220 / 221
the 35th day 別々の道
しおりを挟む
ルリアーナ城を後にした4人の騎士は、馬を走らせ同じ道を進んでいた。
暫くすると、次の任務に向かう団長のカイが別の道に進むことを3人に伝え、その場で別れを告げる。
カイは、これからポテンシア王国の第二王子の圧政から市民を守る任務を担うのだ。
「今回は、助かった。俺は次の仕事に向かうが……道中気を付けろよ」
パースに向かう分かれ道で、カイは団員たちをじっくりと眺めながら無事に任務が終えられたことに安堵した。
途中、サラが怪我を負ってしまったが、一歩間違えれば殺されかねなかったあの状況に、打撲程度の怪我で済んだというのは運が良かったのだろう。
「はい。団長も、お気をつけて。留守は、しっかりと守らせていただきます」
副団長になったシンは、そう言ってパースに向かうカイに馬上から頭を下げる。その姿を見てカイは頼もしさを感じると同時に、今回は部下に大した指導もしてやれなかったなと反省していた。
「ああ、頼んだぞ」
カイはそう言うと、部下たちに背を向け愛馬のクロノスを旧パース、今はポテンシア王国に支配された領地へ向けて走らせた。
(もう、ルリアーナの任務は終わった。俺の主人は、これからまた、変わる)
カイは、そんな当たり前のことを考えると、胸の奥にある小さなわだかまりが少しずつ育っていくような気がした。
レナは、カイという側近を失った。
(もともと、金銭が発生する前提の側近だ。契約が終わればこうなることも分かっていたはずじゃないか……)
合計で34日間、レナと過ごした日々が走馬灯のようにカイの中を駆け巡っていく。
『あなたがいてくれて良かった』
夜に、泣きながらその言葉を放ったレナが、今、カイを失って城でひとりになっている。
「くそ……」
カイは自分の中に湧き上がる雑念を振り払おうと、クロノスを全速力で走らせた。そのクロノスに乗って嬉しそうにはしゃいでいたレナは、もう自分の前には乗っていない。
「なんなんだ……」
身体がおかしくなりそうだ、とカイはクロノスの手綱を握りながら目的地までの道を駆け抜けていく。所詮、自分は雇われの外国人騎士に過ぎなかったではないか、と何度も言い聞かせ、歯を食いしばった。
カイは、喪失感を知った。本当に大切なものは、失って初めてその大きさに気付く。
「もっと……護ってやらねばならなかったんじゃないのか……」
カイは、遠ざかっていくルリアーナを背に、胸の張り裂けそうな痛みに必死に耐えた。
「もっと、側にいてやらねば、ならなかったんじゃないのか……!」
カイは悔しさに気が狂いそうになるのを、騎乗の揺れで忘れようとクロノスのスピードを緩めずに進む。
実母のミリーナが目の前で亡くなったのはつい先日のことだというのに、どうしてそんな彼女を置いていかねばならないのだ。
心が軋む音がする。
カイは、自分が自分でなくなっていくような感覚の中で、苦しさに声を上げていた。
「あのカイ・ハウザーに限って、こんなところでくたばるわけないよ」
カイの背を見送り、ロキがシンにそう言って先を急ごうと促した。
「そうだな……。でも、とうとうパースがポテンシアに制圧されたんだよな……」
シンはそう言うと、これから先どうなっていくのだろうかとルリアーナの未来を心配した。
「本当に、不安定な時代になったわね」
サラはそう言ってため息をつくと、亡くなったカイの父、蒼劉淵と、子どもたちの教育に熱心だったカイの母、ホーリーを思い出していた。
あの頃から20年も経っているのに、国同士は争い、身分の差や産まれによる教育の差など、世の中の不条理は変わっていないように見える。
カイ・ハウザーは、親の想いを知ってか知らずか、身分や教育に恵まれなかった若者を雇っては、騎士団経営を行っていた。
(戦争なんかに若者をやらなくても、みんなが笑っていられる方がいいわね)
サラは、前を走るシンとロキの背中を見て、次の時代を担っていく若い芽に思いを巡らせる。
平和な国を駆ける騎士たちの姿は、明日を切り拓いていくような逞しさがあった。
Fin.
