亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第5章 追われるルリアーナ元王女

その面影を探して

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 ブライアン・バンクスの仕事を終えて、カイはルリアーナ城の城下町に来ていた。レナが生きていたとすれば、最初に立ち寄ったのは間違いなく城下町だろうと目星を付ける。

 レナはお金を持っていなかった可能性があるが、生きるために必要な生活力もない。行くとしたら一体どこなのか見当も付かないが、とりあえず人が集まる場所に行っておこうと店を回った。

 城下町は、レナと一緒に歩いた日を思い出す。腕にしがみついて楽しそうにしていた王女が、次にひとりきりで城下町を訪れた時にどんな気持ちになっていたのか、考えるだけで胸が痛んだ。

(生きていたとしたら、どんなに苦労をしているか……)

 せめて誰か、彼女の側にいてくれる人が現れていれば、とカイは願った。

 レナは、あれだけの器量を持って生まれたのだ。また誰かが彼女を見つけて、支えてくれているかもしれない。レナが心を預けられる誰かが、既に彼女を幸せにしてくれていたら、と漠然と考え始めた。

(ああ、そうか……)

 任務中にレナと訪れたバールの前までやって来て、あの日にレナが何を求めていたのか、ようやく理解ができた気がした。
 レナはカイの人生や生き方に興味を持っていた。そして、カイと向き合いたいと真剣に言っていた。

(そうやって人と関わることで、孤独から解放されたかったのだな)

 カイはレナに寄り添い切れたとは言えなかった。突き放すように、はぐらかした。過去にできなかったことを今更悔やんだところで、戻ることはできない。

(そうだ、もしも今、どこかで生きているのなら……)

 絶対に、レナの心は満たされていない。王女として生きて来た人生の全てを封印し、別人格として生きることが、どれだけまたレナの心を孤独にしているのだろう。

(最後の夜、あんなに別れを悲しんでいたのに、結局何もしてやれていない。俺は、確かに再会を約束したんだ)

 カイは、自分の奥にある感情に向き合って、ようやく分かった。

「誰か」に頼り、自分の力不足から目を背けるのは止めようと決めた。

 この不安定な世界に放り出されているレナがどこかにいるのなら、それは自分が救うべき存在だ。
 彼女の生まれを知りながら、彼女の不遇を知りながら、それでも護り支えられる存在。それが自分でなくて誰だというのか。

 レナと契約を交わし、主人と従者の関係だった日々は終わった。あの日から、カイはレナの騎士ではなくなった。

(報酬と契約がなんだ)

 カイは、迷いのない目で前を向く。バールに入ると、あの日2人で過ごした店内でレナの面影を探した。
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