121 / 229
第8章 戦場に咲く一輪の花
対呪詛作戦会議
しおりを挟む
その日、初めてレナはカイと共に作戦会議に参加した。
「兵士の方たちが呪いに倒れたのは、どういうことが起きた時だったの?」
レナがカイに尋ねると、カイは呪いに倒れた兵士の方を見て説明しろと目で訴えた。
「は、はい。何が起きたのかは全く覚えていません。ただ、前進していたら、突然意識がなくなったのか、途中からの記憶が曖昧になって・・」
「私も、同じようなものです。どんなことが起きたのかも全く・・」
実際に呪いを受けた兵士たちは自分の身に何が起きたのか全く分からないまま、いつの間にか呪われていたのだと口々に言った。
「側で、はっきりと異変に気付いた者もいないんだ・・。俺も近くにいたが、突然何人かから異様な声が発せられて、明らかにその人間の『気』が変わったのを見た。どう思う?」
カイはレナに意見を求めた。レナが呪いの本質を知っているとは思えなかったが、何か気付くことがあるかもしれない。
「実際に呪いが掛かったのは5名だったわね? その他の人たちは、何でも無かったの?」
「ああ・・実は・・呪いではないんだが、丁度その現象が起きたのが、酷い場所でな・・。何名かは嘔吐や気分を害して倒れた者もいる」
「酷い場所・・?」
レナが不思議そうに首を傾げると、カイは言いづらそうに詰まっていた。
「腐敗した大層な遺体がいっぱいあったのさ、お姫様」
マルセルが横から口を開いた。カイはマルセルを軽く睨む。
「恐らく、ポテンシア兵同士が争った跡だろう。無数の・・亡骸がその場に転がっていた。むせかえる臭いで気分が悪くなるのは仕方がない。確かに、その地の『気』も酷く淀んでいた」
「そう・・じゃあ、それが原因なんじゃないかしら」
レナはそう言って考え込む。
「やっぱり、その亡くなった人たちの『念』が呪詛になっている気がするのよ」
「前に言っていたやつか」
「確かめてみたいから、その、呪いの影響が起きた場所まで行ってみたい」
「いや・・あれは、レナに見せたい場所じゃない」
カイは、目にした光景を思い出し、レナには刺激が強すぎることを心配した。戦場を何度か経験した兵士ですら気分を害した光景に、農業国で平和な世界を見て来たレナが耐えられるとは思えない。
「まあ、お姫様が行きたいって言ってんだから、近くまで行ってみようか?」
マルセルは何でもない事のように言った。カイは明らかに不満そうな顔でマルセルを睨む。
「だって、このまま何の対策もしないでまた味方の兵士が呪われたら、どうするんだ?」
「そうなったら・・また・・」
「対策しないと、味方同士で争わなきゃいけなくなるんでしょ?」
レナの言葉に、カイは項垂れる。こうなった時のレナは強情で梃子でも動かないのだ。カイは、レナに余計な傷を負わせたくなかった。
「大丈夫よ、カイ。あなたが側にいるもの」
そう言って笑うレナに、カイは胸が締め付けられる。
「無理だと思ったら、言うんだぞ・・?」
「ええ、分かったわ」
レナはそう言うと、カイの方を見て軽く目を閉じ、顎を上げている。
(ん・・?)
カイは突然レナが目を閉じて目の前にいることに首を傾げたが、ああそうかと気付いてレナの額に口付けた。
(おでこ・・)
レナは目を開くと口をすぼめて頬を膨らませ、明らかに不満そうにしている。カイはそんなレナの様子に全く気付いていなかった。
「兵士の方たちが呪いに倒れたのは、どういうことが起きた時だったの?」
レナがカイに尋ねると、カイは呪いに倒れた兵士の方を見て説明しろと目で訴えた。
「は、はい。何が起きたのかは全く覚えていません。ただ、前進していたら、突然意識がなくなったのか、途中からの記憶が曖昧になって・・」
「私も、同じようなものです。どんなことが起きたのかも全く・・」
実際に呪いを受けた兵士たちは自分の身に何が起きたのか全く分からないまま、いつの間にか呪われていたのだと口々に言った。
「側で、はっきりと異変に気付いた者もいないんだ・・。俺も近くにいたが、突然何人かから異様な声が発せられて、明らかにその人間の『気』が変わったのを見た。どう思う?」
カイはレナに意見を求めた。レナが呪いの本質を知っているとは思えなかったが、何か気付くことがあるかもしれない。
「実際に呪いが掛かったのは5名だったわね? その他の人たちは、何でも無かったの?」
「ああ・・実は・・呪いではないんだが、丁度その現象が起きたのが、酷い場所でな・・。何名かは嘔吐や気分を害して倒れた者もいる」
「酷い場所・・?」
レナが不思議そうに首を傾げると、カイは言いづらそうに詰まっていた。
「腐敗した大層な遺体がいっぱいあったのさ、お姫様」
マルセルが横から口を開いた。カイはマルセルを軽く睨む。
「恐らく、ポテンシア兵同士が争った跡だろう。無数の・・亡骸がその場に転がっていた。むせかえる臭いで気分が悪くなるのは仕方がない。確かに、その地の『気』も酷く淀んでいた」
「そう・・じゃあ、それが原因なんじゃないかしら」
レナはそう言って考え込む。
「やっぱり、その亡くなった人たちの『念』が呪詛になっている気がするのよ」
「前に言っていたやつか」
「確かめてみたいから、その、呪いの影響が起きた場所まで行ってみたい」
「いや・・あれは、レナに見せたい場所じゃない」
カイは、目にした光景を思い出し、レナには刺激が強すぎることを心配した。戦場を何度か経験した兵士ですら気分を害した光景に、農業国で平和な世界を見て来たレナが耐えられるとは思えない。
「まあ、お姫様が行きたいって言ってんだから、近くまで行ってみようか?」
マルセルは何でもない事のように言った。カイは明らかに不満そうな顔でマルセルを睨む。
「だって、このまま何の対策もしないでまた味方の兵士が呪われたら、どうするんだ?」
「そうなったら・・また・・」
「対策しないと、味方同士で争わなきゃいけなくなるんでしょ?」
レナの言葉に、カイは項垂れる。こうなった時のレナは強情で梃子でも動かないのだ。カイは、レナに余計な傷を負わせたくなかった。
「大丈夫よ、カイ。あなたが側にいるもの」
そう言って笑うレナに、カイは胸が締め付けられる。
「無理だと思ったら、言うんだぞ・・?」
「ええ、分かったわ」
レナはそう言うと、カイの方を見て軽く目を閉じ、顎を上げている。
(ん・・?)
カイは突然レナが目を閉じて目の前にいることに首を傾げたが、ああそうかと気付いてレナの額に口付けた。
(おでこ・・)
レナは目を開くと口をすぼめて頬を膨らませ、明らかに不満そうにしている。カイはそんなレナの様子に全く気付いていなかった。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】出来損ないと罵られ続けた“無能な姫”は、姉の代わりに嫁ぐ事になりましたが幸せです ~あなた達の後悔なんて知りません~
Rohdea
恋愛
──隠されていた私の真実(ほんとう)の力はあなたに愛されて知りました。
小国の末姫、クローディアは、王族なら誰もが持つはずの特殊能力を授からなかったせいで、
誰からも愛されず“無能な姫”と罵られて来た。
そんなある日、大国の王から姉に縁談話が舞い込む。
王妃待遇だけど後妻、年齢も親子ほど離れている為、
泣いて嫌がった姉は自分の身代わりとしてクローディアを嫁がせればいいと言う。
反発するクローディア。
しかし、国としてクローディアは身代わりとして嫁ぐ事が決定してしまう。
罪悪感に苛まれたまま、大国に嫁いでいくクローディア。
しかし、何故かそんなクローディアを出迎えたのは……
(あれ? 私、後妻になるのでは??)
それだけでなく、嫁ぎ先での生活は想像したものと大きく違っていた。
嫁いだ先でクローディアは愛される事を知り、
また、自分に隠された真実(ほんとう)の力を知る事になる。
一方、何も知らず“無能な姫”だと言ってクローディアを手放した祖国の者達は──……
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる