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第9章 知ってしまったから
危険であることに変わりはない
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マルセルを含めたブリステ公国兵が駐屯地に戻ってきた時、兵士たちには暗い雰囲気が漂っていた。
味方だと信頼していた者たちが何名か、買収されていたのかポテンシアの間諜だったのか。
裏切られた衝撃と味方に対する信頼が揺らいだことは、普段以上に兵士たちを疲弊させている。
たったの一名だけ、生かしたまま拘束ができた。他の兵士は何名かの命の犠牲と共に亡くなっていた。
「お姫様の様子はどうだ?」
マルセルが救護班に尋ねると、誰もが既に回復していると言う。マルセルは眉をひそめてその報告を聞くと、カイのテントに向かった。
「マルセル・レヴィだ。お姫様の様子を窺いに来た」
マルセルの声を聞いて、中から出て来たのはレナだった。
「うわっ・・。な、なんだい?」
衣服が血だらけになっているのにまるで普通の様子で現れたレナに、マルセルはたじろぐ。
「マルセルには、今のカイのことをお伝えしておきたいの・・」
レナはそう言うと、マルセルをテントの中に通した。
(これは案外、困った事態になったな・・)
マルセルはカイのテントの中から出てくると、頭が痛いなと溜息をつく。
カイが自分の術に倒れてしまった。それも、レナの命を救うために。
この事態を知られて、自国軍兵士たちがレナに対して手を出そうとしない保証はない。ただでさえ仲間の裏切りに遭い気が立っている中、か弱い女性が一人だけで誰にも守られずに存在しているというのはあまりに危険だ。
ストレスの捌け口か、欲の捌け口を探している者には格好の獲物に見えてしまうだろう。
マルセルは、カイと約束をしていた。「レナの安全を守る」、と。
(仕方がないな。私の勝手ですまないが・・あの男を頼るよ)
マルセルは、書簡を仕上げて部下をその男の元に向かわせることにした。
*
夕食の時間、駐屯地にいつものカイの姿は無かった。レナが一人で食事をしており、普段以上に無防備さが目立つ。
マルセルの懸念通り、何名かは明らかに彼女に特別な視線を送っているようだ。
それが分かったマルセルは、レナの隣に腰かけてなるべく周りを牽制した。
「お姫様・・あなたがここに一人でいるのは、少々都合が悪いようだ」
「それは・・どうして?」
「荒れた地に一輪だけ花が咲けば、誰もが惹かれ、気になるだろう? 普段は誰からも恐れられているカイ・ハウザーが傍にいたから良かったが・・」
マルセルの言葉に、レナは無言で頷いた。今日一日程度であれば姿を消していれば逃げられるかもしれないが、四六時中姿を消したまま生活することが可能だとは思えない。
「明日あたり、新たな過保護が現れるだろうと思っているけど、さて、どうかな?」
「どういうこと?」
レナが不思議そうにマルセルを見ると、マルセルは楽しそうに笑った。
「こういう時こそ、君を連れて来た男が丁度いいだろうと思ったんだよ」
味方だと信頼していた者たちが何名か、買収されていたのかポテンシアの間諜だったのか。
裏切られた衝撃と味方に対する信頼が揺らいだことは、普段以上に兵士たちを疲弊させている。
たったの一名だけ、生かしたまま拘束ができた。他の兵士は何名かの命の犠牲と共に亡くなっていた。
「お姫様の様子はどうだ?」
マルセルが救護班に尋ねると、誰もが既に回復していると言う。マルセルは眉をひそめてその報告を聞くと、カイのテントに向かった。
「マルセル・レヴィだ。お姫様の様子を窺いに来た」
マルセルの声を聞いて、中から出て来たのはレナだった。
「うわっ・・。な、なんだい?」
衣服が血だらけになっているのにまるで普通の様子で現れたレナに、マルセルはたじろぐ。
「マルセルには、今のカイのことをお伝えしておきたいの・・」
レナはそう言うと、マルセルをテントの中に通した。
(これは案外、困った事態になったな・・)
マルセルはカイのテントの中から出てくると、頭が痛いなと溜息をつく。
カイが自分の術に倒れてしまった。それも、レナの命を救うために。
この事態を知られて、自国軍兵士たちがレナに対して手を出そうとしない保証はない。ただでさえ仲間の裏切りに遭い気が立っている中、か弱い女性が一人だけで誰にも守られずに存在しているというのはあまりに危険だ。
ストレスの捌け口か、欲の捌け口を探している者には格好の獲物に見えてしまうだろう。
マルセルは、カイと約束をしていた。「レナの安全を守る」、と。
(仕方がないな。私の勝手ですまないが・・あの男を頼るよ)
マルセルは、書簡を仕上げて部下をその男の元に向かわせることにした。
*
夕食の時間、駐屯地にいつものカイの姿は無かった。レナが一人で食事をしており、普段以上に無防備さが目立つ。
マルセルの懸念通り、何名かは明らかに彼女に特別な視線を送っているようだ。
それが分かったマルセルは、レナの隣に腰かけてなるべく周りを牽制した。
「お姫様・・あなたがここに一人でいるのは、少々都合が悪いようだ」
「それは・・どうして?」
「荒れた地に一輪だけ花が咲けば、誰もが惹かれ、気になるだろう? 普段は誰からも恐れられているカイ・ハウザーが傍にいたから良かったが・・」
マルセルの言葉に、レナは無言で頷いた。今日一日程度であれば姿を消していれば逃げられるかもしれないが、四六時中姿を消したまま生活することが可能だとは思えない。
「明日あたり、新たな過保護が現れるだろうと思っているけど、さて、どうかな?」
「どういうこと?」
レナが不思議そうにマルセルを見ると、マルセルは楽しそうに笑った。
「こういう時こそ、君を連れて来た男が丁度いいだろうと思ったんだよ」
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