亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

VIP

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劇場に到着すると、以前カイが行っていた予約手続きなどは一切なく、裏動線のような入口を案内され、人目に付かないよう中に通される。

到着したのは舞台の脇にある個室席だった。その個室は窓のように覗き穴空いており、そこから観劇ができる仕組みらしい。

「こんな席があるの・・?」
レナが驚いて個室の中を見回す。

「いわゆるVIP席ってやつだよ。いちいち他人の目に晒されながら観劇なんかしてられないからね」
ロキはそう言って、席を案内した係に飲み物と軽食をオーダーしている。レナが以前カイと訪れた席では飲食はできないことになっていたはずだ。

すぐにスパークリングの果実酒と、軽食のセットが運ばれてきた。レナとロキはそれを一人分ずつ受け取ると、乾杯をする。

「この席に、あんたと一緒にいるっていうのは不思議だな」
「今まで散々、色々な女性と来ているんでしょうね」
「一応聞いておくけど、嫉妬じゃないよね、それは・・」
「違うわよ」

ロキは横目でレナを見ながら、こうも自分に気のない女性を相手にするのは初めてだなと思っていた。
ロキは決して全ての女性に好かれるタイプではないが、自分に全く興味のない女性にわざわざアプローチをしたことはない。
しかも、レナは上司でもあり親友でもある男と恋仲になっている。他人の女性に好意を抱くことも初めてだった。

「俺のは、嫉妬だけど」
ロキはそう言うと、レナの肩に触れる。ドレスから露出した素肌は思いのほか冷たかった。
「何が?」
レナはいきなり嫉妬などと言われて表情を曇らせ、肩に直に触れたロキの手にも不快感を表している。

「あんたが団長にしていることを、欲してる」
「やめて」

レナはロキの手から逃れようと身体を捩った。どうして女性に困らないはずのロキが自分に執着しているのか、レナには理解ができない。

「カイに対抗してこんなことをしているのなら、軽蔑するわよ」
レナは勝気な目をロキに向けた。
「対抗か・・言っとくけど、団長よりも前からあんたのこと好きだったんだけど」
ロキはそう言って溜息をつくと、レナに触れた手を離した。

2人の雰囲気が悪くなったところで舞台が始まる。レナは怒っていたが、すぐに目の前の舞台に釘付けになった。


「良かったわ・・。主役の女優さん、声も綺麗だし演技も良かった」
「・・・へえ」

ロキは、レナの言っている『女優』と過去に付き合っていたことがある。が、あえてそれは口にしない。
レナは、歌劇に出て来た印象的な歌を小さな声で口ずさんだ。

「・・さっきので覚えたの?」
ロキは本気で驚いていた。レナの歌声は繊細な表現力を持っていることが明らかで、1回聴いた曲を覚えて歌ってしまう能力は普通ではない。

「ええ。私、カイに見つけてもらうまで、ポテンシアで歌い手をしてたの」

ロキはそのレナを見つけ出せなかったことを口惜しんだ。もしロキがカイより先にレナを見つけていたら、レナは自分に好意を抱いてくれたのだろうかと淡い期待を寄せたくなる。

「まさか、そんな才能があったなんて知らなかったな」
「そうね、私ですら知らなかったのよ」

2人は連れ立って劇場を出ると、すぐ馬車に乗り込んで移動した。

ロキの経営するレストランの裏口へ到着すると、専用室に案内されて食事をする。
レナは食事中に何度か遠くを見つめるように考え込んでいた。ロキはレナに何かを尋ねることはせず、その様子をただ眺めるだけに留めたのだった。
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