上 下
110 / 229
第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く

誘惑

しおりを挟む
レナがロキの元に滞在するようになって5日が経過した。ブリステの有名人に新しい女性の影と噂は広まり、レナはどこに行っても視線を浴びながら過ごしている。
王女として生活していた頃も常に人に見られて過ごしていたが、今の生活はどこに目があるか分からない点ではなかなか慣れなかった。

ロキの用意したホテルの特別室は、広すぎるくらい広く、サービスは過剰なくらいだった。クローゼットには丁寧に着替えの服まで用意されており、カミラが見繕ったらしく、上品で質の良い服ばかりだ。ライト商事の関係者はレナを重要な客だと認識し、常にレナの居心地に気を配っていた。

「ねえ、サービスが良すぎて、かえって居づらいわよ」
レナが社長室でロキにクレームを入れる。レナは不満そうだ。

「社員が勝手にやってることだよ。好意だと思って適当に受け取っておいてよ」
ロキはそう言って我関せずと言った様子で何かを書いていた。

「何か、ポテンシアの動きは分かった?」
「ルリアーナ支店に、ルイス王子のことを調査してもらってる。ルイス王子はルリアーナにいることが多いみたいだよ」
「・・ロキの会社に、ルリアーナ支店があるの?」

ロキは穏やかに笑って頷いた。
「前、あんたの護衛でルリアーナの国内をまわった時にね、ちょっと人助けをして。投資をしたのが今に繋がってると言うか」
「ふうん。そういうのを聞くと、さすがね」
レナはロキの仕事ぶりを側で見ていた。次々と動く商売の現場に、何度も感心している。

「まさか、ルリアーナの商品をブリステに輸入しているとも思わなかったわ」
「ああ、あんたが死んだと聞いた時にね。形見じゃないけど、いい商品を広めなきゃと思ったんだ」
「そう・・」

「見直した?」
「ええ、そうね」
「そろそろ、カイ・ハウザーから乗り換えてくれない?」
「何度も言うけど、それを期待しているのなら諦めて」

レナがハッキリ言う度、ロキは「まだその時ではない」のだろうと思う。レナの気持ちがカイにあるとしても、ロキはレナが毎日側にいることだけで充分幸せだった。

(彼女を戦場に送りたくないのは、あの団長と同じ意見なんだよなあ、残念ながら)

ロキは一刻も早く戦場に駆け付けたがるレナを見ながら、どうしたら彼女を安全な環境に置けるのだろうかと考えを巡らせる。意志の強いレナのことだ、恐らく諦めさせるのは無理だろうと思っていた。

「戦場に行きたいって、一番の目的は何なわけ?」
「・・カイの側に付いていてあげないと」
「いや、悪いけど、あんたが行ったところで絶対に足手まといにしかならないよ? カイ・ハウザーは、その辺の人に殺せるような男じゃないし」
「だけど・・」

歯切れ悪く話すレナに、ロキは溜息をつく。

「あの男に寄り添いたいとか思っちゃっているわけ? それで、カイ・ハウザーが救えるとでも?」
「そんな大層なこと、考えていないけど」
「素直に、帰ってくるのを待っているんじゃダメなの?」

レナは遠くを見るような表情で、何かを考えている。ロキは、仕方がないなと作戦を変えた。

「今日の夜、一緒に街に出かけよう。この街のことなら、ほとんどのことは知ってる。きっと楽しい」
「夜の街・・」
「この間はどこに行ったの? 団長と」
「歌劇を観て、食事をしたわ」

ロキは、歌劇か・・と少し考えると、
「夜の歌劇も演目が変わるからお薦めだな。何なら、うちのレストランに誰か呼んで歌ってもらっても良いし」
と思いついたように頷く。

「誰か呼んで?」
「歌劇に出てる役者は、別のところに呼んで歌を披露してもらうことだってできるんだよ」
当たり前のように言ったロキに、レナは驚いた。

(普段からそんな風に振舞っていたら、それは女性に人気もあるでしょうね)

この若い青年実業家が国内の女性を夢中にさせるのは、ある種当然なのかもしれない、とレナは納得した。

「あなたに色々してもらってばかりだから、更に何かをお願いするのは気が引けるわ」
レナはロキの誘いを断ることにした。今のレナは、衣食住全てをロキに頼り切っている。

「あんたには分からないと思うけど、俺にとってはレナ・ルリアーナという人に何かを出来るってことが奇跡なんだよ」
ロキはそう言って書類の束を揃えて脇に置いた。

「カイ・ハウザーの情報や戦地の情報が集まるまで、あと少し時間が欲しい。今日の夜の誘いに関しては、俺が同行者を探しているだけだから・・付き合ってよ」

レナは困った顔を浮かべながらも、ここまで世話になっている以上邪険にするほどのことではないと頷くしかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...