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the 34th day 王女の気持ち

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 朝が来て、レナは熟睡できなかった身体をベッドから起こす。まだ使用人が起きてくる前の時間だったが、じっとしていることができなかったのだ。

 レナは今日が始まってしまった寂しさを抱えながら、ゆっくり身支度を始めた。

 一人で始めた着替えは、中途半端なところで断念しなければならなかった。ドレスの背中を締める紐が、手が届かずどうすることもできない。
 レナは、一人で着られないようなドレスを身に着けている自分がどうしようもなく不自由な存在に感じた。
 背中から垂れた紐に、自分の運命を重ねてため息をつく。

 今夜はカイと城下町に行く約束をしている。
 レナは、最後の夜だからこそ、カイと過ごしたいと我儘を言った。主従関係を利用してしまったが、そうでもしなければカイの時間を独り占めすることは適わない。


 何度考えても、どこに行きたいのか、何をしたいのかが決められなかった。
 候補を出す度に、最後の時間に本当にしたいことなのかどうかで判断がつかなくなってしまったのだ。

 あえて「何をしたいのか」と聞かれたら、カイと一緒にクロノスで出掛けた時のように身体を寄せ合い、手の温もりを感じていたい。

 が、それを堂々と願い出るのは、婚約者がいる王女として、あってはならないことなのだろう。
 想いを秘める程度であればまだしも、この状況で不適切な行動してしまうのは軽率に違いない。

「覚悟はできた? 何事も、始まりがあれば終わりがあるのよ?」

 鏡の中の自分に声を掛け、力なく笑った。
 今日一日を終え明日が来たら、大切な護衛は自分の元からいなくなってしまうのだ。

 カイに伝えたいことを、これまでの感謝を伝えよう。最後だと思えば、どんな失敗をしても怖くないような気がしてきた。

 レナはいつも首から下げているガラス玉のペンダントを外し、キラキラと光る小さなペンダントトップを見つめる。

(いつ見ても、綺麗)

 カイから、特に深い意味もなく贈られたものだった。
 それが宝石ではなくただのガラスだったとしても、レナはカイから贈られた唯一のプレゼントとして、毎日コッソリと服の下に隠すように身に着けていた。
 そう考えると、自分でも気付かないうちからカイのことが好きだったのかもしれない。

 そんなことが分かったところで、もうカイ相手に想いを伝えることも、心を通わせることも適わないのだ。

 ペンダントをそっと胸元に隠すようにすると、肌をガラスの冷たい感触が刺激する。

(今日は、一緒に過ごせるんだから……)

 レナは、前向きになろうとする心とは裏腹に悲しい顔になってしまう己を直視できず、鏡台の前でそっと目を閉じた。
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