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第9章 知ってしまったから

傍にいること

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カイとレナはテントに入り、固い地面に身体を預けていた。2人は並んで横になっている。

「やっぱり、悪い予感がするの」

暗がりの中、お互いの顔もはっきりとは見えていないが、相手がまだ起きているのは分かる。周囲はすっかり静かになっていた。時折、遠くでピイピイ、キイキイなどと鳴く生き物の声が聞こえ、かえって夜の静けさを強調する。

「スウの予言に影響を受けすぎるな。あの爺さんが、敵に雇われている可能性だってあるんだぞ」
「そうだけど、スウはカイを心から心配してたわ。あれが嘘かそうじゃないかくらい、私には分かる」

レナはそう言うと深く息を吸い込んで、吐き切った。

「戦争に来て殺し合いの場に進んで飛び込んでいるのに、あなたが傷つくのを怖がるなんて、おかしいって思ってる?」

レナがポツリと尋ねると、カイは無言で首を振った。

「誰だって、大切なものを失うと思えば怖いものだ。だからこそ、こんなところにレナを呼びたくなかった。俺は、レナが傷を負うのだけは耐えられそうにない。誰だって、自分よりも愛する者が傷つく方が辛い」
「そうよ。あなたが傷ついたら、私だって辛くて傷つくわ。だから、自分を大切にして」

そう来たか、とカイは苦笑してレナを見つめる。暗がりの中でも、レナの透き通った目が光り、自分を見つめているのが分かる。

「この生き方を選んだのは、過去の自分だ。戦いの場に身を置くことが分かっていてレナを求めてしまったのは・・愚かとしか言いようがない気がしている」
「何を言っているの? 過去の自分があっての、今よ」

レナが強く言って身体を起こす。起き上がってカイの側に寄り、暗がりの中にある顔をじっと見つめた。

「私は、あなたに出会えて本当に良かった。選択には結果が付きまとうけれど、何が起きても絶対に後悔しないわ」

カイはすぐ傍にあるレナの顔を見つめて、その言葉に訝し気な表情を作る。

「絶対になんて、言い切れるのか?」
「他の道を選んでも何かしらの結果が起きるから・・その時の最善を選んだことを、認めるべきよ」

カイはふっと表情を崩した。

「やはり・・レナは強いな」
「そんなこと無いわ。私は、常に判断と決断を求められてきたから、そう思うしかないって知っているだけよ」

レナは当たり前のように後悔などしないと言い切ったが、カイは既に何度も後悔をしていた。命を張る仕事で名を上げていたからこそ以前レナに雇われたのに、こんな仕事に就いているせいで大切なものを守れないのだと悔やんでいた。

「レナに、頼みがある」
「ええ、どうぞ」
「俺が後悔しそうになったら・・。いや、決断に自信を無くしたら、また同じように傍にいてくれないか?」
「お安い御用よ。いくらでも、あなたの傍にいてあげるわ」

2人は、暗がりの中で見つめ合っている。身体を起こしているレナは、静かに身体を沈めながら顔をカイに近付けると目を閉じて待った。
そのレナの、口よりほんの少し右側に逸れた場所にカイの唇が触れる。

(・・う、うーん・・やっぱり・・)

目を瞑ったレナの表情は、心なしか険しい。

「いくらでも傍に、か。約束は守れよ」

耳元で、不意に苦しそうな声が漏れた。レナは思わず目を見開き、カイの表情を確認しようとする。そのレナの目を避けるように、カイは横を向いていた。

「疲れを残しては大変だ。早く寝るぞ」

カイはそう言うと、レナを自分の脇に抱き寄せ横になった。
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