亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
164 / 229
第10章 新しい力

人生で関わり合いたくない男

しおりを挟む
ロキの経営する飲食店に着くと、4人はレオナルドが訪れたというVIP用の個室に通されて詳しい話を聞くことになった。

「まず、その『リオ』の外見は?」
「細身で社長より少し背は低い印象ですね。黒に近い茶色の髪で、鋭い目をした方です」
「本人っぽいな」

ロキは従業員と話しながら、レオナルドが本当に自分と接触したがっているのだろうと確信した。

「その『リオ』は、『社長』と話したいと言ったんだな?」
「はい、最初は、ここの社長はロキと呼ばれている騎士かと尋ねられました」
「で?」
「その通りですと答えると、知人だから話がしたい、と」

「知人か……」

ロキはレオナルドと自分の関係を適切に説明できそうにない。

知人といえば知人なのかもしれないが、なんとなくお互いに好感度が高くない気がする。加えて、なるべく人生で関わり合いたくない人物だ。

「で、それを言われてなんて答えたの?」
「社長への伝言は承りますが、お返事はどうしましょうか? と申し上げました。すると、そのうち会えるから良いとおっしゃいまして……」
「……いちいち含みが多くて苛つくなあ」

ロキは従業員を下がらせて席に着いた。
4人はテーブル席でレオナルドとの接触をどうしたものかと話し合っている。

「こっちの行動が読まれているってことかな」
「こちらの動きを辿るためのルートを持っているのかもしれないな」
「じゃ、じっとしていれば向こうから現れてくれるんですかね?」
「暫く、ここにいればいいのかな?」

そんな話をしながら、狙いの分からないレオナルドに対して頭を抱えるばかりだった。
相手が暗殺専門の間諜というだけでも厄介で、現在いる国は戦時中だ。レオナルドはその中枢の情報を持っているに違いない。

「ねえ、カイ。気分転換に、街を歩かない?」

全員が静かになったところで、急にレナが口を開く。
こんな時にこそ、部屋で考えていても仕方がないかもしれない。

「そうだな……」

カイが席から立ち上がると、すかさず、
「俺も行く」
とロキが当然のように言った。

「……街を歩くというのは、みんなでワイワイすることじゃないぞ」
「ここで2人っきりになって浮かれられたら、あの間諜に刺されかねないと思ってさ」
「……」

レナは恥ずかしそうに俯いていた。すぐに態度に出てしまうらしい。

「それに、今のカイ・ハウザーは普段とは違う」
「それはそうだが……」
「ロキが行くなら俺も行きますよ」

結局、4人での外出が決定した。
ぞろぞろと個室を出て飲食店を後にする。ロキの本社のある街に比べたら人は少ないが、人通りは途切れない程度にある。

でこぼことした石畳の敷かれた道は、徒歩の足には優しくない。時折つまずきそうになりながら歩くレナを、カイが咄嗟に支えた。

「歩きづらそうだな」
「こういう道は、慣れていないのもあるわね」

レナが困ったように笑う。カイはなるべく急がせないように歩幅を狭めてゆっくりと歩いた。

「ご無事でなによりですね」

不意にレナの後ろで声がする。その場に緊張が走った。

カイ、シン、ロキの3人は素早く振り向き、その人物を捉える。
何事だろうとレナもゆっくり後ろを向いた。

「お久しぶりです。僕の妹ってことになってるんでしたっけ?」

そこには、目の奥が笑っていない笑顔を貼り付けた、あの男が立っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...