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第3章 それが日常になっていく

国境の町で

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 エレナとアウルシスターズは、バール「アウル」のすぐ近くに下宿し、共同生活を送っている。

 家賃は店主のイサーム持ちだったが、生活にかかる食費などは4名で折半して暮らしていた。町は治安もあまりよくなく、買い物や外出時はイサームの雇っている護衛を付けて歩くようにしている。

 イサームは4人が下宿する共同住宅の斜め向かいに家族で住んでおり、護衛を依頼するときは、誰かがイサームの部屋を訪ねるようにしていた。

「最近、ポテンシアの中で内戦が起きるんじゃないかって話題が多いわね」

 ミミが洗濯物を干しながら3人に向けて言うと、マーシャが、「ここも戦場になることがあるのかしら……?」と不安そうな顔をしている。

 アウルシスターズの3人は出稼ぎのためポテンシアの町に来ていたため、国際情勢が危うくなる場合は別の場所に移動するつもりだ。

「とはいえ、ブリステ公国との国境は越えられないし、他に行っても状況は変わらなそうだし、どうしたものかしら……」

 マリヤは大きな溜息をついた。隣にいるエレナも、ブリステの国境を越えられずにこの町に留まっているひとりだ。

「3人は、これからもずっと一緒に生活していくの……?」

 エレナは、純粋に気になって尋ねた。アウルシスターズはコーラストリオの名称であって、故郷が同じ3名は血がつながっているわけではない。

「どうかしらね。歌で仕事ができるうちは3人でやって行こうと思っていたけど、これから先、どうなるか分からないものね」

 マリヤは寂しそうにそう言って、マーシャとミミを見た。ミミは洗濯物を干し終えて、何か飲むことにしたようだ。

「なるようにしか、ならないわね」

 マーシャは、半ば諦めたように笑って言った。いつも「お上」が行っていることに巻き込まれ、自分たちには決定権などないことに慣れると、そう思うことでしか前を向いて生きられない。

 エレナは、改めて政治が起こす市民への影響を、目の当たりにした気がした。

(やっぱり、戦争が世の中を良くするなんて、軽々しく言ってはいけないのよ。巻き込まれるほうは、いつだって自分たちの無力さに絶望するしかないんだわ)

 エレナは、王女レナ・ルリアーナでなくなってから6か月が経過していた。その間に20歳になり、少しだけお酒も覚えた。アウルシスターズと共同生活をするうちに、家事も覚えた。

 半年前の王女だった彼女を知る人間が見たら、恐らく同一人物だとは思わないくらいにまで、エレナは庶民らしい女性になっていた。

(折角3人と家族のような関係になれたのに、そのうち離れなければならない時が来る……)

 ブリステ公国に入国ができずに足止めを食らったまま、エレナは再度孤独の身になる日が来るかもしれないことに漠然とした不安を抱えていた。
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