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the 34th day 最後の昼食を
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翌日には出発してしまうハウザー騎士団と、レナは昼食の席を設けていた。
「ルリアーナの食事は、最初から最後まで良かったですね」
レナの部屋に向かう途中、ロキがカイに声を掛ける。
「確かにな」
カイはしみじみとこれまでを思い出して頷いている。
「団長、あからさまに食事を楽しみにしてましたよね」
思えば、シンはカイが食事でこんなに感動しているところを初めて見たのだった。
「最後か……」
ロキは、自分の立場を自覚している。レナと一緒のテーブルを囲む機会など今後は訪れないのが分かっていた。
「ひとまず、任務完了だからな」
シンはそう言ってロキの肩を叩く。それまで束ねていた髪は、結わえなくなっていた。
「分かってるよ。納得はしてないけど」
ロキはシンに声を掛けながら、先頭にいるカイの前で部屋の扉が開かれたのをじっと見ていた。
「最後なんてしんみりしちゃうのは嫌だから、楽しく過ごしたいんだけど……」
レナは4人を前に着席してそう言ったが、その場の誰よりもしんみりとした顔をしている。
「折角だから、ルリアーナの食について今一度紹介してもらおうか?」
カイが珍しく気を遣ってレナの気を紛らわせようとしたので、シンとロキが驚いてカイを見た。サラは、本来のカイらしいところを久しぶりに見たなと穏やかな顔をしている。
「そうね。じゃあまずは……前菜からね」
レナは運ばれてきた前菜を前に、料理の説明を始めた。
「これは、『ようこそ』という意味のひと口の前菜で、料理人の歓迎を表現した料理なの。うちのシェフは、あんまりランチではこの前菜を振舞わないのだけれど……今日は特別」
ひと口サイズの前菜は、ミニトマトの下に何かのソースが敷かれた料理のようだった。4人はそれを口に入れて、
「香りが……」
と感動している。ルリアーナ城のシェフはハーブの使い方が上手いらしい。
「いつかの羊肉も、ハーブが絶妙だったが……こんな料理があるとは、本当に興味深いな」
カイが心から感動している様子に、レナは口元を緩めた。
「みなさんにとって、ルリアーナの仕事が……多くの任務のうちのひとつにすぎないのは分かっているけれど、この料理を気に入ってくれたのなら、また気軽に食べに来てくれたら嬉しいわ」
レナが微笑んで言ったので、
「どこの図太い騎士が、ふらっと異国の王女を訪ねられると思うんだ……」
カイが呆れながらレナに挑戦的な視線を送る。
「ハウザー騎士団くらい、お金で物事を判断してくれるところなら可能じゃないの?」
レナも負けずに口角を上げてカイに対抗した。
「言ってくれるな。俺は次の任務がパースなので……終わったら昼食のために立ち寄るか」
「あっ……団長ずるい!」
「抜け駆けやめましょうよ!」
「あーもう、あんたたちうるさいわよ。落ち着いて食べられりゃしないわ」
ハウザー騎士団の4人が賑やかに昼食を囲んでいるのを、ハオルがしんみりと寂しく見つめ、レナは気を抜くと涙が出そうになるのを抑える。
「お願いだから、気軽にまた来てね。私が、会いたいから」
レナが振り絞るように言ったのを、
「この通り、うちの人間はいつでも歓迎だ」
とカイが明るく返す。全員が、笑顔をレナに向けていた。
「じゃあ、命令よ……ハウザー騎士団。また、私を訪ねに来てね」
レナの声が僅かに震えていた。
「承知しました、王女殿下」
カイが軽く頭を下げたので、部下の3人も頭を下げる。給仕に入っていたハオルは涙をハンカチで拭い、レナは3人の頭が下がっている間に、じんわりと浮かんだ涙を食事用のナプキンで拭いた。
「顔を上げて」
頭を起こした4人に、レナはキラキラと輝く瞳を細めて嬉しそうに笑う。
その昼は、全員でこれまでの1ケ月を振り返り、笑いの絶えない席になった。
「ルリアーナの食事は、最初から最後まで良かったですね」
レナの部屋に向かう途中、ロキがカイに声を掛ける。
「確かにな」
カイはしみじみとこれまでを思い出して頷いている。
「団長、あからさまに食事を楽しみにしてましたよね」
思えば、シンはカイが食事でこんなに感動しているところを初めて見たのだった。
「最後か……」
ロキは、自分の立場を自覚している。レナと一緒のテーブルを囲む機会など今後は訪れないのが分かっていた。
「ひとまず、任務完了だからな」
シンはそう言ってロキの肩を叩く。それまで束ねていた髪は、結わえなくなっていた。
「分かってるよ。納得はしてないけど」
ロキはシンに声を掛けながら、先頭にいるカイの前で部屋の扉が開かれたのをじっと見ていた。
「最後なんてしんみりしちゃうのは嫌だから、楽しく過ごしたいんだけど……」
レナは4人を前に着席してそう言ったが、その場の誰よりもしんみりとした顔をしている。
「折角だから、ルリアーナの食について今一度紹介してもらおうか?」
カイが珍しく気を遣ってレナの気を紛らわせようとしたので、シンとロキが驚いてカイを見た。サラは、本来のカイらしいところを久しぶりに見たなと穏やかな顔をしている。
「そうね。じゃあまずは……前菜からね」
レナは運ばれてきた前菜を前に、料理の説明を始めた。
「これは、『ようこそ』という意味のひと口の前菜で、料理人の歓迎を表現した料理なの。うちのシェフは、あんまりランチではこの前菜を振舞わないのだけれど……今日は特別」
ひと口サイズの前菜は、ミニトマトの下に何かのソースが敷かれた料理のようだった。4人はそれを口に入れて、
「香りが……」
と感動している。ルリアーナ城のシェフはハーブの使い方が上手いらしい。
「いつかの羊肉も、ハーブが絶妙だったが……こんな料理があるとは、本当に興味深いな」
カイが心から感動している様子に、レナは口元を緩めた。
「みなさんにとって、ルリアーナの仕事が……多くの任務のうちのひとつにすぎないのは分かっているけれど、この料理を気に入ってくれたのなら、また気軽に食べに来てくれたら嬉しいわ」
レナが微笑んで言ったので、
「どこの図太い騎士が、ふらっと異国の王女を訪ねられると思うんだ……」
カイが呆れながらレナに挑戦的な視線を送る。
「ハウザー騎士団くらい、お金で物事を判断してくれるところなら可能じゃないの?」
レナも負けずに口角を上げてカイに対抗した。
「言ってくれるな。俺は次の任務がパースなので……終わったら昼食のために立ち寄るか」
「あっ……団長ずるい!」
「抜け駆けやめましょうよ!」
「あーもう、あんたたちうるさいわよ。落ち着いて食べられりゃしないわ」
ハウザー騎士団の4人が賑やかに昼食を囲んでいるのを、ハオルがしんみりと寂しく見つめ、レナは気を抜くと涙が出そうになるのを抑える。
「お願いだから、気軽にまた来てね。私が、会いたいから」
レナが振り絞るように言ったのを、
「この通り、うちの人間はいつでも歓迎だ」
とカイが明るく返す。全員が、笑顔をレナに向けていた。
「じゃあ、命令よ……ハウザー騎士団。また、私を訪ねに来てね」
レナの声が僅かに震えていた。
「承知しました、王女殿下」
カイが軽く頭を下げたので、部下の3人も頭を下げる。給仕に入っていたハオルは涙をハンカチで拭い、レナは3人の頭が下がっている間に、じんわりと浮かんだ涙を食事用のナプキンで拭いた。
「顔を上げて」
頭を起こした4人に、レナはキラキラと輝く瞳を細めて嬉しそうに笑う。
その昼は、全員でこれまでの1ケ月を振り返り、笑いの絶えない席になった。
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