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the 31st night 馴れ初めを教えて
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レナは夜の時間をどう過ごそうか考えていた。どうしてもすぐに眠る気になれず、やはり隣の部屋に行こうと決める。隣にハウザー騎士団の誰かが護衛に入る夜も残り少ない。
扉を叩いて隣の部屋に声を掛けると、シンとロキの声がした。今日は2人一緒に護衛に入っているのだと知る。
「こんばんは。2人と一緒なのは久しぶりね」
レナが扉を開けて嬉しそうに言うと、それを見た2人も嬉しそうに笑う。
「今日は、シンに少し聞きたいことがあるかも……」
レナがそう言って部屋に入ると、ロキがレナをソファにエスコートして座らせた。
「急にどうしたんですか? 俺の話って……?」
シンは、自分がレナに何を話すのだろうかと不思議そうにしたが、
「シンって、婚約者がいるんでしょ? どんな感じで付き合って、結婚まで決まったの?」
とレナに聞かれて、「ああ」と頷いていた。
「彼女が団長の同級生で……うちの会計士をしてるのって、ご存じなんでしたっけ?」
シンが話し始めると、レナは頭を振った。
「彼女は、まあ普通に団長のことが好きだった男爵令嬢で、自分から団長に会計士として売り込みをかけて採用されたくらいの子なんですよ」
「そうなの? 自分の売り込みが出来るのはすごいわね」
「はい、まあ、初めて会ったのは俺とロキが騎士団に入ったばっかりの時で。制服を作るから採寸をさせろって俺たち、彼女に身体中計られて」
シンが笑って話していると、
「あーほんと、思い出したらムカついてきた」
と、ロキは不機嫌そうにしている。
「なんか、その採寸した身体中のデータを、彼女なりに趣味で計算してるらしく、急に彼女に『実はすごくスタイル良いのね』って。声かけられて」
シンが照れながら話す。
「心から気持ち悪いよ、ホントに。俺は『あなた顔が良いからって良い気になってるのかもしれないけど、大したことないわよ』って得意気な顔して喧嘩売られたからね……。一体、身体のどこの数字をどう計算したらそういうこと言えるんだよ」
対照的に、ロキは思い出しながらムカムカしていた。
「それから、割と毎日他愛もない会話をするようになって、まあ、可愛い子だったから、悪い気はしなくて。団長のことが好きなのは知ってたから、たまに相談にも乗ったりしてました」
シンがそう言って話す彼女の話は、いつも優しいシンの顔をより穏やかにしているようでレナは温かい気持ちになる。
「で、1回割とハードな戦場の仕事が入ったとき、彼女の様子がちょっとおかしかったんです。心配してくれてたのか分からなかったけど、出掛ける時に声を掛けたら無視されちゃって、あれ? って」
シンはニコニコして話しているが、ロキの眉間には皺が寄っている。
「で、行ってきまーすって出発したら、彼女追いかけてきて、『死んだら許さない、でも、無事に帰ってきたら付き合ってあげても良いから!』って言うので、『じゃあ、無事に帰って来るよ』って。まあこの通り無事に帰ったので、付き合いました」
シンが照れながら話す内容に、
「へえ、彼女、いつの間にかシンのことが好きだったのね。シンが危ない任務に行くって知って、自分の気持ちに気付いたのかしら?」
とレナが楽しそうに喜ぶ。
「偉そうな言い方だよね……。シンはそれで良いのかもしれないけど、俺が許せないんだよホントに」
ロキはずっとイライラしていた。
「ロキ、そんなにシンの彼女が苦手なの?」
レナが不思議そうに尋ねると、
「俺と彼女……リリスは犬猿の仲なんです。彼女も俺がシンと仲が良いのが気に入らないし、俺もリリスがシンの彼女なことが気に入らないっていう、ある種の相思相愛なんですよ」
とロキは言い捨てた。
「うーん、ロキの好みとは違うだけで、彼女の性格は本当に可愛いんだけどね。リリス、我が強いからロキみたいなタイプとはぶつかりやすいんだよな」
シンは思い出して嬉しそうだったが、ロキは相変わらず苦い顔をしていた。
「で、付き合い始めたら、彼女がすぐ親を紹介したいって言いだして……」
「いやいやいやいや、怖い怖い怖い怖い!」
ロキは突っ込みながら青ざめている。
「いや、俺もさあ、彼女の家って貴族なわけで、農民で親の借金を抱えてる身だし、どんな顔して会いに行けばいいのか分かんなくて……」
シンが当時を思い出して物憂げな表情を浮かべると、
「えっ? 気にするところ、そこなのかしら?」
とレナが思わず突っ込んだ。
「殿下、そうなんです、そこじゃないんですよ」
ロキもレナの言葉に頷いている。
「まあ、結局彼女の家に行って親公認って形になったんで、もうすぐ結婚するんですけどね」
「……うわー怖。結婚式で俺、ちゃんと祝えるかな……」
シンとロキの温度差はすごいが、レナはシンが幸せそうなことが嬉しくなった。
「随分彼女主導みたいだけど、良かったわね」
レナがシンに言う。
「そうですね。男爵令嬢と借金持ちの農家なんて、不釣り合いに違いないのに、リリスとご両親は人として公平に見てくれるから、ありがたいですよ」
シンの何気ない本音から、平民と貴族の間での婚姻も簡単ではないのだろうとレナは理解する。
「そうやって、一生尻に敷かれるんだろ……」
「まあね、でも、リリスと家族になるのが楽しみだよ。早く子ども欲しいし」
シンは嬉しそうだった。
「こ……ども……?」
レナがその言葉に思い切り驚いたので、
「ああ、俺、子ども好きなんですよ。リリスはちょっと苦手みたいなんだけど」
と、シンはサラリと言った。
「いい父親になりそうだよなー。シンは。」
ロキが心からそう言うと、レナは、
「そうよね……結婚するんだから、家族計画もあるわけよね……」
と衝撃を受けているようだった。
「ええ、そうですね?」
シンが不思議そうにレナを見る。
「恋愛と結婚が結び付いて、それが家族に繋がるって……。私の生きてきた価値観の中にはなかったのよ」
レナがそう言うと、シンとロキは言葉を失った。
「ああ、そうですよね……。すいません、勝手に惚気たりして」
「ううん、気にしないで。シンのことが分かって、話が聞けて本当に良かったわ」
レナは笑顔を浮かべている。ロキはその顔を横目に見ながら、何を言えば良いのか分からなかった。
(普通の幸せって、なんだろうな)
ロキはぼんやりと考えながら、そもそも普通などという曖昧な言葉で何かを語ってはいけないのだとレナを見つめた。
シンが当たり前のように言った「子どもが欲しい」は、王族の間では権力の意味を持たずに使うことはない言葉なのだろう。
(こんな純粋な人に、そんな重いものを背負わせないで欲しいよ……)
自分の感情を抑え、国のために王位継承者を産まなければならない運命を持つ王女に、ロキは胸が締め付けられた。
扉を叩いて隣の部屋に声を掛けると、シンとロキの声がした。今日は2人一緒に護衛に入っているのだと知る。
「こんばんは。2人と一緒なのは久しぶりね」
レナが扉を開けて嬉しそうに言うと、それを見た2人も嬉しそうに笑う。
「今日は、シンに少し聞きたいことがあるかも……」
レナがそう言って部屋に入ると、ロキがレナをソファにエスコートして座らせた。
「急にどうしたんですか? 俺の話って……?」
シンは、自分がレナに何を話すのだろうかと不思議そうにしたが、
「シンって、婚約者がいるんでしょ? どんな感じで付き合って、結婚まで決まったの?」
とレナに聞かれて、「ああ」と頷いていた。
「彼女が団長の同級生で……うちの会計士をしてるのって、ご存じなんでしたっけ?」
シンが話し始めると、レナは頭を振った。
「彼女は、まあ普通に団長のことが好きだった男爵令嬢で、自分から団長に会計士として売り込みをかけて採用されたくらいの子なんですよ」
「そうなの? 自分の売り込みが出来るのはすごいわね」
「はい、まあ、初めて会ったのは俺とロキが騎士団に入ったばっかりの時で。制服を作るから採寸をさせろって俺たち、彼女に身体中計られて」
シンが笑って話していると、
「あーほんと、思い出したらムカついてきた」
と、ロキは不機嫌そうにしている。
「なんか、その採寸した身体中のデータを、彼女なりに趣味で計算してるらしく、急に彼女に『実はすごくスタイル良いのね』って。声かけられて」
シンが照れながら話す。
「心から気持ち悪いよ、ホントに。俺は『あなた顔が良いからって良い気になってるのかもしれないけど、大したことないわよ』って得意気な顔して喧嘩売られたからね……。一体、身体のどこの数字をどう計算したらそういうこと言えるんだよ」
対照的に、ロキは思い出しながらムカムカしていた。
「それから、割と毎日他愛もない会話をするようになって、まあ、可愛い子だったから、悪い気はしなくて。団長のことが好きなのは知ってたから、たまに相談にも乗ったりしてました」
