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第12章 騎士はその地で

宵は2人の時間を刻む 2

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「この程度でいい。上に撒かれているのは花びらか?」
「そう……」

赤い花びらが白い掛布の上に散らばり、まるで血痕のようにも見える。
カイはふわりと風を起こすと、その花びらを絡め取るように風に乗せてレナの上から降らせた。

「赤いバラは、散らすのではなく、愛でた方がいい」

レナの髪や服に、花びらが絡む。
カイはレナに赤いバラが装飾されているのを満足げに眺めた後、そのひとつひとつを丁寧に手で摘まみながら、レナに触れないように花びらを回収していた。

「あなた以外、愛せない……」

1本の赤いバラが持つ花言葉をレナが唱え、視線がかち合った。
レナの透き通った青い目に、カイが映り込んでいる。

「今日は、疲れただろう」

カイがそう言ってレナの頬に口付けると、レナは小さく頭を振った。
何かを言おうとして戸惑い、揺れた唇が月明かりに光る。

「無理しなくていい」

カイは小さな身体を抱きしめて背中をさすった。
緊張でうまく話せていないのに、必死なところがレナらしい。このいじらしさを、よく知っていた。

「そんなことを、言わないで」

ポツリと声が漏れる。

「これからは夫婦なんだから……」

小さな声がカイを責めた。

王族のプライドだろうか。妻の務めを果たそうとしているようにも見える。

「無理というのは、レナらしさを抑えるなということだ。これからは夫婦で、お互い言いたいことを言い合ってどちらかが我慢しないようにしなければ」

カイはレナを抱き上げて運び、ベッドに座らせた。

「毎日は続いていく。今日はゆっくり休めばいい」
「違う、違うの」

レナは泣きそうな顔を下に向けたまま、ゆっくりとカーディガンのボタンを外していく。
ニットから薄い生地が覗き、胸元をリボンで止めたネグリジェが現れた。

「恥ずかしいのは、本当に恥ずかしいの。でも、それじゃ嫌」

下を向いたままのレナを覗き込む。苦しそうな顔を見て、カイはふっと笑って唇を奪った。

「そのつもりで待っていてくれたと勘違いするぞ」
「勘違いなんかじゃ……」

カイを直視できないレナに、深いキスで繋がる。
そのままレナの身体がベッドに沈むと胸元のリボンが解かれ、レナは身動きが取れなくなっていた。

カイはレナの顎を引いて無理矢理にでも目線を向けさせる。
レナは今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「カイを待たせすぎてしまったのに、きっと私、あなたを満たしてあげられない」
「なぜ、そう思う?」
「何も知らないの。閨の作法なんて……」

レナが思い詰めるように言うので、カイは思わず噴き出した。

「いや、そんなことか」
「真面目に言ってるのに、バカにしないで」

怒るレナの耳元で、カイはそっと白状するしかない。

「知らないでいてくれた方が助かる。それに、ここまでの様子からして王室の作法はどうも好かない」

レナはキョトンとしたまま、カイを見ていた。言葉の意味がよく分かっていない。
カイは穏やかな顔で笑っていた。

「あなたが、誰よりも、何よりも好き。だから、ずっと私、カイを深く知りたくて……」

カイは無言で頷いた。レナはいつでも真っ直ぐに好意をぶつけてくれる。

「ありがとう」

気の利いたことは言えなかった。

ひたすら不器用なカイに、これ程までにしっかりと向き合ってくれるレナだからこそ、惹かれて共に生きる決意をしたのだ。

「レナ」

その名を口にするのは、この城内ではただひとりだけになっていた。
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