アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 32nd day いないと寂しいから

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 その日の朝、カイは残り3日の任務の1日を国立図書館で過ごすか、それともレナの護衛に就くかで迷っていた。
 昨日はサラに護衛を任せ、シンとロキの3人で国立図書館に王家やリブニケ王国とルリアーナ王国の関係性を調べに行ったのだが、サラから王女が寂しがっていたと報告を受けた。

(いや、寂しがっていたのはサラだけ残してみんなで城を不在にしたからじゃないか?)

 カイは、レナが寂しがったのは自分がいなかったからというわけではないだろうと、その日も国立図書館に行くつもりだった。


「だから、王女様が寂しがってるって言ってんでしょうが」
 騎士団の4人が集まってその日の業務についてを話している途中に、カイはサラから説教を食らった。

「いや、何でだ」

 カイが思い切り眉間に皺を寄せている。残念ながら、サラの言っていることが理解できない程度には、カイは他人の感情に疎い。

「任務も残り3日だからでしょう……。ずっと王女様の側で支えてた団長が、昨日長い時間不在だったから不安そうだったわよ?」
 サラがカイをじろりと見て言うと、シンとロキは少しつまらなそうにした。

「団長だけですか、それ……」
「俺たちがいないことに対しても寂しがってくれてましたよね?」

 対して、シンとロキは、カイだけが王女の特別だとは認めていない。自分たちも昨日はカイと共に国立図書館にいて城を不在にしていたのだ。

「面倒だわね……。もう……」

 サラは目の前の3人を見てウンザリしていた。カイはカイで王女の気持ちなど理解できないでいるし、シンとロキは王女の気持ちがカイにだけあるとは認めたくないらしい。このままでは何も解決しない。

「王女様の護衛を、交代制にしてあげて下さいよ……。残りの日数が少なくて寂しがってらっしゃるのよ」
 サラが提案すると、カイ以外は喜んでその意見に賛成した。

「殿下に寂しがっていただけるなんて、生きてて良かったなあ……」
 シンが大袈裟にそう言って喜ぶと、
「しっかり目に焼き付けておかないと、後悔しそう……」
 とロキはもうすぐ離れることになるレナの姿を、必死に覚えていようと決意している。

「お前ら……。本当に最初から最後までその姿勢は変わらないんだな」
 カイが呆れたように部下に声を掛けながら、あの王女も随分と部下に気に入られたものだと思わず口元が緩んでいた。

「団長、あの王女様は、数少ない理解者のひとりになりそうよ。任務が終わってからも定期的に連絡を取りましょ。またお仕事になりそうだわ」
 サラが深い意味もなく提案する。

「数少ない理解者か。なるほどな」
 カイはそう言って納得したように見えたが、理解者の持つ意味に違和感が拭えない。

 改めてレナをクライアントとして見ることに、カイには何故か抵抗があった。
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