亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第6章 新生活は、甘めに

休みが合わない

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 レナがカイの家で暮らすようになって、2週間が経過した。

 カイにはひとつだけ気になっていることがあった。それは、レナの休みが平日で自分の休みが日曜なことで、折角日曜の休みを家で過ごそうと思っても、日中はレナが家を不在にしている。
 そして、レナが休みの日はカイに仕事があるのだ。

 レナは、仕事休みの日にオーディスを伴って一人で町に出かけたり、カイの部屋で本を読んで過ごしていた。
 屋敷の使用人の手伝いをしたいと申し出たものの、執事のオーディスに大袈裟に嫌がられたので諦めたらしい。

 休みの時くらい付き添ってやりたいとカイは不満に思い、たまには平日に休みを取ろうかと仕事の調整を図ったが、どうもうまくいかなかった。カイは休みを取る技術が全くない自分が、つくづく嫌になる。

 それならば、日曜にレナを休ませれば良いだろうとカイは思い立ち、肉屋まで行ってみた。
 領主からの圧力が、町の肉屋に利かないはずがない。

 気軽な気持ちで、カイは肉屋の店頭に足を運んだ。
 外国に仕事をしに行くことが多いカイは、滅多に町に顔を出さない領主だった。
 現れるだけで、それなりに注目される。カイは久しぶりの領地民と交流をしていた。

 そして、日曜の肉屋は、カイが思っていたより随分と忙しそうだった。
 多くの客をさばきながら、レナはそれでも笑顔を絶やさずに楽しそうに働いている。
 店先に立つ姿を見て、カイは店主に圧力をかけようなどという不正は諦めた。
 そんなことをしても、レナが喜ばないことが分かったからだ。

 肉屋の行列が少しだけ落ち着いたころ、カイは肉屋の店頭に現れた。

「精が出るな」

 カイがそう言ってレナからお薦めを聞いてハムを買う。レナが嬉しそうに、「毎度ありがとうございます」と笑うので、カイはレナの仕事が終わるころに迎えに来ると約束をして、一度帰宅した。

 レナが仕事を終える10分前にはカイは愛馬のクロノスで肉屋の横に待機をしたが、肉屋の店主は領主が店の隣で馬と共に待っている姿にとても耐えられず、閉店作業をレナ抜きで行うと決めて早々にレナを上がらせた。

 レナは当たり前のようにカイと2人でクロノスの背に乗り、カイは当たり前のようにレナを抱きかかえて帰って行ったので、町内ではレナが領主の“良い人”だという話は誰もが知ることとなる。


(この際、もう、レナが休みの日に騎士団本部に連れて行くか……)

 カイは、そろそろシンとサラにもレナの無事を教えたかったので、丁度いい頃合いかもしれないと思うに至る。
 最初こそシンに知られるとロキの知られるところになるとカイは悩んだが、毎日レナと生活しているうちに、レナには事情を話せば理解してもらえるだろうと思うようになった。

 カイは夕食の時間に次の休みに騎士団に同行しないかという誘いと、ロキに会わせられない理由を伝えることにした。


「今度のレナの休みなんだが……」

 カイがメインの牛フィレ肉にナイフを入れながらレナに話を切り出す。

「次の休み? 明後日の火曜よ」

 レナが何気なく答えると、「騎士団の本部に、遊びに来てみないか?」とカイが真剣な顔をしてレナを誘う。
 レナは改まってどうしたのだろうと不思議そうな顔でカイを見ながら、「ええ、シンとサラに会えるの?」とにこやかに答えた。

「そうだな。ただ、ロキにはまだ、暫く会わせない方が良いと思っていてだな……」

 カイが気まずそうに言うと、レナは肉屋で聞いたことを思い出した。

「ああ、聞いたわ。個人の記者がロキの周りに張っているんでしょ? カイも気を遣ってくれていたのね」

 レナは笑顔でそう言って、何も気にしていないようだった。カイは拍子抜けして、そんな簡単なことだったのかと安堵する。

「じゃあ、明後日は一緒に行こう。休みの日に連れまわしてしまうが……大丈夫そうか?」

 カイが穏やかに尋ねると、「大丈夫よ。カイがどんな仕事ぶりなのかも気になるし、楽しみ」とレナは満面の笑みだった。
 それを見て、給仕に入っていたオーディスが感動して泣きそうになっている。

「それで……クロノスで行くか、馬車で行くか迷っているんだが……」

 カイは気まずそうに言ったが、「クロノスで良いんじゃない? いつも私、仕事の往復で馬車を出してもらっているけど、わざわざそれで人を使うなんて、贅沢だもの」とレナが当たり前のように言ったので、カイは流石だなとレナを見直した。
 それに、カイはクロノスにレナを乗せることが癖になりつつある。

「決まりだな。じゃあ、明後日」

 カイがそう言って微笑すると、レナはその顔の美しさに見惚れた。

「……ええ、楽しみにしてるわね」

 レナは一緒に暮らすようになったカイの姿形に、ちっとも慣れない。
 それどころか、日が経つごとにどんどんカイの笑顔は破壊力が増しているようで、直視することすら恥ずかしいことがあった。
 そんなレナの気も知らずに、カイは時折気まずそうな顔をするレナの様子を心配した。
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