アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 32nd day 業務的な連絡

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 レナのところに、ルイスからの書簡が届いた。
 どうやら、あちらはパースを落としたポテンシア王国内のごたごたで、あらゆることが立て込んでいるらしい。

 ルイスは、すぐにでも会いに行きたい、無事を確かめたいという熱心な気持ちを情熱的に綴った後、国内の状況があまりにも不安定で、今すぐには向かえそうもないと残念そうに書いている。
 ハウザー騎士団が発つ前には護衛がレナの元に到着するように手配をしたので、数日はその護衛を頼るように、そのうち必ずレナの元を訪れる、と約束のように締められていた。

(安心してるわ、私……)

 レナは、婚約者の来訪がすぐにないことにホッとしていた。その事実を意識すると、これで良かったのだろうかと人生の選択に自信がなくなる。

 もうすぐ、カイとハウザー騎士団のみんなは城からいなくなってしまう。最後の夜にはカイと最後の城下町に行くことになっていた。

(楽しみ、と素直に思えない位には……最後の時間が来ることが寂しい)

 残りの時間、カイと顔を合わせるだけで泣きたくなりそうだ。
 そう思う度に、レナは自分の中にあるこのモヤモヤとしたものが恋なのだろうと思い知らされる。政略結婚をする前に一度恋を知りたいとは願っていたが、想像したものとは随分違っていた。

 レナは、恋とは幸せな気持ちになるものなのだと、勝手に想像していたのだ。こんなに苦しいものが恋だとは、思ってもみなかった。想いを寄せて焦がれるとは、決して幸せな気持ちになる行為ではなかったらしい。

 レナは、ルイスの手紙に再度目を落とす。
 この手紙を寄越した相手と、将来を共にするのだ。どうしてこんなに他人事のようなのだろうか。

 レナが呪いに倒れた時、ルイスは寝ずに駆け付け兵を出し、解決に向けて尽力してくれた。ルイスは決して悪いパートナーではないし、愛情のようなものすら感じる。相手として不足なところは、考えてみても見当たらない。

(好きな人がいようがいまいが、王女として相手を選ばなければいけないのは、分かっていたことだけれど)

 レナはため息をついて、現実を受け入れなければと遠くを見る。
 いつかの夜に、カイに弱音を肯定された。あの時はずっと黙って側に付いていてくれたのだったなと、カイの行動を思い出す。

 カイに、ただ側にいてくれるだけで良いと、感情に任せて引き留めたら納得いく結果が得られるのだろうかと、ふと過った。

(きっと、そんな単純なことではないけれど……この気持ちを伝えることすらできないのはつらいわね)

 レナは、ルイスに返事を書き始めた。
 それは、婚約者宛の内容とは到底思えない、ルリアーナ王国第一王女としての文面だった。
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