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第5章 追われるルリアーナ元王女
ロキの憂鬱
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ロキが女性関係の噂と縁遠くなってもうすぐ10ヶ月が経とうとしていた。それまでの派手な印象が影を潜めるようになると、今度は縁談の話が沸いたりと別の問題が発生してくるのだ。
「余計なお世話だよねえ……世間様ってのはさあ……」
ロキは、ルリアーナに派遣したルーカスがようやく契約を取り付けた『プリンセス・ルリアーナ』という紅茶を飲みながら、見合い相手として送られてきた女性のプロフィールを無造作に机に放り投げる。
ここ1時間、大した収穫のない調査報告書の数々を同じように放り投げたせいで、すっかり机の上が煩雑になっていた。
先日設立したルリアーナ支店に、渉外担当のルーカスが行っている。
ルーカスはルリアーナ支店が主に扱っている村の伝統織物に可能性を見出しているらしい。部下は安定生産のために日々奔走しているようだった。
ただ、レナらしき女性の目撃情報は、全くと言っていいほど集まっていなかった。
アッシュブロンドの髪、少しくせ毛で、丸顔。背は低く、身体は小柄。目が丸いため幼く見える顔立ち。年齢は20歳。
発音は綺麗なルリアーナ式。読み書きを含め、学がある。性格は誰に対しても平等で、驚くほど控え目なのに、強くハッキリとしたところがある。それ故に男性を惑わせるところは否めない。どこにいても、誰かから想われる要素がある女性だ。
こんな特徴なら、紛らわしい女性が何人も見つかっておかしくなさそうなものが、「該当しそうな女性はいない」のだという。
案外、小柄な女性と言うのが少ないのだろうか? いつも高いヒール靴を履いていた王女を思い出し、特徴から抜けているのだろうかと心配になる。
ロキの部下たちは情報集能力に長けていた。ルリアーナにいるルーカスも例にもれず、ブリステ公国内の様々な情報を集めながら交渉を有利に進めてきたような社員だ。そのルーカスに全く情報がないのだから、ルリアーナで生存している線は薄い、と結論が出そうになる。
生きているのか、いないのか、ロキには確信が持てない。
そんなロキとは違い、カイはハッキリと「彼女は生きている」と断言した。その根拠のない自信が羨ましくもあり、残酷でもあった。
ポテンシア王国では、レナの婚約者だったルイスが兄を討つなど信じられないことが起きている。王女がいなくなってからの世界は、確実に変わってしまった。
(多くの人の環境を良くしていきたいと言っていた王女がいなくなっても、世の中は当たり前のように日々が過ぎていく。あの人がいない世界を生きるのは苦しいな)
ロキは首から下げているレナからもらったお守りをぐっと握りしめながら、レナの姿をぼんやりと思い出す。
(生きているなら……声くらい聴かせてくれたんだろうなとか、思っちゃうよ……)
ロキは自分の髪を切ってレナに預けてきた。久しぶりに短くなったロキの髪も、既に結わえる長さに伸びてしまっている。
あの髪があれば、レナは呪術で国を越えて話ができるはずだ。でも、一度もレナはロキに声を届けてはくれなかった。
レナが生きていると信じられるだけの材料が、あまりにも乏しい。
ルイスが見たというレナの幻も、呪術で彼女が作り出したものなのか本当に幽霊だったのか、ロキには判断ができない。
無条件に彼女の無事を信じられたら、どんなに良かっただろう。
生存を楽観的に考えられない程、ロキの人生は逆境と困難と苦労の連続だった。上手くいかない事には慣れていた。誰かに邪魔をされることにも、裏切りに遭うことにも、周りの人間が命を落とすことにも、ロキは慣れ過ぎてしまっていた。
きっと、彼女は誰かの裏切りに遭ったのだろうと、ロキの経験が告げるのだ。
レナがブレンドをしたという紅茶、『プリンセス・ルリアーナ』の香りが、ロキの胸を締め付ける。
この紅茶を嬉しそうに勧めたレナが、既にこの世にいないなど考えたくはない。彼女の死を認めたくないと思い切り泣くことができたならどんなに楽だろうか。
