132 / 229
第9章 知ってしまったから
覚悟に向けて
しおりを挟む
「リブニケ兵かポテンシア兵を1人くらい捕まえて、事情や状況を把握しないと動き方が難しいな」
カイと隣り合って馬に乗るマルセルが溜息交じりに言う。マルセルの肩まで延びた赤毛が、サラサラと風に靡いていた。
ポテンシア王国内で内戦が起きて以降、ブリステ公国軍は出方を決めかねていた。隣国のポテンシア王国では、ルイス王子による内乱に協力をしているもうひとつの隣国、リブニケ王国の存在がある。
争いの中に積極的に入っていくのは得策ではないと知りつつも、リブニケ兵がブリステに攻めて来ている以上、策を講じないわけにはいかない。
「ポテンシア国王とルイス王子の戦況も、まだはっきり見えていないだろう」
「そうだな。ルイス王子が押しているらしいが、あの国王が負けるとはとても思えない」
マルセルとカイは国境付近に現れるリブニケ国軍に向けて今日も兵を進めている。
後方支援部隊のところに居るレナは、朝から気分が乗らないようだった。カイはそちらもずっと気がかりになっている。
「マルセル、縁起でもないことを言っていいか・・?」
「はは。君が言うと、洒落にならない」
マルセルはカイをじろりと見て口元だけで笑う。
「この先、俺の身に何かあったらレナを頼む。彼女は、切り札になる可能性がある。無事に・・この兵の誰にも余計な手を出させずに、彼女を保護してくれないか・・」
カイがまっすぐ前を向いたまま言った。スウの予言が当たったら、他にもう手がないと判断したのだ。
「なるほどね。まあ、確約はできないけど・・他国王家の血を穢すような兵士がうちにいたと思われたくないからな。そこは、なんとかしてやろう。まさか、そこまで君が覚悟しているなんて、意外だ」
マルセルは、初めてカイが弱気の発言をしているのを聞いた。5年以上の付き合いになるが、いつでもカイは命知らずで決して死を思わせるような発言などしていなかったのだ。
「覚悟か・・。今迄は、この命がどうなろうが、そこまでの運だと思っていただけだ。残す家族も恋人もいなければ、いつ死んでもいいと・・。本来、大切なものなど、作るべきではないと思っていた」
「揺らいだのか、信念のようなものが」
マルセルに言われ、カイは少しだけ考える。
(信念、か・・そんな大層なものではないだろうな)
「想定外だっただけだ。彼女のことは」
「まあ、そんなものだ。大抵の事は」
マルセルはそう言って、隣にいるカイに笑った。
「それが分かった君と、もう少し仕事を成し遂げてみたいけどな」
マルセルが冗談とも本気とも取れる口調で言うと、カイは小さく笑う。
「覚えておこう」
カイは前を見据えると、昨日リブニケ兵と対峙した場所が近付いていた。
カイと隣り合って馬に乗るマルセルが溜息交じりに言う。マルセルの肩まで延びた赤毛が、サラサラと風に靡いていた。
ポテンシア王国内で内戦が起きて以降、ブリステ公国軍は出方を決めかねていた。隣国のポテンシア王国では、ルイス王子による内乱に協力をしているもうひとつの隣国、リブニケ王国の存在がある。
争いの中に積極的に入っていくのは得策ではないと知りつつも、リブニケ兵がブリステに攻めて来ている以上、策を講じないわけにはいかない。
「ポテンシア国王とルイス王子の戦況も、まだはっきり見えていないだろう」
「そうだな。ルイス王子が押しているらしいが、あの国王が負けるとはとても思えない」
マルセルとカイは国境付近に現れるリブニケ国軍に向けて今日も兵を進めている。
後方支援部隊のところに居るレナは、朝から気分が乗らないようだった。カイはそちらもずっと気がかりになっている。
「マルセル、縁起でもないことを言っていいか・・?」
「はは。君が言うと、洒落にならない」
マルセルはカイをじろりと見て口元だけで笑う。
「この先、俺の身に何かあったらレナを頼む。彼女は、切り札になる可能性がある。無事に・・この兵の誰にも余計な手を出させずに、彼女を保護してくれないか・・」
カイがまっすぐ前を向いたまま言った。スウの予言が当たったら、他にもう手がないと判断したのだ。
「なるほどね。まあ、確約はできないけど・・他国王家の血を穢すような兵士がうちにいたと思われたくないからな。そこは、なんとかしてやろう。まさか、そこまで君が覚悟しているなんて、意外だ」
マルセルは、初めてカイが弱気の発言をしているのを聞いた。5年以上の付き合いになるが、いつでもカイは命知らずで決して死を思わせるような発言などしていなかったのだ。
「覚悟か・・。今迄は、この命がどうなろうが、そこまでの運だと思っていただけだ。残す家族も恋人もいなければ、いつ死んでもいいと・・。本来、大切なものなど、作るべきではないと思っていた」
「揺らいだのか、信念のようなものが」
マルセルに言われ、カイは少しだけ考える。
(信念、か・・そんな大層なものではないだろうな)
「想定外だっただけだ。彼女のことは」
「まあ、そんなものだ。大抵の事は」
マルセルはそう言って、隣にいるカイに笑った。
「それが分かった君と、もう少し仕事を成し遂げてみたいけどな」
マルセルが冗談とも本気とも取れる口調で言うと、カイは小さく笑う。
「覚えておこう」
カイは前を見据えると、昨日リブニケ兵と対峙した場所が近付いていた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる