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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く
軍事立国ブリステ
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ブリステ公国の公王であるアロイス・ブリステの城は国の中心に近い内陸部にあった。
城下も要塞に囲まれたブリステ公王の城は、軍事立国であるブリステの力を感じさせる。
高い城壁はどこまでも続き侵入者を拒むように設計されていて、城下町に入るためにも小さな跳ね橋を通らなければならない造りだ。
その入口へは、カイの領地からクロノスを走らせて3時間程度で到着した。2人はクロノスを降りて城下町に入るための手続きに並ぶ。
「あれ? カイ・ハウザー?」
不意に、後方から呼び止められ、カイはそちらを向く。
「ああ、マルセル・レヴィか。久しいな」
赤いストレートの髪を肩まで伸ばしたマルセルは、ブリステ公国のレヴィ侯爵家次男で騎士団の団長をしている。
一見すると優しそうなグリーンの目が印象的なマルセルだが、カイと並ぶ鬼団長として有名な人物だ。
「なんだ? 君、ついでに結婚申請でもしていくの?」
マルセルはカイの隣にいるレナの顔をじっと見て驚いていた。
カイ・ハウザーという男は稀に見る美男だったが、女性嫌いで有名な男だ。
ただの知り合いというには親密そうな距離感の2人に、マルセルにはそれが恋仲の男女だというのは分かる。
「いや……そういうわけではない……」
カイは否定をしておいて、アロイスに会うのであれば本来なら将来的な婚姻の話もしておくべきなのだと憂鬱になった。
ブリステ公国は、爵位や領地のある人間の婚姻に公王の承認が必要になる。
レナを紹介する機会にアロイスに自分との関係を伝えられれば都合が良いのは間違いなかったが、レナが亡国ルリアーナの王位継承者だと伝えた後で承認が得られるとはとても思えない。
「そうなのか? まあ、結婚はいいぞ? うちは奥さん2人だけど、家族みんな仲がいい」
マルセルはにこやかに笑ってカイとレナの後ろに並んだ。
「奥さん……2人……」
レナが呟いたのを聞いて、カイは、ブリステ公国は重婚が許された国とはいえ、自分は複数婚をするつもりはないと言っておいた方が良いのかと焦り、マルセルの存在を目に入れて止めた。
「レナ、こちらは侯爵家次男のマルセル・レヴィだ。レヴィ騎士団の団長を務めている。もしかすると優しそうに見えるかもしれないが、この男を指して優しいと言うなら、世の中の男の98%は優しいことになるようなとんでもない男だから注意しろ」
カイが説明すると、「おい、もう少しまともな紹介の仕方は無いのか? 初めまして、マルセルです。カイ・ハウザーのハウザー騎士団が少数精鋭なら、うちは多数精鋭の騎士団なんだ。よろしく」とマルセルは握手の手をレナに差し伸べる。
「頼もしいですね。初めまして、レナ・ルリアーナです」
レナは名を隠さずに言い、マルセルの手を握った。
「ちなみに、後でアロイスには伝えるから先に言っておくと、ルリアーナ王国の第一王女だ」
カイはさらりとレナの身分を明かす。マルセルは自分の耳を疑った後、握手をしている手を急いで外すと、「カイ・ハウザー……貴様、王女殿下の紹介の仕方をイチから教えてやろうか……」と殺気を立たせながら、その場に跪いた。
「これは、存じ上げずに大変失礼をいたしました、殿下」
マルセルはそう言いながら、ルリアーナの第一王女ということは、以前聞いた訃報は虚偽だったのだろうかと頭の中が混乱している。
「そんなに畏まっていただかなくても結構です。もうルリアーナも亡国となった身ですから、第一王女を名乗って良いものかも分からないような立場ですし」
「いや、ルリアーナ王女は周辺国にその美しさが語られておりましたが、まさかカイ・ハウザーのような男を選ばれているとは。この男も隅に置けない」
マルセルは立ち上がってカイを睨んだ後でレナに視線を移した。
噂に聞くよりも美人というより可愛らしいタイプだったのだなと驚いていたが、それにしても何故カイといるのだろうかと信じられない。
「訃報が流れた日の直前まで、護衛を担当していた」
カイが何気なく言うと、「主人に手を出すのは騎士としてどうかと思うな」とマルセルの軽蔑した目線がカイに向けられる。
「言っておくが、主従関係があった頃は特別なことはなかった」
カイがそう言ってマルセルを睨み返すと、「ホントです……私の片想いだったから……」とレナが気まずそうに付け加えたので、マルセルは心の中で大きな舌打ちをした。
「なんだろう……この、そこはかとない敗北感は」
マルセルはそう言うとカイとレナを交互に見る。
(いや……ブリステの子爵とルリアーナの第一王女が、一緒になれるわけがないだろう……)
