アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 35th day 別れの挨拶

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 契約が終了になる日の朝、ルリアーナ城に意外な人物が到着した。

「やあ、また会いましたね、ハウザー団長」
 相変わらず何を考えているか分からない男は、1日だけレナの護衛に入るのだという。

「レオナルド……お前なのか?」
 カイは、その人物の姿にレナを預ける不安が伴う。
 つい数日前にレナの母親を殺した男が、どうしてレナの護衛に抜擢されたのか理解に苦しんだ。

「まあ、すぐに応援が来るんで、1日だけですよ。僕が来たことがそんなに残念ですか?」
 レオナルドはそう言って嬉しそうに笑った。



 出発前、ハウザー騎士団の全員が王女の部屋に呼ばれた。

「いよいよか……。今回の仕事は、楽しかったな」
 シンが誰に言うのでもなく呟くと、
「あたしは、そこそこ痛かったけどね」
 とサラが付け加えたので、シンはそういえば、と思いながらサラを見て気まずそうに笑った。

「今回は、特に食事が良かったな」
 カイがしみじみ思い出して言うのを、
「あと、報酬じゃないんですか?」
 とロキがカイに尋ねる。
「それは、大前提の話だ」
 カイが当たり前のように言ったので、ロキとシンは相変わらずな上司に一瞬言葉を失った。

「レオナルドになんか、任せられない……。契約が終わるとか関係なく、殿下の側にいたいです」
 そう言ったロキの言葉に、
「契約は今日の正午までだ。契約書の範囲を逸脱することについて一番うるさいお前が、それを言うんだな」
 とカイは小さく笑う。

「そういう理性が働かないのが、この病気のやっかいなところですね」
「そうか。一生かかりたくないものだ」
「残念。団長みたいな堅物が、女性に翻弄されるようなことがあったら面白かったのに」

 レナの自室の前で、ロキはカイの前に手を差し出した。その手をカイはぐっと握ると、
「たまには、連絡を寄越せよ。あと、顔も見せに来い。それから……」
 と言ってロキを心配してブツブツ言い始めたので、
「ほんとあんたは俺の何なんだよ」
 とロキは吹き出した。

「任務を離れたら、親友だろ」
 カイが迷いなく言ったのを、ロキは穏やかに受け止めると、
「光栄だな、カイ・ハウザー。金に困ったらまた頼ってくれていいよ」
 と笑う。
「ひとこと余計だ」
 カイはそう言ってロキを軽く抱きしめた。

 その様子を見ていたシンは、そういえば、任務が終わったら3人で飲もうと約束したのだったと思い出した。
 忙しいカイとロキのことだ、その機会はシンの結婚式の時になるのかもしれないなと漠然と予感がした。


「ハウザー騎士団の皆様……。この1ヶ月間、本当にご苦労様でした。ただの護衛業務のように依頼しておきながら、調査に行ってもらったり、私の命を救ってもらったり、感謝してもしきれません……」
 レナの部屋に呼ばれた4人は、跪いて王女の言葉を受けていた。

「あなたたちがいてくれて、本当に良かった。もっと一緒にいてもらいたかったけれど、ひとまずは任務終了です。また会える日まで、ひとまずお別れを言わなければならないわね」

 レナは泣きそうになっていた。

「いつでも、声を聞かせて下さい。あと、ここにいる全員、殿下の幸せを心から願っています」
 ロキがにこやかに言う。

「あたしも、ルリアーナに娘ができたつもりで殿下のことを想っていますよ」
 サラもそう言って明るい笑顔でレナを見つめている。

「ハウザー騎士団の副団長は、殿下のためならすぐに駆け付けますので、いつでも」
 シンもレナに優しい笑顔を向けた。

「団員が勝手なことを言っているが……。王女殿下、どんな時でも自分と未来に悲観するな。必要な時には、必ず駆け付ける」
 カイもいつもの少し意地悪な顔で口角を上げてレナを見ていた。

 レナはいつもの笑顔で笑った。最後くらいは笑って送りたいと4人の姿を目に焼き付けている。

 レナの部屋に和やかな時間が流れていた頃、隣の部屋で気配を消していたレオナルドは、
「ふうん……。そんな感じなんだ……」
 と興味深げにやり取りを聞いていた。
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