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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

経営者の決断

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ロキはシンから届いた書簡を読みながら、何度か溜息をついた。ハウザー騎士団も、とうとう本格的にポテンシアの戦地へ入ることになったらしい。ロキに参加の義務はないが、参加する場合の条件や報酬が記されていた。

(あーあ。こんな報酬で命を張らされるんだもんなあ)

ロキは、報酬目当てで騎士団に籍を置いているわけではない。本業で生活には困っていないし、この手の仕事は請けないのが通常だった。

ただ、レナを戦地に連れて行くとなると護衛の面でも騎士団の一行と共に行動する方が都合は良いのだろう。その際に自分が行かないという選択肢は考えられないが、記載された条件で戦地に入るのは何となくプライドが許さない。

ロキはレナに伝えるべきか迷っていた。この事実を伝えたら、絶対に行きたいと言いだすはずだからだ。

カイに会いたいからなのか、全く恐れを持たずに危険な場所に行こうとするレナに、ロキはずっと頭を痛めてきた。

一方で、ロキはレナに事実を隠すのは、もっと違うのだろうと思う。自分を頼ってカイのところへ駆け付けたがった以上、それに応えるのもロキの役目なのだと理解している。

レナがいる毎日は、ロキにとって夢のようだった。もともと身分が違い過ぎると分かっていながら、叶わない想いを寄せていた相手だ。この日常を手放すことが、ロキはどうしても惜しい。

「カミラ」
「はい」

ロキは、秘書にこの先に控える自分のスケジュールを読み上げさせた。

「分かった。じゃあ、その予定を全て2週間後ろにずらしておいてくれる? 5日後、ハウザー騎士団の連中と一緒に彼女を連れて駐屯地に向かう。戦地に入るつもりもないし、長居なんて専らごめんだから、2週間で全てを終わらせる」
「ロキウィズ! レナさんのためにそこまでする必要があるんですか?」
「あるよ」

ハッキリと言い切った冷たい目のロキを見て、カミラは固まった。
「かしこまりました・・」
「うん、よろしく」

ロキは無駄のないやり取りを好む。カミラは、出過ぎた発言をしてしまった自分を責めた。
ロキの元を訪ねて来たレナという女性は、カイ・ハウザーの恋人らしい。カミラはそれを聞いたときに安堵したが、ロキがそんなレナに惹かれていることが分かると、ずっと納得できずに過ごしていた。

カミラは、ロキとカイの心を奪っているレナという女性が特別な美貌を備えているわけでも、何か不思議な魅力を持っているようにも思えない。素朴で幼く苦労すら知らなそうに見えるレナを目に入れると、カミラは嫉妬をしない日は無かった。

こんな女性に、ロキは必死になっているのだ。カイ・ハウザーの恋人だというのに。
カミラは会社の庭でベンチに座って何かを口ずさんでいるらしいレナを一瞥し、ロキのスケジュール調整に奔走する。ふと、耳を掠めた歌声が、懐かしい音を紡いでいることに気付いた。

カミラが、駆け出しの女優だった頃、何度も練習をした歌だ。

(あんなに、優しくて美しい音色だったかしら・・)

カミラの知っている曲が、全く別の響きを持って庭に生まれているようだった。カミラはふと昔を思い出す。次の瞬間には、もう戻りたい時代などないはずだと、その場からすぐに立ち去った。
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