そんな当たり前のことに気付いて、2人の運命を漠然と案じた。
「さて、陛下はどんなことを考えているだろうね?」
マルセルはそう言ってやれやれと前方に見える城に目をやる。もうすぐ、国内の騎士たちが集められた議会が始まる時間だ。
城下も要塞に囲まれたブリステ公王の城は、軍事立国であるブリステの力を感じさせる。
高い城壁はどこまでも続き侵入者を拒むように設計されていて、城下町に入るためにも小さな跳ね橋を通らなければならない造りだ。
その入口へは、カイの領地からクロノスを走らせて3時間程度で到着した。2人はクロノスを降りて城下町に入るための手続きに並ぶ。
「あれ? カイ・ハウザー?」
不意に、後方から呼び止められ、カイはそちらを向く。
「ああ、マルセル・レヴィか。久しいな」
赤いストレートの髪を肩まで伸ばしたマルセルは、ブリステ公国のレヴィ侯爵家次男で騎士団の団長をしている。
一見すると優しそうなグリーンの目が印象的なマルセルだが、カイと並ぶ鬼団長として有名な人物だ。
「なんだ? 君、ついでに結婚申請でもしていくの?」
マルセルはカイの隣にいるレナの顔をじっと見て驚いていた。
カイ・ハウザーという男は稀に見る美男だったが、女性嫌いで有名な男だ。
ただの知り合いというには親密そうな距離感の2人に、マルセルにはそれが恋仲の男女だというのは分かる。
「いや……そういうわけではない……」
カイは否定をしておいて、アロイスに会うのであれば本来なら将来的な婚姻の話もしておくべきなのだと憂鬱になった。
ブリステ公国は、爵位や領地のある人間の婚姻に公王の承認が必要になる。
レナを紹介する機会にアロイスに自分との関係を伝えられれば都合が良いのは間違いなかったが、レナが亡国ルリアーナの王位継承者だと伝えた後で承認が得られるとはとても思えない。
「そうなのか? まあ、結婚はいいぞ? うちは奥さん2人だけど、家族みんな仲がいい」
マルセルはにこやかに笑ってカイとレナの後ろに並んだ。
「奥さん……2人……」
レナが呟いたのを聞いて、カイは、ブリステ公国は重婚が許された国とはいえ、自分は複数婚をするつもりはないと言っておいた方が良いのかと焦り、マルセルの存在を目に入れて止めた。
「レナ、こちらは侯爵家次男のマルセル・レヴィだ。レヴィ騎士団の団長を務めている。もしかすると優しそうに見えるかもしれないが、この男を指して優しいと言うなら、世の中の男の98%は優しいことになるようなとんでもない男だから注意しろ」
カイが説明すると、「おい、もう少しまともな紹介の仕方は無いのか? 初めまして、マルセルです。カイ・ハウザーのハウザー騎士団が少数精鋭なら、うちは多数精鋭の騎士団なんだ。よろしく」とマルセルは握手の手をレナに差し伸べる。
「頼もしいですね。初めまして、レナ・ルリアーナです」
レナは名を隠さずに言い、マルセルの手を握った。
「ちなみに、後でアロイスには伝えるから先に言っておくと、ルリアーナ王国の第一王女だ」
カイはさらりとレナの身分を明かす。マルセルは自分の耳を疑った後、握手をしている手を急いで外すと、「カイ・ハウザー……貴様、王女殿下の紹介の仕方をイチから教えてやろうか……」と殺気を立たせながら、その場に跪いた。
「これは、存じ上げずに大変失礼をいたしました、殿下」
マルセルはそう言いながら、ルリアーナの第一王女ということは、以前聞いた訃報は虚偽だったのだろうかと頭の中が混乱している。
「そんなに畏まっていただかなくても結構です。もうルリアーナも亡国となった身ですから、第一王女を名乗って良いものかも分からないような立場ですし」
「いや、ルリアーナ王女は周辺国にその美しさが語られておりましたが、まさかカイ・ハウザーのような男を選ばれているとは。この男も隅に置けない」
マルセルは立ち上がってカイを睨んだ後でレナに視線を移した。
噂に聞くよりも美人というより可愛らしいタイプだったのだなと驚いていたが、それにしても何故カイといるのだろうかと信じられない。
「訃報が流れた日の直前まで、護衛を担当していた」
カイが何気なく言うと、「主人に手を出すのは騎士としてどうかと思うな」とマルセルの軽蔑した目線がカイに向けられる。
「言っておくが、主従関係があった頃は特別なことはなかった」
カイがそう言ってマルセルを睨み返すと、「ホントです……私の片想いだったから……」とレナが気まずそうに付け加えたので、マルセルは心の中で大きな舌打ちをした。
「なんだろう……この、そこはかとない敗北感は」
マルセルはそう言うとカイとレナを交互に見る。
(いや……ブリステの子爵とルリアーナの第一王女が、一緒になれるわけがないだろう……)
そんな当たり前のことに気付いて、2人の運命を漠然と案じた。
「さて、陛下はどんなことを考えているだろうね?」
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