209 / 229
第12章 騎士はその地で
宵は2人の時間を刻む 2
しおりを挟む
「この程度でいい。上に撒かれているのは花びらか?」
「そう……」
赤い花びらが白い掛布の上に散らばり、まるで血痕のようにも見える。
カイはふわりと風を起こすと、その花びらを絡め取るように風に乗せてレナの上から降らせた。
「赤いバラは、散らすのではなく、愛でた方がいい」
レナの髪や服に、花びらが絡む。
カイはレナに赤いバラが装飾されているのを満足げに眺めた後、そのひとつひとつを丁寧に手で摘まみながら、レナに触れないように花びらを回収していた。
「あなた以外、愛せない……」
1本の赤いバラが持つ花言葉をレナが唱え、視線がかち合った。
レナの透き通った青い目に、カイが映り込んでいる。
「今日は、疲れただろう」
カイがそう言ってレナの頬に口付けると、レナは小さく頭を振った。
何かを言おうとして戸惑い、揺れた唇が月明かりに光る。
「無理しなくていい」
カイは小さな身体を抱きしめて背中をさすった。
緊張でうまく話せていないのに、必死なところがレナらしい。このいじらしさを、よく知っていた。
「そんなことを、言わないで」
ポツリと声が漏れる。
「これからは夫婦なんだから……」
小さな声がカイを責めた。
王族のプライドだろうか。妻の務めを果たそうとしているようにも見える。
「無理というのは、レナらしさを抑えるなということだ。これからは夫婦で、お互い言いたいことを言い合ってどちらかが我慢しないようにしなければ」
カイはレナを抱き上げて運び、ベッドに座らせた。
「毎日は続いていく。今日はゆっくり休めばいい」
「違う、違うの」
レナは泣きそうな顔を下に向けたまま、ゆっくりとカーディガンのボタンを外していく。
ニットから薄い生地が覗き、胸元をリボンで止めたネグリジェが現れた。
「恥ずかしいのは、本当に恥ずかしいの。でも、それじゃ嫌」
下を向いたままのレナを覗き込む。苦しそうな顔を見て、カイはふっと笑って唇を奪った。
「そのつもりで待っていてくれたと勘違いするぞ」
「勘違いなんかじゃ……」
カイを直視できないレナに、深いキスで繋がる。
そのままレナの身体がベッドに沈むと胸元のリボンが解かれ、レナは身動きが取れなくなっていた。
カイはレナの顎を引いて無理矢理にでも目線を向けさせる。
レナは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「カイを待たせすぎてしまったのに、きっと私、あなたを満たしてあげられない」
「なぜ、そう思う?」
「何も知らないの。閨の作法なんて……」
レナが思い詰めるように言うので、カイは思わず噴き出した。
「いや、そんなことか」
「真面目に言ってるのに、バカにしないで」
怒るレナの耳元で、カイはそっと白状するしかない。
「知らないでいてくれた方が助かる。それに、ここまでの様子からして王室の作法はどうも好かない」
レナはキョトンとしたまま、カイを見ていた。言葉の意味がよく分かっていない。
カイは穏やかな顔で笑っていた。
「あなたが、誰よりも、何よりも好き。だから、ずっと私、カイを深く知りたくて……」
カイは無言で頷いた。レナはいつでも真っ直ぐに好意をぶつけてくれる。
「ありがとう」
気の利いたことは言えなかった。
ひたすら不器用なカイに、これ程までにしっかりと向き合ってくれるレナだからこそ、惹かれて共に生きる決意をしたのだ。
「レナ」
その名を口にするのは、この城内ではただひとりだけになっていた。
「そう……」
赤い花びらが白い掛布の上に散らばり、まるで血痕のようにも見える。
カイはふわりと風を起こすと、その花びらを絡め取るように風に乗せてレナの上から降らせた。
「赤いバラは、散らすのではなく、愛でた方がいい」
レナの髪や服に、花びらが絡む。
カイはレナに赤いバラが装飾されているのを満足げに眺めた後、そのひとつひとつを丁寧に手で摘まみながら、レナに触れないように花びらを回収していた。
「あなた以外、愛せない……」
1本の赤いバラが持つ花言葉をレナが唱え、視線がかち合った。
レナの透き通った青い目に、カイが映り込んでいる。
「今日は、疲れただろう」
カイがそう言ってレナの頬に口付けると、レナは小さく頭を振った。
何かを言おうとして戸惑い、揺れた唇が月明かりに光る。
「無理しなくていい」
カイは小さな身体を抱きしめて背中をさすった。
緊張でうまく話せていないのに、必死なところがレナらしい。このいじらしさを、よく知っていた。
「そんなことを、言わないで」
ポツリと声が漏れる。
「これからは夫婦なんだから……」
小さな声がカイを責めた。
王族のプライドだろうか。妻の務めを果たそうとしているようにも見える。
「無理というのは、レナらしさを抑えるなということだ。これからは夫婦で、お互い言いたいことを言い合ってどちらかが我慢しないようにしなければ」
カイはレナを抱き上げて運び、ベッドに座らせた。
「毎日は続いていく。今日はゆっくり休めばいい」
「違う、違うの」
レナは泣きそうな顔を下に向けたまま、ゆっくりとカーディガンのボタンを外していく。
ニットから薄い生地が覗き、胸元をリボンで止めたネグリジェが現れた。
「恥ずかしいのは、本当に恥ずかしいの。でも、それじゃ嫌」
下を向いたままのレナを覗き込む。苦しそうな顔を見て、カイはふっと笑って唇を奪った。
「そのつもりで待っていてくれたと勘違いするぞ」
「勘違いなんかじゃ……」
カイを直視できないレナに、深いキスで繋がる。
そのままレナの身体がベッドに沈むと胸元のリボンが解かれ、レナは身動きが取れなくなっていた。
カイはレナの顎を引いて無理矢理にでも目線を向けさせる。
レナは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「カイを待たせすぎてしまったのに、きっと私、あなたを満たしてあげられない」
「なぜ、そう思う?」
「何も知らないの。閨の作法なんて……」
レナが思い詰めるように言うので、カイは思わず噴き出した。
「いや、そんなことか」
「真面目に言ってるのに、バカにしないで」
怒るレナの耳元で、カイはそっと白状するしかない。
「知らないでいてくれた方が助かる。それに、ここまでの様子からして王室の作法はどうも好かない」
レナはキョトンとしたまま、カイを見ていた。言葉の意味がよく分かっていない。
カイは穏やかな顔で笑っていた。
「あなたが、誰よりも、何よりも好き。だから、ずっと私、カイを深く知りたくて……」
カイは無言で頷いた。レナはいつでも真っ直ぐに好意をぶつけてくれる。
「ありがとう」
気の利いたことは言えなかった。
ひたすら不器用なカイに、これ程までにしっかりと向き合ってくれるレナだからこそ、惹かれて共に生きる決意をしたのだ。
「レナ」
その名を口にするのは、この城内ではただひとりだけになっていた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる