アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 33rd night 離れても

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 その日の夜、レナは自室の隣の部屋を訪ねた。シフトを聞いていないので、誰が居るかは知らない。そこには、シンとロキの姿があった。

「2人の時間にお邪魔してしまうのは、ご迷惑かしら?」
 レナはそう言って遠慮しようとしたが、シンとロキが必死に止めたので3人で話をすることになる。


「今回の任務も、残すところ1日で……。明後日の昼には、もうみんなここを出るじゃない? 改めて、お礼を言わなきゃならないわね」

 レナがソファに腰かけてしんみりと話を始めたので、シンとロキは寂しそうにレナを見ていた。

「これからは、ルイス様のところから護衛が来るんですか?」
 シンが心配そうにレナに尋ねると、
「そうね、パースがポテンシアになったから、パースから護衛を呼ぶこともできないし、やっぱりポテンシアでもルイス様を頼るのが一番安心かなと思っているわ」

 レナは淡々と言った。納得しているように見えるその姿の奥に、恐らく不安を抱えているのだろうと2人はレナを見る。

「任務が終わってからも、殿下のために何か出来ることってないですかね??」
 不意にロキが言ったのでシンは驚いたが、何かとは何だろうと考えてみる。

「雇用関係以外でも、何か力になれることかあ……」
 シンが何気なく言った言葉に、ロキは「あっ」と声を上げた。

「相談相手、要りませんか?」
 ロキが言うと、レナは首を傾げる。
「勿論、相談相手はいつでも欲しいけど……」
 レナが何の話だろうと不思議そうにロキを見ていると、ロキは懐から小刀を出した。

「?!」

 シンとレナは急に刃物を持ち出したロキに驚いたが、ロキはその小刀を自身の髪の結び目に当て、ブチブチと音を立てながら髪をむしる様に切る。

「これ……こんなものしか無いんですけど……。遠くに声を届ける術には、相手の身体の一部があれば大丈夫なんですよね? 俺、この国を離れたら本当に何の関係も無いただの外国人の平民になっちゃいますけど、相談とか、愚痴とか、そういうの位ならいくらでも聞いて差し上げたいんで」

 ストレートで美しいプラチナブロンドの髪が無造作に切られ、ロキは長さの揃わない不格好な髪になっていた。
 レナは差し出された結び目のある髪をそっと受け取る。

「これから……友人として、何かあったら外国人の方が頼れることがあるかもしれませんし」
 ロキはそう言って笑顔を浮かべた。

「友人……」
 レナは、妙にその言葉が嬉しかった。身分を越えた友人というのは、特に欲しかったもののひとつかもしれない。

「いや、でもロキ、その髪は……何て言うか……見てらんないな……」
 シンはロキの髪があまりに見るに堪えない体をしているのを、不満気に眺めた。

「髪なんてすぐ伸びるよ」
 当の本人はあまり気にしていないようなのが、シンは余計に納得いかない。

 今は夜で暗がりの中だ。小さな明かりに照らされた姿だけでもこれだけ違和感があるのに、朝になったらどれだけ見るに堪えないのだろうとモヤモヤしている。

「いいよ、朝になったら、団長と一緒にハサミで整える」
 シンはそう言って、この場では納得することにしたようだ。

「それにしても、本当に綺麗な髪ね」

 レナはロキの髪を触りながら驚いている。癖毛のレナと違い、ストレートで指通りの良いロキの髪が、こんな形で切られてしまったことが勿体ない。

「話を聞くくらいしか出来ませんけど、遠慮しないで下さいね。シンは国に帰ったら所帯持ちだし、団長は次の任務でパースに行くみたいだけど、俺は気ままな社長業なんで」
 そう言ってロキは長さの整わない髪を揺らしながら、ニッコリと笑った。

「気ままねえ……」

 シンはそう言ってロキをじろりと見ている。
 気ままと言うには、ロキの会社はそれなりの規模があるのだ。任務が終わってからも、そんなに声が聴きたいのかと察してしまう。

「ありがとう」
 レナは嬉しそうに頷き、必ず連絡をすると約束した。
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