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「ノーヴァ、明日の昼過ぎまで適当に過ごしていろ。それまで私は、妻との失った時間を取り戻す」
「はいはい。そうしましたら、それから領地にご一緒しましょう」
「私はウィルダとすぐそこの町に滞在するからお前が来い」

ノーヴァは仕方がないという風な溜息をついて、そそくさと馬に乗って帰って行く。あたしはアルに抱きかかえられてオロオロするばかりで、どうしていいのか分からなかった。

「ウィルダ、待たせたな」

アルがそう言って笑っている。その顔を見て安心しきってしまったあたしは、一気に涙があふれてアルの首にしがみついて声を上げて泣いた。

「酷いわ、アル……。王子様だったこともそうだし、あたしお城の牢に入れられて脱獄までしたのよ? それからお義姉様、ユングフラウ様に会って、ノーヴァの家に置いてもらって……」

「色々と、苦労をさせてしまったようだな。申し訳なかった。その辺のことも後でゆっくり聞こう。手遅れになっているかもしれないが、やり直させて欲しい。あの日の続きを」

アルはそう言って馬の前であたしを降ろし、唇を重ねて来た。

今度ばっかりは誤魔化されてなるものか、と思っていたけど、今迄の大変だったことがどうでもよくなるくらい、あたしはアルとこうしていられることが幸せだって思い知る。

「もう、私が限界だ」

離れた途端、アルが待ちきれないと言い出して、二人乗りで馬を走らせた。

そんなに焦らなくたって町は逃げて行かないのに、とあたしが笑ったら、アルは、「ウィルダとの時間が一秒でも惜しい」と真剣な声を出して言うので、またあの覚悟をしなきゃいけない気がして心臓の音がやかましい。

考えてみたら、あたしたち、新婚なのよ。

この先に待っているのは……。
そう思ったらあたしの身体は一気に硬直した。
夫婦の誓いをした日以来だし、久しぶりに会ったアルにまだ慣れていないのに。

急ぐアルの様子に、どうしようどうしようって頭の中がやかましくなって来た。
二人っきりで過ごす時間がくるなんて。嬉しい以上に困ってしまう。

あたしを抱きしめるようにアルは馬を走らせながら、時々愛を囁いては頬に唇を当てて来る。

「久しぶりに会うと、こんなに可愛いかったのか」
「そんな、アルの趣味が変わってるだけよ……」
「ウィルダは、私の趣味を否定したいのか?」
「そういうわけじゃないけど……」

アルのことが大好きなのに、あたしたち夫婦だというのに、心が全く追い付かない。

もうなにも考えられなくなって、胸の音がドキドキと身体に響くばかりだった。
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