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第9章 知ってしまったから
運命を感じて
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カイが単騎で駐屯地に戻ると、残っていた数名の救護班が駆け付ける。
「矢を抜きたい。清潔な布と刃物、それから湯を用意しろ。治療は俺がやる」
カイが指示をしながらクロノスから下馬し自分のテントに向かって歩いていると、走って来た兵士たちに布と刃物を渡された。
「湯は、後ほどお持ちします」
「助かる」
カイは清潔な布の上にレナを支えながら座らせるように置くと、矢尻の部分を手で捥いで匂いを嗅ぎ毒の有無を確かめる。
(丁寧に神経毒まで塗ったか・・)
舌打ちをしながら、矢を巻き込んでいる服の布地を軽くナイフで裂き、服を脱がせた。
矢を抜くために肌に刃物を立てなければならないことにも、矢が刺さった様子にも、カイは一度目を瞑って奥歯を噛み締める。
戦いの場に似つかわしくない白い透明感を持つ肌が、血で真っ赤に汚れていた。
「すまない、少しの間、痛むぞ」
肩で息をしながら意識を失っているレナに話しかける。
口に小さく裂いた布を咥えさせ、カイの肩に顔を乗せた。
矢の刺さった背中側にアルコール濃度の高い酒で消毒をしたナイフを当て、勢いよく矢を引き抜く。
レナの身体が痛みに跳ねるように揺れた。
続けて傷口が開く脇腹に口を当て、毒を吸い出す。同じことを四回ほど繰り返すと、毒の味が混じらなくなった。
(こんなことを・・経験などさせたくなかった・・)
傷口から勢いよく血が湧き出てくる。額に汗をかいているレナの身体は徐々に体温を失い始めていた。
「ハウザー様、湯をお持ちしました」
「入口すぐのところに置いておいてくれ。ありがとう」
カイは覚悟を前に、ふっと表情を和らげる。
(きっと、これが運命だった。このために、俺はレナに出会って惹かれたに違いない)
こんなことになって初めて、カイは父親がなぜ母親を救おうとして命を落としたかが理解できた。
目の前で愛する者を失うことに比べれば、自分に救う可能性があることが、どれだけ希望なのか。
それが例え自分を犠牲にすることであっても、選ばずにいられない道なのだということが。
「レナ・・」
荒い息をするレナの口から先ほど咥えさせた布を取り除くと、唇に自身の唇を重ねた。カイの口についていた血が、レナの唇を染める。
「こんなタイミングでしか応えられなかったとなれば、レナは怒るだろうな・・」
何度も、レナが望んでいた行為だった。ずっとはぐらかしてしまったことが心残りになりそうだ。
血の溢れ出る傷口に布を当て、手を添える。カイの中にある『気』をその手に集中させると、レナの身体の中に向かって『気』を放出した。
(まずい・・持たない・・)
レナの身体に布を掛けたり、汗を拭わなければ、とカイは必死に意識を取り戻そうとした。が、大きな気流が2人を包みだすと、身体から『気』を放出したカイは、意識を保つことができない。
カイはそのまま、レナに覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。
「矢を抜きたい。清潔な布と刃物、それから湯を用意しろ。治療は俺がやる」
カイが指示をしながらクロノスから下馬し自分のテントに向かって歩いていると、走って来た兵士たちに布と刃物を渡された。
「湯は、後ほどお持ちします」
「助かる」
カイは清潔な布の上にレナを支えながら座らせるように置くと、矢尻の部分を手で捥いで匂いを嗅ぎ毒の有無を確かめる。
(丁寧に神経毒まで塗ったか・・)
舌打ちをしながら、矢を巻き込んでいる服の布地を軽くナイフで裂き、服を脱がせた。
矢を抜くために肌に刃物を立てなければならないことにも、矢が刺さった様子にも、カイは一度目を瞑って奥歯を噛み締める。
戦いの場に似つかわしくない白い透明感を持つ肌が、血で真っ赤に汚れていた。
「すまない、少しの間、痛むぞ」
肩で息をしながら意識を失っているレナに話しかける。
口に小さく裂いた布を咥えさせ、カイの肩に顔を乗せた。
矢の刺さった背中側にアルコール濃度の高い酒で消毒をしたナイフを当て、勢いよく矢を引き抜く。
レナの身体が痛みに跳ねるように揺れた。
続けて傷口が開く脇腹に口を当て、毒を吸い出す。同じことを四回ほど繰り返すと、毒の味が混じらなくなった。
(こんなことを・・経験などさせたくなかった・・)
傷口から勢いよく血が湧き出てくる。額に汗をかいているレナの身体は徐々に体温を失い始めていた。
「ハウザー様、湯をお持ちしました」
「入口すぐのところに置いておいてくれ。ありがとう」
カイは覚悟を前に、ふっと表情を和らげる。
(きっと、これが運命だった。このために、俺はレナに出会って惹かれたに違いない)
こんなことになって初めて、カイは父親がなぜ母親を救おうとして命を落としたかが理解できた。
目の前で愛する者を失うことに比べれば、自分に救う可能性があることが、どれだけ希望なのか。
それが例え自分を犠牲にすることであっても、選ばずにいられない道なのだということが。
「レナ・・」
荒い息をするレナの口から先ほど咥えさせた布を取り除くと、唇に自身の唇を重ねた。カイの口についていた血が、レナの唇を染める。
「こんなタイミングでしか応えられなかったとなれば、レナは怒るだろうな・・」
何度も、レナが望んでいた行為だった。ずっとはぐらかしてしまったことが心残りになりそうだ。
血の溢れ出る傷口に布を当て、手を添える。カイの中にある『気』をその手に集中させると、レナの身体の中に向かって『気』を放出した。
(まずい・・持たない・・)
レナの身体に布を掛けたり、汗を拭わなければ、とカイは必死に意識を取り戻そうとした。が、大きな気流が2人を包みだすと、身体から『気』を放出したカイは、意識を保つことができない。
カイはそのまま、レナに覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。
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