シンがそう言って話す彼女の話は、いつも優しいシンの顔をより穏やかにしているようでレナは温かい気持ちになる。
「で、1回割とハードな戦場の仕事が入ったとき、彼女の様子がちょっとおかしかったんです。心配してくれてたのか分からなかったけど、出掛ける時に声を掛けたら無視されちゃって、あれ? って」
シンはニコニコして話しているが、ロキの眉間には皺が寄っている。
「で、行ってきまーすって出発したら、彼女追いかけてきて、『死んだら許さない、でも、無事に帰ってきたら付き合ってあげても良いから!』って言うので、『じゃあ、無事に帰って来るよ』って。まあこの通り無事に帰ったので、付き合いました」
シンが照れながら話す内容に、
「へえ、彼女、いつの間にかシンのことが好きだったのね。シンが危ない任務に行くって知って、自分の気持ちに気付いたのかしら?」
とレナが楽しそうに喜ぶ。
「偉そうな言い方だよね……。シンはそれで良いのかもしれないけど、俺が許せないんだよホントに」
ロキはずっとイライラしていた。
「ロキ、そんなにシンの彼女が苦手なの?」
レナが不思議そうに尋ねると、
「俺と彼女……リリスは犬猿の仲なんです。彼女も俺がシンと仲が良いのが気に入らないし、俺もリリスがシンの彼女なことが気に入らないっていう、ある種の相思相愛なんですよ」
とロキは言い捨てた。
「うーん、ロキの好みとは違うだけで、彼女の性格は本当に可愛いんだけどね。リリス、我が強いからロキみたいなタイプとはぶつかりやすいんだよな」
シンは思い出して嬉しそうだったが、ロキは相変わらず苦い顔をしていた。
「で、付き合い始めたら、彼女がすぐ親を紹介したいって言いだして……」
「いやいやいやいや、怖い怖い怖い怖い!」
ロキは突っ込みながら青ざめている。
「いや、俺もさあ、彼女の家って貴族なわけで、農民で親の借金を抱えてる身だし、どんな顔して会いに行けばいいのか分かんなくて……」
シンが当時を思い出して物憂げな表情を浮かべると、
「えっ? 気にするところ、そこなのかしら?」
とレナが思わず突っ込んだ。
「殿下、そうなんです、そこじゃないんですよ」
ロキもレナの言葉に頷いている。
「まあ、結局彼女の家に行って親公認って形になったんで、もうすぐ結婚するんですけどね」
「……うわー怖。結婚式で俺、ちゃんと祝えるかな……」
シンとロキの温度差はすごいが、レナはシンが幸せそうなことが嬉しくなった。
「随分彼女主導みたいだけど、良かったわね」
レナがシンに言う。
「そうですね。男爵令嬢と借金持ちの農家なんて、不釣り合いに違いないのに、リリスとご両親は人として公平に見てくれるから、ありがたいですよ」
シンの何気ない本音から、平民と貴族の間での婚姻も簡単ではないのだろうとレナは理解する。
「そうやって、一生尻に敷かれるんだろ……」
「まあね、でも、リリスと家族になるのが楽しみだよ。早く子ども欲しいし」
シンは嬉しそうだった。
「こ……ども……?」
レナがその言葉に思い切り驚いたので、
「ああ、俺、子ども好きなんですよ。リリスはちょっと苦手みたいなんだけど」
と、シンはサラリと言った。
「いい父親になりそうだよなー。シンは。」
ロキが心からそう言うと、レナは、
「そうよね……結婚するんだから、家族計画もあるわけよね……」
と衝撃を受けているようだった。
「ええ、そうですね?」
シンが不思議そうにレナを見る。
「恋愛と結婚が結び付いて、それが家族に繋がるって……。私の生きてきた価値観の中にはなかったのよ」
レナがそう言うと、シンとロキは言葉を失った。
「ああ、そうですよね……。すいません、勝手に惚気たりして」
「ううん、気にしないで。シンのことが分かって、話が聞けて本当に良かったわ」
レナは笑顔を浮かべている。ロキはその顔を横目に見ながら、何を言えば良いのか分からなかった。
(普通の幸せって、なんだろうな)
ロキはぼんやりと考えながら、そもそも普通などという曖昧な言葉で何かを語ってはいけないのだとレナを見つめた。
シンが当たり前のように言った「子どもが欲しい」は、王族の間では権力の意味を持たずに使うことはない言葉なのだろう。
(こんな純粋な人に、そんな重いものを背負わせないで欲しいよ……)
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