第二部につづく・・
暫くすると、次の任務に向かう団長のカイが別の道に進むことを3人に伝え、その場で別れを告げる。
カイは、これからポテンシア王国の第二王子の圧政から市民を守る任務を担うのだ。
「今回は、助かった。俺は次の仕事に向かうが……道中気を付けろよ」
パースに向かう分かれ道で、カイは団員たちをじっくりと眺めながら無事に任務が終えられたことに安堵した。
途中、サラが怪我を負ってしまったが、一歩間違えれば殺されかねなかったあの状況に、打撲程度の怪我で済んだというのは運が良かったのだろう。
「はい。団長も、お気をつけて。留守は、しっかりと守らせていただきます」
副団長になったシンは、そう言ってパースに向かうカイに馬上から頭を下げる。その姿を見てカイは頼もしさを感じると同時に、今回は部下に大した指導もしてやれなかったなと反省していた。
「ああ、頼んだぞ」
カイはそう言うと、部下たちに背を向け愛馬のクロノスを旧パース、今はポテンシア王国に支配された領地へ向けて走らせた。
(もう、ルリアーナの任務は終わった。俺の主人は、これからまた、変わる)
カイは、そんな当たり前のことを考えると、胸の奥にある小さなわだかまりが少しずつ育っていくような気がした。
レナは、カイという側近を失った。
(もともと、金銭が発生する前提の側近だ。契約が終わればこうなることも分かっていたはずじゃないか……)
合計で34日間、レナと過ごした日々が走馬灯のようにカイの中を駆け巡っていく。
『あなたがいてくれて良かった』
夜に、泣きながらその言葉を放ったレナが、今、カイを失って城でひとりになっている。
「くそ……」
カイは自分の中に湧き上がる雑念を振り払おうと、クロノスを全速力で走らせた。そのクロノスに乗って嬉しそうにはしゃいでいたレナは、もう自分の前には乗っていない。
「なんなんだ……」
身体がおかしくなりそうだ、とカイはクロノスの手綱を握りながら目的地までの道を駆け抜けていく。所詮、自分は雇われの外国人騎士に過ぎなかったではないか、と何度も言い聞かせ、歯を食いしばった。
カイは、喪失感を知った。本当に大切なものは、失って初めてその大きさに気付く。
「もっと……護ってやらねばならなかったんじゃないのか……」
カイは、遠ざかっていくルリアーナを背に、胸の張り裂けそうな痛みに必死に耐えた。
「もっと、側にいてやらねば、ならなかったんじゃないのか……!」
カイは悔しさに気が狂いそうになるのを、騎乗の揺れで忘れようとクロノスのスピードを緩めずに進む。
実母のミリーナが目の前で亡くなったのはつい先日のことだというのに、どうしてそんな彼女を置いていかねばならないのだ。
心が軋む音がする。
カイは、自分が自分でなくなっていくような感覚の中で、苦しさに声を上げていた。
「あのカイ・ハウザーに限って、こんなところでくたばるわけないよ」
カイの背を見送り、ロキがシンにそう言って先を急ごうと促した。
「そうだな……。でも、とうとうパースがポテンシアに制圧されたんだよな……」
シンはそう言うと、これから先どうなっていくのだろうかとルリアーナの未来を心配した。
「本当に、不安定な時代になったわね」
サラはそう言ってため息をつくと、亡くなったカイの父、蒼劉淵と、子どもたちの教育に熱心だったカイの母、ホーリーを思い出していた。
あの頃から20年も経っているのに、国同士は争い、身分の差や産まれによる教育の差など、世の中の不条理は変わっていないように見える。
カイ・ハウザーは、親の想いを知ってか知らずか、身分や教育に恵まれなかった若者を雇っては、騎士団経営を行っていた。
(戦争なんかに若者をやらなくても、みんなが笑っていられる方がいいわね)
サラは、前を走るシンとロキの背中を見て、次の時代を担っていく若い芽に思いを巡らせる。
平和な国を駆ける騎士たちの姿は、明日を切り拓いていくような逞しさがあった。
Fin.
第二部につづく・・
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる