アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 32nd day 王国の歴史

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 シンは不満を抱えながら国立図書館に到着すると、ロキの姿を見つけて小声で文句を言うことにした。

「なんで、団長が戻って来たんだよ……?」
「いや、だって使えないんだから仕方ないだろ……」

 ロキが当たり前のように言い返したので、シンは不本意ながらも諦めるしかないかと、図書館の調べものに協力することにする。人には向き不向きというものが確かにある。

「童話とか、絵本の棚は確認したか?」
「なんで……あっ」
 シンの提案にロキはハッとした。

「建国とか宗教とか、その辺の情報なら童話や絵本は基本だろ?」
 シンが当たり前のように言ったので、思わぬ盲点にロキは驚く。
「そうだね……。忘れてた」

「早くここの調べもの終わらせてさ、明日には図書館の調べものに来なくていいようにしよう。俺も殿下の護衛に入りたいし……ロキだってそうなんだろ?」
 小声でシンはそう言ってロキの顔を覗き込む。

「はは……そういうの、ちゃんとバレてるんだ」
 ロキは小さな声で言うと、少し唇を震わせた。自分など王女にとってはいてもいなくても同じなのだろうと、半ば拗ねた姿勢で調べものに向かっていた。
 ロキは、シンには何も隠せないなと反省する羽目になる。

「まあ、団長がこの場で使えないのは分かったよ。明日と明後日は、ずっと殿下の側で護衛できるように、片付けよう」
「そうだね。シンがいるなら、今日中に片付く気がしてきた」
 2人は目の前に広がる本の海を前に、必ずこの国のルーツを探し出す決意を固めた。


「ビンゴだな」
 シンは1冊の童話と2冊の絵本をロキに手渡した。
 1冊は『女王と国の始まり』という児童文学書で、もう1冊は『ヘレナのぼうけん』という絵本、最後の1冊は『不死鳥になった鷹』という少し大人向けの絵本のようだった。

 内容を読み込むと、建国の女王らしき『ヘレナ』という女性が主人公の物語だった。鷹を連れて故郷から高い山脈を越えルリアーナの地を見つけ、そこに人を定住させた歴史らしき内容が分かる。

 リブニケ王国とルリアーナ王国は高い山脈を境に隣接している。
 殆どの者が容易には越えられないが、記述から読み取るとリブニケ王国側から入国してきたということか。

「これだけ探して、児童文学と絵本だけにしかその辺のことが書かれていないってのも不思議だけど、正教会が女王を祀っていた時のステンドグラスと同じで、建国に関わった女王が外国から来たことは間違いなさそうだね」
「しかも、女王は呪術らしい力で雨をもたらして、ルリアーナに農業を発展させたんだ。本当だとしたら、呪術師の力でこの国は農業国になったのかもしれない」
 2人は、この事実から導き出される答えに愕然とした。

「リブニケ王国が、呪術をこの国に持って来たとしたら、リブニケにも呪術が根付いているのか……? そして、ルリアーナにまだリブニケ王国との繋がりがどこかであるのだとしたら、ポテンシアへの侵攻を諦めていない可能性があるぞ……」

 ハウザー騎士団の本拠地があるブリステ公国は、リブニケ王国から独立した歴史がある。2人はリブニケ王国が侵略や略奪の志向が強い国だということを、嫌というほど知っていた。
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