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第3章 それが日常になっていく
櫂劉淵と氾楊賢
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ブライアンの屋敷で、カイとハンはユリウス討伐について話し合っていた。
「弟、確認だけど……本当にユリウスを討ってルイス殿下がユリウスの軍を吸収することに賛成なんだね?」
ハンはいつになく今回の件を心配していた。王女を亡くして恨みに駆られたルイスに加担するのは、賢明ではないと思っているようだ。
「まあな。ルイス殿下がすっかり変わっていたのは確かに気になっているが、ユリウスに任せていたらここはどんどん貧しくなり、市民の生活の質が保障できないだろう」
「……弟が他人の領地の市民を気にするなんて、変わったね」
ハンが驚いていたのを、カイも言われて初めて気付いた。他国の市民のことを考えた判断をすることなどなかった気がする。
「ああ、そうか。ルリアーナの任務のせいか」
カイは少し寂しそうな顔で呟いた。
「ちょっと、弟。また、例のお姫様のこと思い出してるんでしょ?」
ハンは面白くなさそうな顔でカイに詰め寄る。
「ああ、あの王女は市民のために自分の人生を犠牲にするようなところがあったな」
カイが穏やかな顔で王女を思い出して言うと、ハンはむっとした顔をしながら、「ロキといい、弟といい、あとはそのルイス殿下といい……死んだお姫様に心を奪われたままか」と何やら怒っている。
「ルイス殿下は元婚約者だ。俺は直近の主人だった。それなりに喪失感が大きい」
カイは自分に言い聞かせるようにそう言うと、レナを思い出し心を痛めていた。
「気に入らないね。ロキみたいなイイ男と、弟が、たったひとりの女のことでそんなに腑抜けてしまうものかな」
ハンはそう言って怒りを隠さずに、腕組みをしながら眉間に皺を寄せている。
「お兄様は、ロキにこだわるのをそろそろやめた方がいい」
カイがそう言った瞬間、ハンは部屋の机を掌でバンっと叩いた。
「うるさい。自分の感情に気付かない振りを通す弟に言われる筋合いはないよ。正気なのか?」
そうやって鋭い目をしたハンは、さながら戦場にでも立っているようだった。ハンは口調こそ柔らかいが、カイに続く実力の持ち主だ。その辺の兵士の何人分もの殺傷能力を備えている。
「邪推はよせ。俺は単なる主従関係上の繋がりだ」
ハンの鋭い視線にカイは溜息をつくと、ハンは不愉快そうに笑って、「さすが、弟は自分の感情に疎い。他の人間は分からないけど、この僕が弟の持つ恋慕の感情に気付かないとでも思ったのかな?」とカイを睨むが、カイは無反応だった。
「気付いていなかったのなら、その方が幸せだったかもしれないね」ハンはそう言うと、カイの胸倉を軽く掴んで、「だって、故人なんだからさ」と不敵な笑みを浮かべた。
カイはそのハンの手を払いのけると、「まだ、故人じゃない」とハンを睨みつける。
その顔を見てハンは、「ほら、ちゃんとムキになるんじゃないか」と言い捨てるようにカイの側を後にした。
「弟、確認だけど……本当にユリウスを討ってルイス殿下がユリウスの軍を吸収することに賛成なんだね?」
ハンはいつになく今回の件を心配していた。王女を亡くして恨みに駆られたルイスに加担するのは、賢明ではないと思っているようだ。
「まあな。ルイス殿下がすっかり変わっていたのは確かに気になっているが、ユリウスに任せていたらここはどんどん貧しくなり、市民の生活の質が保障できないだろう」
「……弟が他人の領地の市民を気にするなんて、変わったね」
ハンが驚いていたのを、カイも言われて初めて気付いた。他国の市民のことを考えた判断をすることなどなかった気がする。
「ああ、そうか。ルリアーナの任務のせいか」
カイは少し寂しそうな顔で呟いた。
「ちょっと、弟。また、例のお姫様のこと思い出してるんでしょ?」
ハンは面白くなさそうな顔でカイに詰め寄る。
「ああ、あの王女は市民のために自分の人生を犠牲にするようなところがあったな」
カイが穏やかな顔で王女を思い出して言うと、ハンはむっとした顔をしながら、「ロキといい、弟といい、あとはそのルイス殿下といい……死んだお姫様に心を奪われたままか」と何やら怒っている。
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カイは自分に言い聞かせるようにそう言うと、レナを思い出し心を痛めていた。
「気に入らないね。ロキみたいなイイ男と、弟が、たったひとりの女のことでそんなに腑抜けてしまうものかな」
ハンはそう言って怒りを隠さずに、腕組みをしながら眉間に皺を寄せている。
「お兄様は、ロキにこだわるのをそろそろやめた方がいい」
カイがそう言った瞬間、ハンは部屋の机を掌でバンっと叩いた。
「うるさい。自分の感情に気付かない振りを通す弟に言われる筋合いはないよ。正気なのか?」
そうやって鋭い目をしたハンは、さながら戦場にでも立っているようだった。ハンは口調こそ柔らかいが、カイに続く実力の持ち主だ。その辺の兵士の何人分もの殺傷能力を備えている。
「邪推はよせ。俺は単なる主従関係上の繋がりだ」
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カイはそのハンの手を払いのけると、「まだ、故人じゃない」とハンを睨みつける。
その顔を見てハンは、「ほら、ちゃんとムキになるんじゃないか」と言い捨てるようにカイの側を後にした。
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