者扱いだったんだなって、分かる。
これからアルの評判を上げて行くのもあたしの務めに違いないと決意を新たにしてお城を出た。
その後は、成人したばかりの第五王子と電撃結婚した平民の女性『ウィルダ妃』について、連日新聞が記事に取り上げた。
あたしはもともと新聞社に取材されていた立場だったから、取材を担当した記者によるあたしの印象だとか、研究の功績だとかが、これでもかというくらい新聞に載る。
あたしは平民出身を叩かれるかと思いきや、現代社会のロイヤルプリンセス像として、世間に賞賛されてしまった。
平民だとか貴族だとか、そういうのに囚われずに恋愛結婚をしたあたし達は、世の憧れでもあるらしい。まさかそんな反応になるなんて、あたしが一番驚いている。
話題になってしまったこともあって、結婚式はお城で行われた。あたしが精霊銃を撃って衛兵たちを吹き飛ばしたところがバージンロードになっていたので、現実に目を背けたくなる式だったことは言うまでもない。
厳かな雰囲気ではあったけど、金管楽器のファンファーレが鳴って新婦の登場時、あたしの頭の中は「あそこで精霊銃を撃ったなー」ということでいっぱいになった。
きっと、結婚式の最中に脱獄の思い出がフラッシュバックした王家の嫁は、あたしが最初で最後だと思う。最後であって欲しい。
アルは、あたしのウェディングドレス姿が好きだと言って、式の最中もずっとあたしにベタベタしてきた。
神聖な神前の場で何をやってるんだと神父様から相当怒られたけど、アルは神父様よりも神様に近い存在なので、「あの神はそんなことは絶対に気にしない」と反論した。そんな新郎もなかなかいない。
とにかく、あたしたちは祝福された。とっくに神様の前で夫婦になってしまっていたから、結婚式って何のためにするのかしらって思わなくなかったけど。
でも、アルの白いタキシード姿が本当に素敵だったから、本物の王子様があたしの夫なんだわって実はまた惚れ直してしまって、式中ずっとウットリしていられた。
アルを見る度に幸せな気持ちになる。やっぱりあたし、アルの外見に弱いのかしら。
あたしたちのロイヤルウェディングが話題沸騰してしまったから、同時期にニュースになったプルートゥ大佐の違法行為については、あまり世間の印象に残らなかった。
そのプルートゥ大佐だけど、処分は降格と謹慎に加えて例の首輪をつけて生活することになったらしい。
冥府の神の加護があったとしても、もうあの人はその力を使うことはできないだろうって、アルがとても悪い笑顔を浮かべて言っていた。
あたしのお父様とお母様は、王族に嫁ぐことよりもあたしが牢に入れられることになった事実にずっと怒っていた。
アルとの結婚が面白くないと言っている。親の立場からすれば、確かにアルは主人として色々と問題があるから当然のことかもしれない。
あたしがアルのことを大好きなのは分かってくれているから、少しずつ態度が軟化してきてはいるものの……。
お父様はこんなことならさっさとマティアスの元に嫁にやればよかったと後悔していた。
そこで初めて、マティアスの家からそんな話を貰っていたことを知る。お父様はあたしがつらいだけだろうと心配して、その話をあたしに伝えずに断ってしまったらしい。
マティアスに結婚の話をして怒られた意味がようやく分かった。
あたし、求婚された相手にそろそろ結婚しないのかって尋ねてたことになる。マティアス、あたしが無神経なことを話す女だと思って怒っていたのね……。
いつかちゃんと謝らなきゃって心から思う。本当にごめんなさい……。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
リアナ2 繁殖の春と不死者(しなず)の王
西フロイデ
ファンタジー
竜の国オンブリアは、繁殖期と呼ばれる社交シーズンの真っただ中。王となったばかりのリアナは恋人デイミオンの「繁殖期の務め」に苦しむ。一方、大戦の英雄でありながら〈ハートレス〉としての差別を受けるフィルとの距離も急接近。竜族を捕食する半死者たちや、竜殺しの武器を持つ人間の王が出現し、王国の運命にも暗雲が立ち込める。竜族の王としてリアナが下す決断は? 恋の行方はどうなる?
■1部に比べると恋愛描写が多めですので、苦手な方はご注意を。R15程度の性描写あり
(第一部はこちら)
「リアナ1 王冠の竜騎手と心臓のない英雄」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/518840219/130401936
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる