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第6章 新生活は、甘めに
幸せのかたち
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辺りが暗くなり始めた頃、カイが騎士団本部から愛馬のクロノスで帰宅した。
その気配を感じたレナは屋敷の中から主人の帰りに駆け付けたらしい。玄関を開けて、「お帰りなさい!」と入口に立ってカイを出迎えた。
これはオーディスに言われてとった行動だったのだが、カイは自分を出迎えてくれたレナを抱きしめた方が良いのだろうかと、大いに戸惑った。
勿論、レナは単に家の主人を迎えただけであって、2人は恋人同士ではないから特に熱い抱擁もしない。
「ただいま。町はどうだったんだ?」
カイは、クロノスを厩舎担当の使用人に預けると、ゆっくりとレナの様子を窺っている。
「明日から、お肉屋さんで売り子をやるの。みんな、『領主様によろしく』って言ってたわ。あなたって、領地の人たちに人望があるのね」
レナが嬉しそうに言ったので、その様子にカイも目を細める。
「いや、レナの手前、褒めてくれたんだろう」
カイは玄関を開けてレナと共に家に入ると、使用人は全員頭を下げて待っていた。
「あっ……ごめんなさい、私もあなたをこうして迎えないといけなかったのかしら……?」
レナが使用人達の揃ったお辞儀を見て焦る。
「馬鹿を言うな、レナはここの使用人じゃない。むしろ、今日の出迎えがあったら、1日分の仕事の疲れが吹き飛ぶ」
カイがレナに伝えたその言葉に、頭を下げている使用人達の頭の中は大騒ぎだった。
あのカイが、女性の出迎えで疲れが吹き飛ぶと言っている。
「あら、私、そんな呪術は使ってないわよ?」
レナがいきなり見当違いな返しをするので、カイは、「そういうことじゃない」とがっかりした。
ここまで気持ちが一方通行になると、自分もバールにいた男性労働者のひとりと大して変わらないのではないかと気が滅入りそうだ。
「でも、あなたがいる家って良いわね」
レナはそう言って笑った。
「どういう意味だ?」
カイはそろそろ余計な期待はすまいと冷静になった。どうせレナは自分など眼中にないはずなのだと。
「私、とても良くしていただいているけれど、あなたが帰って来てくれて、一緒に過ごせるのが1日の中で一番幸せだわ」
いよいよ、使用人達の頭の中がえらいことになってきた。静かに頭を下げているのに、脳内には様々なファンファーレが鳴り響いている。
勿論、カイの頭の中も混乱している。
(一緒に過ごせるのが、一番幸せ、だと……?)
それは、どういう意味なのだろうかと思考が停止した。
「光栄だな」
カイは手で口元を隠し、気を抜くと口元が緩んでしまいそうになるのを誤魔化した。
例えレナは深い意味で言っていないのだとしても、自分と過ごす時間を幸せだと言った気持ちに嘘が無ければそれだけで充分だ。
昼間、カイはシンと仕事をしていたが、レナのことを話さなかったことに罪悪感が拭えない。それでも、レナが隣で笑っていることが、たまらなく幸せだった。
その気配を感じたレナは屋敷の中から主人の帰りに駆け付けたらしい。玄関を開けて、「お帰りなさい!」と入口に立ってカイを出迎えた。
これはオーディスに言われてとった行動だったのだが、カイは自分を出迎えてくれたレナを抱きしめた方が良いのだろうかと、大いに戸惑った。
勿論、レナは単に家の主人を迎えただけであって、2人は恋人同士ではないから特に熱い抱擁もしない。
「ただいま。町はどうだったんだ?」
カイは、クロノスを厩舎担当の使用人に預けると、ゆっくりとレナの様子を窺っている。
「明日から、お肉屋さんで売り子をやるの。みんな、『領主様によろしく』って言ってたわ。あなたって、領地の人たちに人望があるのね」
レナが嬉しそうに言ったので、その様子にカイも目を細める。
「いや、レナの手前、褒めてくれたんだろう」
カイは玄関を開けてレナと共に家に入ると、使用人は全員頭を下げて待っていた。
「あっ……ごめんなさい、私もあなたをこうして迎えないといけなかったのかしら……?」
レナが使用人達の揃ったお辞儀を見て焦る。
「馬鹿を言うな、レナはここの使用人じゃない。むしろ、今日の出迎えがあったら、1日分の仕事の疲れが吹き飛ぶ」
カイがレナに伝えたその言葉に、頭を下げている使用人達の頭の中は大騒ぎだった。
あのカイが、女性の出迎えで疲れが吹き飛ぶと言っている。
「あら、私、そんな呪術は使ってないわよ?」
レナがいきなり見当違いな返しをするので、カイは、「そういうことじゃない」とがっかりした。
ここまで気持ちが一方通行になると、自分もバールにいた男性労働者のひとりと大して変わらないのではないかと気が滅入りそうだ。
「でも、あなたがいる家って良いわね」
レナはそう言って笑った。
「どういう意味だ?」
カイはそろそろ余計な期待はすまいと冷静になった。どうせレナは自分など眼中にないはずなのだと。
「私、とても良くしていただいているけれど、あなたが帰って来てくれて、一緒に過ごせるのが1日の中で一番幸せだわ」
いよいよ、使用人達の頭の中がえらいことになってきた。静かに頭を下げているのに、脳内には様々なファンファーレが鳴り響いている。
勿論、カイの頭の中も混乱している。
(一緒に過ごせるのが、一番幸せ、だと……?)
それは、どういう意味なのだろうかと思考が停止した。
「光栄だな」
カイは手で口元を隠し、気を抜くと口元が緩んでしまいそうになるのを誤魔化した。
例えレナは深い意味で言っていないのだとしても、自分と過ごす時間を幸せだと言った気持ちに嘘が無ければそれだけで充分だ。
昼間、カイはシンと仕事をしていたが、レナのことを話さなかったことに罪悪感が拭えない。それでも、レナが隣で笑っていることが、たまらなく幸せだった。
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