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第11章 歴史を変える

独占欲と葛藤と

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侍女が扉を開けてレナの支度が終わったことを伝えると、扉の脇に立っていたカイとロキは慌てて中に入ってレナの姿を目に入れる。

久しぶりに王女らしい姿で立つレナを見た2人は、その美しさを素直に喜ぶことができなかった。

「やっぱり……王女様なんだなあって、思い知らされちゃうな」

寂しそうな声で顔を歪ませたロキに、レナは苦笑した。カイはじっとその姿を何も言わずに見つめている。

「思うことがあるなら、言ってくれてもいいのよ」

レナがカイの前に立つと、カイは何も言わずにレナを抱きしめた。

「……ごめんなさい、こんな格好をして。でも私、どこにも行かないわ」

無言の抱擁に、レナはカイの不安を感じとっていた。
気持ちが通じ合ってから、考えていることが伝わってくる時がある。特にカイは、自分の感情を言葉にするのが得意ではなかった。

「おい、いつまでそうしてんの? シンが待ってるよ」

ロキは暫く2人の様子を黙認したが、堪えきれずに声を掛ける。

「……そうだな」

カイがそう言ってレナから離れる。いつになく憂いを帯びた目がレナの視界に入った。
心臓が大きな音を立てると、レナは咄嗟にカイの身体にしがみつく。
横から腰に抱き付いて、そんな顔をさせたくないと懸命に願った。

レナが必死なのが伝わると、カイはいつも通りにその頭を撫でようとして触れる前に手を止める。
髪はしっかりと整えられていて、軽く触れただけで崩してしまいそうだ。

カイは、これまで普通にしてきた行為が当たり前ではなかったこと、もともと気軽に触れることなど叶わない関係だったのだと思い知らされる。

触れる場所を失った手を握りしめると、レナと共にシンのいる部屋に向かった。


レナが着替えて戻って来ると、その場にいたレオナルド、ブラッド、シンはその姿に思わず頭を下げそうになっていた。

そこにいたのはよく知った小国の王位継承者以外の誰でもなく、一緒にいたレナという女性とは全くの別人に見えてしまう。

「流石……長年で染みついたものは隠せませんね」

レオナルドは満足そうに言うと、この姿を見てルイスが偽物だと騒ぐことはないだろうと安心する。
どんな反応になるか想像もつかないが、いきなりレナに切りかかったり自分達を追い出したりするような危険はこれで回避できたなと納得していた。

「ブラッドさん、ルイス様のところに連れて行ってください。ハウザーさんは護衛として一緒に来てもらっても構いませんよ。その他の方は、ここに待機してもらいますが」

「俺はルイス様の前には出せないって?」

ロキが不満げな顔でレオナルドを睨む。

「すまないが、ルイス陛下は大勢の人間を部屋に通すのを嫌がるんだ。ここで待てないなら、王女殿下もここから連れて行くことはできない」

ブラッドがレオナルドの代わりに答えると、ロキは面白くなさそうな顔で「あっそ」と横を向いた。

リブニケ人兵士たちは『女神ヘレナ』の美しさに見惚れていたが、残酷な命令を下したルイスを思い出すと途端にレナの身を案ずる。

「ヘレナ様……どうか早まらないでください……」

レナが命を張ってルイスを止めようとしているのだと分かり、その場にいた兵士たちがざわついた。

「早まらないわ、カイが守ってくれるもの」

レナが堂々と言うので、カイは横からレナの頬をつねって引っ張った。

「にゃにふゆもよ」

頬を引っ張られたまま文句を言うレナをカイは溜息まじりで見ていたが、ふうと一呼吸すると突然全員の目の前でレナに深めのキスをする。

「な、なにするのよ……」

完全に動揺してオロオロとするレナに、カイは「黙らせたかっただけだ」と小さく答えて歩き出した。

レナは突然の行為に動揺して暫く立ち尽くしてしまったが、部屋を出たカイとレオナルド、ブラッドの後を慌てて追いかける。
とうとう、ルイスに会う時がそこに来ていた。
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