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第12章 騎士はその地で
富豪の交渉 1
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日常が戻りカイが執務室にいると、ブライアン・バンクスからの書簡が届いた。
ブライアンの元には相変わらずハンが働いているが、騎士団の優秀な騎士を派遣して欲しいなどの追加依頼だろうかと封筒を開く。
『カイ・ハウザー総督
元気にしていると思うが、どうか聞いて欲しい。「騎士物語」の続刊を望む声が多く、次回作に取り掛かりたい。王女との恋愛ストーリーもそのまま活かして書かせて欲しいが、今回ばっかりはノンフィクションの色が強くなる。どうか、近々相談させてもらえないだろうか。タダとは言わないよ。
ブライアン・バンクス』
読み終わって、カイは暫く固まっていた。
前作の小説はよく書かれていたが、今回ばかりは承諾しかねる。
(タダとは言わない、とはどういうことだ……)
条件が気になる。
この話が実話だと広まれば、それなりに売れるだろう。
私生活を暴露するような小説など、到底了承できるものではない。
条件が気になる。
カイは執務室で大きな溜息をついた。
(ダメだ……条件が気になって判断なんかできるか……)
結局、条件次第で返答しようと決めた。
レナに相談しようものなら、絶対に続刊を読みたいと説得される。
レナはカイのことと同等には「騎士物語」が好きだ。
つまり、作品の大ファンだった。
*
「いやあ、すごいなあ」
従者とハンを連れてルリアーナに到着したブライアンは、カイの執務室があまりに広いため目を丸くしている。
ハンは「女王様と結婚しちゃうくらいなんだから、相当たらしこんだに決まっていますよ」と余計なことを言っていた。基本的にカイはハンの野次を無視することに決めている。
「忙しいのに、時間を作ってくれて嬉しいよ、カイ・ハウザー。今は総督と王配とどちらで呼ぶのが正解だろうか?」
「お好きなように」
「総督王配殿下?」
「本当にそう呼びたいですか?」
間が空いてブライアンは何か考え込んだ様子だったが、「まあいいや」と早速本題に入ろうとする。
カイはソファに水を用意して、ブライアンと向かい合って座った。
「君が嫌がるのはよく分かる」
「私生活を売ることになるわけですからね。そもそも、私が女王と結婚したこと自体、それなりに色々なところで好き勝手に書かれました」
「……今がチャンスだよ」
ブライアンは自信たっぷりに言った。何がチャンスなのかよく分からない。
「おっしゃられていることの意味が……」
「話題性のあるこの機に、新作を発表して一気に売るんだ!」
「嫌です」
ブライアンの先見性は恐らく間違いがないのだろう。
これまで事業を成功させてきただけのセンスはカイも疑っていない。が、売れるというのは自分のことが広く知られるという意味になる。
「恋愛物だけは絶対に嫌です」
念押しした。強い意志でブライアンに納得してもらうつもりだ。
「君はそう言うと思ったから、今回条件を詰めて来た。私の目論見では、君は断らない」
「考えてもみてください。なんで妻との馴れ初めを小説にされなければならないんですか」
「上代の30%出そう」
カイは急に何を言い出したのかとブライアンを見た。前作は1%ですら受け取っていない。
ブライアンの元には相変わらずハンが働いているが、騎士団の優秀な騎士を派遣して欲しいなどの追加依頼だろうかと封筒を開く。
『カイ・ハウザー総督
元気にしていると思うが、どうか聞いて欲しい。「騎士物語」の続刊を望む声が多く、次回作に取り掛かりたい。王女との恋愛ストーリーもそのまま活かして書かせて欲しいが、今回ばっかりはノンフィクションの色が強くなる。どうか、近々相談させてもらえないだろうか。タダとは言わないよ。
ブライアン・バンクス』
読み終わって、カイは暫く固まっていた。
前作の小説はよく書かれていたが、今回ばかりは承諾しかねる。
(タダとは言わない、とはどういうことだ……)
条件が気になる。
この話が実話だと広まれば、それなりに売れるだろう。
私生活を暴露するような小説など、到底了承できるものではない。
条件が気になる。
カイは執務室で大きな溜息をついた。
(ダメだ……条件が気になって判断なんかできるか……)
結局、条件次第で返答しようと決めた。
レナに相談しようものなら、絶対に続刊を読みたいと説得される。
レナはカイのことと同等には「騎士物語」が好きだ。
つまり、作品の大ファンだった。
*
「いやあ、すごいなあ」
従者とハンを連れてルリアーナに到着したブライアンは、カイの執務室があまりに広いため目を丸くしている。
ハンは「女王様と結婚しちゃうくらいなんだから、相当たらしこんだに決まっていますよ」と余計なことを言っていた。基本的にカイはハンの野次を無視することに決めている。
「忙しいのに、時間を作ってくれて嬉しいよ、カイ・ハウザー。今は総督と王配とどちらで呼ぶのが正解だろうか?」
「お好きなように」
「総督王配殿下?」
「本当にそう呼びたいですか?」
間が空いてブライアンは何か考え込んだ様子だったが、「まあいいや」と早速本題に入ろうとする。
カイはソファに水を用意して、ブライアンと向かい合って座った。
「君が嫌がるのはよく分かる」
「私生活を売ることになるわけですからね。そもそも、私が女王と結婚したこと自体、それなりに色々なところで好き勝手に書かれました」
「……今がチャンスだよ」
ブライアンは自信たっぷりに言った。何がチャンスなのかよく分からない。
「おっしゃられていることの意味が……」
「話題性のあるこの機に、新作を発表して一気に売るんだ!」
「嫌です」
ブライアンの先見性は恐らく間違いがないのだろう。
これまで事業を成功させてきただけのセンスはカイも疑っていない。が、売れるというのは自分のことが広く知られるという意味になる。
「恋愛物だけは絶対に嫌です」
念押しした。強い意志でブライアンに納得してもらうつもりだ。
「君はそう言うと思ったから、今回条件を詰めて来た。私の目論見では、君は断らない」
「考えてもみてください。なんで妻との馴れ初めを小説にされなければならないんですか」
「上代の30%出そう」
カイは急に何を言い出したのかとブライアンを見た。前作は1%ですら受け取っていない。
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