アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
214 / 221

the 34th day 忍ぶれど

しおりを挟む
 レナとカイは、以前立ち寄ったバールで食事をとっていた。
 レナには毒見役が要るため、カイが試しに食べたものをレナが食べることになる。そんな事情もあるためカイは食事を済ませてから外出しようと提案したのだが、レナは断固譲らなかった。

(男がひと口ずつ食べたものを女が食べる光景は、異様すぎるだろ)

 カイはそう思いながら、運ばれてきた食事の毒見を全て済ませる。町のバールだというのに食事のレベルが高く、何度も毒見中に感心した。

「野菜が旨いっていうのは、すごいことなんだな」
 カイがそう言って食事を褒めているので、レナは嬉しそうに笑う。
「この国の野菜は、ブリステとは違うの? 遠慮しないで食べてね。今日は私の奢りよ」

 この日、レナはお金を持って来ていた。ブリステ公国もルリアーナ王国も、男性の地位の方が高く、支払いは男性が済ませるのが通常だった。
 カイは、傍から見たら自分は奴隷か何かに見えるのではないか、と複雑な気分になり、食事を楽しんで深く考えないように努める。

「ブリステとルリアーナでは、土壌が違うのかもしれないな。野菜の味が濃い、という言葉の意味が分かった」
 カイはそう言いながら、チーズソースのかかった野菜のグリルに舌鼓をうつ。レナは最初から最後までカイは食事に感動し続けているなと、カイの姿を眺めながら嬉しくなった。

「お酒は? せっかくバールに来たんだし、遠慮しないで」
 レナが飲酒を勧めたのを、カイは断った。

「今日は止めておく」
「どうして……?」
「明日は、移動が長いからな」

 カイが何気なく言った「明日」のことに、レナは泣きたい気持ちになったのをなんとか堪えた。その「明日」が永遠に来なければ、カイは自分の護衛のままだったはずだ。

「どうした?」
 無口になったレナを心配して、カイが口を開く。

「明日、カイがいなくなっちゃうのねって、思っただけよ」
「おい、呼び方……」

「ねえ、カイル」

 レナは気を取り直して偽名でカイを呼ぶ。小さなバールの片隅で、世を忍ぶことがどれだけ有効なのかは疑わしい。
 本当は、本名で呼び合いたかった。殿下ではなく、レナと呼ばれることは、とうとう叶わなかったのだ。

「これから先、またあなたに会いたくなったら、どうすればいい?」
「そんなに深く考えずとも、呼びたい時に呼んでくれればいい。赤の他人じゃないんだ、深い理由などなくても駆け付ける」

 カイは穏やかな顔で肉を切っている。レナはその様子を複雑な顔で見ていた。本当に呼べば快く来てくれるのだろうか、疑わしい。この目の前にいるのは、金の亡者ではないのか。

「信じるわよ、カイル。私、どうしてもあなたと再会したいの」
 レナが思い詰めたように言ったのを、
「ルナのことだ、また何か愚痴でも言いたくなったら呼べばいい。俺は何もできないが、不満を吐き出す先にはなれるだろ」
 と、カイは当然のように答える。

「お願いね……。それを頼れる先が、あなたしかいないの」

 レナは、胸がいっぱいで食事がろくに喉を通らなかった。カイはその様子に、食事が口に合わなかったのかと心配している。

「違うの。食事のせいじゃなくて……。明日のことを考えたら、寂しくて」
「そうか……」

 その後2人は、何を言ったらいいのか分からず、無言で食事に向き合っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...