亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第9章 知ってしまったから

覚悟に向けて

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「リブニケ兵かポテンシア兵を1人くらい捕まえて、事情や状況を把握しないと動き方が難しいな」

カイと隣り合って馬に乗るマルセルが溜息交じりに言う。マルセルの肩まで延びた赤毛が、サラサラと風に靡いていた。

ポテンシア王国内で内戦が起きて以降、ブリステ公国軍は出方を決めかねていた。隣国のポテンシア王国では、ルイス王子による内乱に協力をしているもうひとつの隣国、リブニケ王国の存在がある。

争いの中に積極的に入っていくのは得策ではないと知りつつも、リブニケ兵がブリステに攻めて来ている以上、策を講じないわけにはいかない。

「ポテンシア国王とルイス王子の戦況も、まだはっきり見えていないだろう」
「そうだな。ルイス王子が押しているらしいが、あの国王が負けるとはとても思えない」

マルセルとカイは国境付近に現れるリブニケ国軍に向けて今日も兵を進めている。
後方支援部隊のところに居るレナは、朝から気分が乗らないようだった。カイはそちらもずっと気がかりになっている。

「マルセル、縁起でもないことを言っていいか・・?」
「はは。君が言うと、洒落にならない」

マルセルはカイをじろりと見て口元だけで笑う。

「この先、俺の身に何かあったらレナを頼む。彼女は、切り札になる可能性がある。無事に・・この兵の誰にも余計な手を出させずに、彼女を保護してくれないか・・」

カイがまっすぐ前を向いたまま言った。スウの予言が当たったら、他にもう手がないと判断したのだ。

「なるほどね。まあ、確約はできないけど・・他国王家の血を穢すような兵士がうちにいたと思われたくないからな。そこは、なんとかしてやろう。まさか、そこまで君が覚悟しているなんて、意外だ」

マルセルは、初めてカイが弱気の発言をしているのを聞いた。5年以上の付き合いになるが、いつでもカイは命知らずで決して死を思わせるような発言などしていなかったのだ。

「覚悟か・・。今迄は、この命がどうなろうが、そこまでの運だと思っていただけだ。残す家族も恋人もいなければ、いつ死んでもいいと・・。本来、大切なものなど、作るべきではないと思っていた」
「揺らいだのか、信念のようなものが」

マルセルに言われ、カイは少しだけ考える。

(信念、か・・そんな大層なものではないだろうな)

「想定外だっただけだ。彼女のことは」
「まあ、そんなものだ。大抵の事は」

マルセルはそう言って、隣にいるカイに笑った。

「それが分かった君と、もう少し仕事を成し遂げてみたいけどな」

マルセルが冗談とも本気とも取れる口調で言うと、カイは小さく笑う。

「覚えておこう」

カイは前を見据えると、昨日リブニケ兵と対峙した場所が近付いていた。
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