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第10章 新しい力
後ろ髪は引かれない
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「ルイス王子が既に出兵してるなんて情報、どこにもなかったけど?」
「情報が漏れないように、慎重を期しているんだと思いますよ」
翌日、レオナルドが宿の部屋を訪れてきた。そこで持ち込まれた情報に、ロキは訝しげな表情を浮かべる。
どうやってレオナルドはルイスの情報を得ているのか、裏は無いのかと心配は尽きない。
「恐らく、ルイス様の連れて来たリブニケ王国の兵が無差別に侵略を始めるはずです。国内が荒れるかもしれない」
「思った以上に事態が悪い方に転がるんだな」
カイは身支度をしながら溜息をつくと、レオナルドを睨んだ。
隣の部屋にいるレナに聞かせずに済んで良かった。無差別な侵略など、レナが知ったらショックを受けるだろう。
「あの王女は、争いを見つけてしまうと止めに入らずにいられないタイプだぞ」
「さすがですね。この先の道中が大変だ」
レオナルドはにこにこ笑っていた。ここに来てもやはり他人事のようなスタンスは変わらない。
その様子を一瞥したロキは、帯剣しながら「いよいよか」と呟いた。
「争いに巻き込まれないように行きたいよね……シンだって、子どもが産まれる前に帰りたいだろ?」
「その割に、引っ張り出してくれたな」
「心苦しくはあったんだけどさ。あの人の護衛に一緒に入るのは、やっぱりシンと一緒が良いなって思って」
「へえ。光栄だ」
ロキと会話をしながら、シンは普段と変わらない様子で支度をしている。
「怒ってる?」
「いや、怒る要素なんてないだろ。戦火がブリステに及んだら、リリスが危ない。そうならないように足掻くのも仕事だって思ってるよ」
「騎士様だな、副団長」
「一市民なんだよ」
ロキとシンがそんな会話をしながら着々と準備を終えて行く間、カイはレオナルドの『気』を読んでいた。驚くほど、乱れのない一定の『気』を保っている。
(さすがに国王付きの間諜ともなると、『気』を保つ精神力が違うのか)
嘘をついて何かの計画に巻き込もうとした時、必ず人の『気』は乱れる。
但し、この間諜に限ってはそれだけで嘘を付いていないと判断するのは早計だ。
(信用しきれない相手と行動を共にするとはな)
カイは自分の準備を終えると、「レナの様子を見て来る」と言って部屋を出た。
「準備は整ったか? 大丈夫そうか?」
カイがレナの一人部屋を訪れると、レナは無邪気に喜んでカイに抱き付いた。
「準備は大丈夫よ。早く目が覚めてしまったから」
「そうか……昨日眠ったレナをこちらに移動させてしまったからな」
「やっぱり隣にカイがいないとダメね」
自然に唇を重ねると、「いよいよだな」とカイは覚悟を前に切なげな眼をレナに向ける。
レナが「もう一度」とせがむので、カイは身体を屈めて顔を下げた。
「あなたが倒れた時、分かったの。もう、誰かの大切な人の血を流させてはダメだって……」
「そう言うだろうと思っていた」
唇同士が軽く触れ合うと、徐々に触れる面を広げて深く繋がっていく。
離れる度に引き寄せられるように行為を繰り返した後、「もう、時間だ」とカイはレナの頭を抱きしめた。
「王女に戻ったら……手の届かないところに行ってしまうのか?」
カイはボソリと言うと、すぐに口に出したことを後悔する。
「王女に戻るようなことになっても、私の伴侶はあなたしかいないでしょ?」
当然のようにレナが言い切ったので、カイはレナを抱きしめながら小さく頷いた。
先のことは分からない。これから向かう場所は決して平和な場所ではない。
「王女でも平民でも、それがレナである限り……愛さずにはいられないのだろうな」
「……」
レナが何も言わないので、カイは不思議に思って顔を覗き込む。
「ご、ごめんなさい、そんなことあなたに言われるとは思わなくて……」
「困ったのか」
「意識が飛んだわ」
「しっかりしろ」
2人は額同士を付けて笑う。共に過ごせる日常を手放さなければならないことが、漠然と分かっていた。
「私も、カイのことしか好きになれないから」
「レナが心変わりをしているところなど想像がつかないな」
「……あなたに一途なのよ、ずっと」
最後に一度、軽く触れ合う。
「行くぞ」
「ええ」
カイはレナの荷物を担ぐと、手を繋いで部屋を出た。
扉を閉めて空っぽになった部屋を後にした時、カイの目の前で風が吹いた気がする。
向かい風か、追い風か。
