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第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く
掴んだ手から零れ落ちるように
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そのニュースは、すぐに騎士団本部にいるカイの元に届いた。
ポテンシア王国の第四王子がとうとう国王に反旗を翻し、第五王子の軍と挟み撃ちで国王を攻め始めたという。
ブリステ内の領主や騎士団長たちの元にはブリステ公王からの招集がかかった。
これからの対策について、国内の方針を決めておく必要がある。
「行動が、早かったな……」
あのルイスは、本気で国王を討つつもりだ。多くの血が流れ、国は無傷ではいられない。
最後に会った時のルイスの顔を思い出しながら、カイは溜息をついた。
レナがこの情報を耳にしたら、どれだけ傷つくだろうか。ルイスがレナを失った恨みで、国王に復讐をしている事実は変わらない。
先日、レナとうっすら将来のことを誓い合ったばかりだというのに、早速他国の戦火が他人事ではなくなってしまった。
ポテンシア国王とルイスの争いは、ブリステ公国も無関係ではいられない。
カイには、この争いをきっかけとした大きな争いの始まりを確信した。
戦場に行く未来が見える。覚悟しなければならない時が近付いていた。
ふと、レナの嬉しそうな、はにかんだ顔を思い出す。
大切な人を置いて戦場に立つことになるのは初めてだった。自分が不在にしている間、自分の屋敷に置いていてレナは安全なのだろうか。
今まで自分が殺めて来た敵兵たちにも、こうして愛する者と離れて武器を持った事情があるのだ、と当たり前のことが妙に現実味を帯びる。
カイは少し青ざめた顔で、ブリステ公王に呼ばれている日程に目を落とした。
(2日後か……)
2日後までに、ポテンシアの情勢がどれだけ変わるかは分からない。ルイスが勝つか、国王が勝つかも、カイには分からなかった。
レナには包み隠さずにこの内容を伝えるしかないだろう。
今は一市民として自分の側にいるレナが、元王女としての資質と強い責任感を持っていることは間違いない。
黙っているのは、彼女のパートナーとして不誠実な気がしていた。
伝えた後で、レナが何を言うのかを考えると決して前向きにはなれないでいる。
この先の人生に彼女が側にいるだけでいいと、数日前に満足したあの感情はなんだったのか。
カイは唇を噛む。戦場を生きる場所に選んだのは誰でもなく、自分だったというのに。
護るべきものができた時、人は強くなれるのだろうか。
これまで恐れ知らずだったカイ・ハウザーという男が、自分の中で急に遠い存在になって行くような感覚があった。
皮肉にも、欲しかったのはただ何もない毎日だったのだと気付く。
戦場で活躍することも、功績を上げて表彰されることも、これまでのカイを満たすことは無かった。
それが、今は何気ない毎日に満たされている。
朝、目が覚めた時に隣で恥ずかしそうに寄り添うレナを見て、人生で感じていた渇きがなかったことのように満たされるのを感じた。
2人で過ごす時間が、自分の生きて来た無機質なものとは明らかに違うことを知った。
柔らかな癖のある髪が、肌に触れるくすぐったさと、武器を握り慣れた皮の厚い手で触れるのに心地よいことを、カイは初めて知った。
彼女を、誰にも触れさせずに危険に晒さずに済む方法が欲しい。
レナの人生は、これまでずっと争いや醜い陰謀の中にあったではないか。
また、世界の歯車の中に彼女が巻き込まれてしまう嫌な予感がする。
折角手にしたというのに、その幸せはまた自分から零れ落ちていくのだろうか。カイは胸がかきむしられ、苦痛に顔を歪めた。
ポテンシア王国の第四王子がとうとう国王に反旗を翻し、第五王子の軍と挟み撃ちで国王を攻め始めたという。
ブリステ内の領主や騎士団長たちの元にはブリステ公王からの招集がかかった。
これからの対策について、国内の方針を決めておく必要がある。
「行動が、早かったな……」
あのルイスは、本気で国王を討つつもりだ。多くの血が流れ、国は無傷ではいられない。
最後に会った時のルイスの顔を思い出しながら、カイは溜息をついた。
レナがこの情報を耳にしたら、どれだけ傷つくだろうか。ルイスがレナを失った恨みで、国王に復讐をしている事実は変わらない。
先日、レナとうっすら将来のことを誓い合ったばかりだというのに、早速他国の戦火が他人事ではなくなってしまった。
ポテンシア国王とルイスの争いは、ブリステ公国も無関係ではいられない。
カイには、この争いをきっかけとした大きな争いの始まりを確信した。
戦場に行く未来が見える。覚悟しなければならない時が近付いていた。
ふと、レナの嬉しそうな、はにかんだ顔を思い出す。
大切な人を置いて戦場に立つことになるのは初めてだった。自分が不在にしている間、自分の屋敷に置いていてレナは安全なのだろうか。
今まで自分が殺めて来た敵兵たちにも、こうして愛する者と離れて武器を持った事情があるのだ、と当たり前のことが妙に現実味を帯びる。
カイは少し青ざめた顔で、ブリステ公王に呼ばれている日程に目を落とした。
(2日後か……)
2日後までに、ポテンシアの情勢がどれだけ変わるかは分からない。ルイスが勝つか、国王が勝つかも、カイには分からなかった。
レナには包み隠さずにこの内容を伝えるしかないだろう。
今は一市民として自分の側にいるレナが、元王女としての資質と強い責任感を持っていることは間違いない。
黙っているのは、彼女のパートナーとして不誠実な気がしていた。
伝えた後で、レナが何を言うのかを考えると決して前向きにはなれないでいる。
この先の人生に彼女が側にいるだけでいいと、数日前に満足したあの感情はなんだったのか。
カイは唇を噛む。戦場を生きる場所に選んだのは誰でもなく、自分だったというのに。
護るべきものができた時、人は強くなれるのだろうか。
これまで恐れ知らずだったカイ・ハウザーという男が、自分の中で急に遠い存在になって行くような感覚があった。
皮肉にも、欲しかったのはただ何もない毎日だったのだと気付く。
戦場で活躍することも、功績を上げて表彰されることも、これまでのカイを満たすことは無かった。
それが、今は何気ない毎日に満たされている。
朝、目が覚めた時に隣で恥ずかしそうに寄り添うレナを見て、人生で感じていた渇きがなかったことのように満たされるのを感じた。
2人で過ごす時間が、自分の生きて来た無機質なものとは明らかに違うことを知った。
柔らかな癖のある髪が、肌に触れるくすぐったさと、武器を握り慣れた皮の厚い手で触れるのに心地よいことを、カイは初めて知った。
彼女を、誰にも触れさせずに危険に晒さずに済む方法が欲しい。
レナの人生は、これまでずっと争いや醜い陰謀の中にあったではないか。
また、世界の歯車の中に彼女が巻き込まれてしまう嫌な予感がする。
折角手にしたというのに、その幸せはまた自分から零れ落ちていくのだろうか。カイは胸がかきむしられ、苦痛に顔を歪めた。
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