そんな感情を剝き出しにできる場所が、ロキには無かった。
自分の家でもある社長室で、今日もやるべき仕事の山を前にする。ロキは当たり前のように仕事に向き合い始めた。
「余計なお世話だよねえ……世間様ってのはさあ……」
ロキは、ルリアーナに派遣したルーカスがようやく契約を取り付けた『プリンセス・ルリアーナ』という紅茶を飲みながら、見合い相手として送られてきた女性のプロフィールを無造作に机に放り投げる。
ここ1時間、大した収穫のない調査報告書の数々を同じように放り投げたせいで、すっかり机の上が煩雑になっていた。
先日設立したルリアーナ支店に、渉外担当のルーカスが行っている。
ルーカスはルリアーナ支店が主に扱っている村の伝統織物に可能性を見出しているらしい。部下は安定生産のために日々奔走しているようだった。
ただ、レナらしき女性の目撃情報は、全くと言っていいほど集まっていなかった。
アッシュブロンドの髪、少しくせ毛で、丸顔。背は低く、身体は小柄。目が丸いため幼く見える顔立ち。年齢は20歳。
発音は綺麗なルリアーナ式。読み書きを含め、学がある。性格は誰に対しても平等で、驚くほど控え目なのに、強くハッキリとしたところがある。それ故に男性を惑わせるところは否めない。どこにいても、誰かから想われる要素がある女性だ。
こんな特徴なら、紛らわしい女性が何人も見つかっておかしくなさそうなものが、「該当しそうな女性はいない」のだという。
案外、小柄な女性と言うのが少ないのだろうか? いつも高いヒール靴を履いていた王女を思い出し、特徴から抜けているのだろうかと心配になる。
ロキの部下たちは情報集能力に長けていた。ルリアーナにいるルーカスも例にもれず、ブリステ公国内の様々な情報を集めながら交渉を有利に進めてきたような社員だ。そのルーカスに全く情報がないのだから、ルリアーナで生存している線は薄い、と結論が出そうになる。
生きているのか、いないのか、ロキには確信が持てない。
そんなロキとは違い、カイはハッキリと「彼女は生きている」と断言した。その根拠のない自信が羨ましくもあり、残酷でもあった。
ポテンシア王国では、レナの婚約者だったルイスが兄を討つなど信じられないことが起きている。王女がいなくなってからの世界は、確実に変わってしまった。
(多くの人の環境を良くしていきたいと言っていた王女がいなくなっても、世の中は当たり前のように日々が過ぎていく。あの人がいない世界を生きるのは苦しいな)
ロキは首から下げているレナからもらったお守りをぐっと握りしめながら、レナの姿をぼんやりと思い出す。
(生きているなら……声くらい聴かせてくれたんだろうなとか、思っちゃうよ……)
ロキは自分の髪を切ってレナに預けてきた。久しぶりに短くなったロキの髪も、既に結わえる長さに伸びてしまっている。
あの髪があれば、レナは呪術で国を越えて話ができるはずだ。でも、一度もレナはロキに声を届けてはくれなかった。
レナが生きていると信じられるだけの材料が、あまりにも乏しい。
ルイスが見たというレナの幻も、呪術で彼女が作り出したものなのか本当に幽霊だったのか、ロキには判断ができない。
無条件に彼女の無事を信じられたら、どんなに良かっただろう。
生存を楽観的に考えられない程、ロキの人生は逆境と困難と苦労の連続だった。上手くいかない事には慣れていた。誰かに邪魔をされることにも、裏切りに遭うことにも、周りの人間が命を落とすことにも、ロキは慣れ過ぎてしまっていた。
きっと、彼女は誰かの裏切りに遭ったのだろうと、ロキの経験が告げるのだ。
レナがブレンドをしたという紅茶、『プリンセス・ルリアーナ』の香りが、ロキの胸を締め付ける。
この紅茶を嬉しそうに勧めたレナが、既にこの世にいないなど考えたくはない。彼女の死を認めたくないと思い切り泣くことができたならどんなに楽だろうか。
そんな感情を剝き出しにできる場所が、ロキには無かった。
自分の家でもある社長室で、今日もやるべき仕事の山を前にする。ロキは当たり前のように仕事に向き合い始めた。
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