(どんな風だろうが、操ってみせる)
意を決して隣のレナを見ると、いつかの強い目をカイに向け、静かに頷いていた。
「情報が漏れないように、慎重を期しているんだと思いますよ」
翌日、レオナルドが宿の部屋を訪れてきた。そこで持ち込まれた情報に、ロキは訝しげな表情を浮かべる。
どうやってレオナルドはルイスの情報を得ているのか、裏は無いのかと心配は尽きない。
「恐らく、ルイス様の連れて来たリブニケ王国の兵が無差別に侵略を始めるはずです。国内が荒れるかもしれない」
「思った以上に事態が悪い方に転がるんだな」
カイは身支度をしながら溜息をつくと、レオナルドを睨んだ。
隣の部屋にいるレナに聞かせずに済んで良かった。無差別な侵略など、レナが知ったらショックを受けるだろう。
「あの王女は、争いを見つけてしまうと止めに入らずにいられないタイプだぞ」
「さすがですね。この先の道中が大変だ」
レオナルドはにこにこ笑っていた。ここに来てもやはり他人事のようなスタンスは変わらない。
その様子を一瞥したロキは、帯剣しながら「いよいよか」と呟いた。
「争いに巻き込まれないように行きたいよね……シンだって、子どもが産まれる前に帰りたいだろ?」
「その割に、引っ張り出してくれたな」
「心苦しくはあったんだけどさ。あの人の護衛に一緒に入るのは、やっぱりシンと一緒が良いなって思って」
「へえ。光栄だ」
ロキと会話をしながら、シンは普段と変わらない様子で支度をしている。
「怒ってる?」
「いや、怒る要素なんてないだろ。戦火がブリステに及んだら、リリスが危ない。そうならないように足掻くのも仕事だって思ってるよ」
「騎士様だな、副団長」
「一市民なんだよ」
ロキとシンがそんな会話をしながら着々と準備を終えて行く間、カイはレオナルドの『気』を読んでいた。驚くほど、乱れのない一定の『気』を保っている。
(さすがに国王付きの間諜ともなると、『気』を保つ精神力が違うのか)
嘘をついて何かの計画に巻き込もうとした時、必ず人の『気』は乱れる。
但し、この間諜に限ってはそれだけで嘘を付いていないと判断するのは早計だ。
(信用しきれない相手と行動を共にするとはな)
カイは自分の準備を終えると、「レナの様子を見て来る」と言って部屋を出た。
「準備は整ったか? 大丈夫そうか?」
カイがレナの一人部屋を訪れると、レナは無邪気に喜んでカイに抱き付いた。
「準備は大丈夫よ。早く目が覚めてしまったから」
「そうか……昨日眠ったレナをこちらに移動させてしまったからな」
「やっぱり隣にカイがいないとダメね」
自然に唇を重ねると、「いよいよだな」とカイは覚悟を前に切なげな眼をレナに向ける。
レナが「もう一度」とせがむので、カイは身体を屈めて顔を下げた。
「あなたが倒れた時、分かったの。もう、誰かの大切な人の血を流させてはダメだって……」
「そう言うだろうと思っていた」
唇同士が軽く触れ合うと、徐々に触れる面を広げて深く繋がっていく。
離れる度に引き寄せられるように行為を繰り返した後、「もう、時間だ」とカイはレナの頭を抱きしめた。
「王女に戻ったら……手の届かないところに行ってしまうのか?」
カイはボソリと言うと、すぐに口に出したことを後悔する。
「王女に戻るようなことになっても、私の伴侶はあなたしかいないでしょ?」
当然のようにレナが言い切ったので、カイはレナを抱きしめながら小さく頷いた。
先のことは分からない。これから向かう場所は決して平和な場所ではない。
「王女でも平民でも、それがレナである限り……愛さずにはいられないのだろうな」
「……」
レナが何も言わないので、カイは不思議に思って顔を覗き込む。
「ご、ごめんなさい、そんなことあなたに言われるとは思わなくて……」
「困ったのか」
「意識が飛んだわ」
「しっかりしろ」
2人は額同士を付けて笑う。共に過ごせる日常を手放さなければならないことが、漠然と分かっていた。
「私も、カイのことしか好きになれないから」
「レナが心変わりをしているところなど想像がつかないな」
「……あなたに一途なのよ、ずっと」
最後に一度、軽く触れ合う。
「行くぞ」
「ええ」
カイはレナの荷物を担ぐと、手を繋いで部屋を出た。
扉を閉めて空っぽになった部屋を後にした時、カイの目の前で風が吹いた気がする。
向かい風か、追い風か。
(どんな風だろうが、操ってみせる)
意を決して隣のレナを見ると、いつかの強い目をカイに向け、静かに頷いていた。
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