上 下
198 / 229
第12章 騎士はその地で

近づくたび、離れていく

しおりを挟む
ルリアーナ王国が復活して、5ヶ月。
国の中枢では女王を配してあらゆることが動いている。
政治に市民が参加するようになり、商業も発展し始めた。

女王は、権力を王族から切り離すために日々奔走中のようで……。

「ねえ、カイを見なかった?」

レナは部屋で文書に目を通していたが、ふと気になって自分の護衛に就いている兵士に尋ねた。

カイの部下は「存じ上げません」とだけ返事をすると、表情も変えずに静かに立っている。

「最近、なかなか護衛にも就いてくれないんだもの、総督ったらつれないわね」

レナはそれまで側で護衛をしていたカイの姿を探し、寂しそうに息を漏らす。

カイはブリステ公国とルリアーナ王国の同盟を橋渡しし、ブリステ公国から派遣された立場でルリアーナ国内の軍隊の総指揮を執っている。
そのせいで、最近は一緒に過ごす時間も減っていた。

「まあ、順調に位も上がっていらっしゃいますし、婚姻の日も近いのではないですか?」

サーヤが落ち込むレナの横を通り過ぎてベッドメイクを始めていた。

「でも、アロイス陛下からの許可が取れるかどうか」
「ああ、まあ、それは……」

サーヤは男女とはなかなか難しいのだなと笑う。ブリステ公王のアロイスが何を考えているのかが、これまでの流れから何となく分かっていた。

 *

「……あの、クソ親父が!」

カイは屋外の訓練を見ていた最中だった。
速達で届いた書簡を両手で引っ張り真っ二つに破ると、厚手の紙が予想外の破れ方をしたのを見て、部下の数名が震え上がる。

上司の機嫌が悪いときは訓練の強度が上がるのだ。

カイはアロイスから届いた書簡を細かくして空中に破り捨てる。白い紙吹雪が空に舞っていった。その程度では落ち着かず、ぶつけどころのない怒りで身体中の血が沸騰しそうになっている。

『ルリアーナ女王、ヘレナ・ルリアーナとの婚姻は認められない。理由はお前がよく知っている通りだ。以上。』

まさかこんな展開が待っているとは思わなかった。
カイは懸命に働き、地位もルリアーナ王国内に駐在する総督として軍隊を任されている。その功績から自国では伯爵位を与えられていた。

カイはもう下級貴族ではない。レナと並んでも身分差で責められるような立場ではなくなった。
本来であれば、あらゆる障害は乗り越えたはずだ。

(最後の最後に、下らない嫉妬に妨害されるとは――)

この結果をレナに伝えるのだと思った途端、カイは溜息が出る。

ルリアーナで軍隊の総指揮を執るようになってから、カイはほとんどレナの側にいられなくなっていた。

せめて一日の最後くらいは、と、カイは眠る前のレナを訪ねていたが、未婚の女王の寝室を訪ねる男がいるのは見栄えが良くないと苦言を呈され、それもままならなくなっている。

会いに行ける時間がほとんどなくなったことで、明らかにレナは不満そうだった。
それに加えて婚姻の承認が下りなかったと伝えるのは心苦しい。

カイはルリアーナ城から離れた場所に軍隊の訓練所を設置していた。
平和な国に軍事施設を設けるのは気が進まなかったが、一から軍隊を作って行く過程でどうしても必要だという結論に至ったのだ。

カイの仕事場が城内から離れると、レナと会う時間は大幅に減った。

(護衛に就くと約束しておきながら、どんどんレナから離れていく)

カイは優秀な部下を育て、レナの護衛を任せられる兵士も増やした。
時折ブリステ公国からシンを呼んだりもしていたが、リリスに子どもが産まれてからはそれも控えている。

カイは部下の訓練を横目で見ながら、腰の辺りで掌を上にかざした。ルリアーナ城の方向に向かって、ふっと柔らかい風を起こす。

(そこまで距離も離れていない。立場も近付いた。きっと、この風はそちらと繋がっている)

願うように、遠くにぼんやりと見える城を見つめる。
側にいられた日々が、懐かしくないわけがなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...