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the 31st day その優しさが好きだった
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その日、レナは各種の情報共有に1日を要した。改めて考えなければいけないことは多く、レナはこのまま日常に忙殺されそうだと机の上で大きな息を吐く。
「戻って早々、忙しそうですね」
レナの側にいたサラが、レナを気遣った。
「倒れてから昨日まで、ずっと公務を休んでいたから仕方がないけれど……」
レナがそう言って伸びをした。サラはあんなことがあったからこそ、レナは休めばいいのにと残念な気持ちになる。この国は王女を気遣う人間が極端に少ないのではないか。
「これが日常なのね。クロノスの背で揺られていた方が楽しいわ」
レナが残念そうに言うと、サーヤが部屋に入って来た。
「お疲れでしょうから、少しは休憩されたらいかがでしょう?」
サーヤはレナとサラの分の紅茶とお菓子を用意していた。
「そうね、サラ、一緒に休憩しましょ」
レナはそう言って立ち上がり、テーブルに向かった。
「ところで……カイたちはどこに行ったの?」
テーブルの席に着いて、レナが紅茶を飲みながらサラに尋ねる。
「国立図書館に行ってますよ。調べものと確認したいことがあるらしいです」
サラはそう言うと焼き菓子を頬張った。メレンゲの焼き菓子が口の中でふわっと溶けたのを、サラはうっとりとしながら堪能する。
「調べもの……そうなの。3人で出掛けるなんて珍しいわね」
レナが元気のない様子で言ったのが、サラは気になった。
「あら、団長がいないと心細いですか? そういえばここのところ、ずっと団長が護衛に就いていたんでしたね」
サラはそう言って笑った。レナが呪い倒れてから、城に戻るまでは朝晩ずっとカイと一緒だったことをからかう。
「そうね」
レナがそのまま肯定したので、サラは固まった。
「えっ……?」
「えっ……あっ……。ずっとカイが護衛してくれていたところに対する『そうね』よ!」
レナはそう言って誤魔化したが、
「ううん……。やっぱり、カイがいないのは心細いわ」
と言い直した。残り少ない日がもうすぐ終わってしまうのだと思うと、レナは自分の気持ちを誤魔化す気にもなれない。
「そうですか……。団長がそんなにお役に立てるなんて、あたしも嬉しいです」
サラはそう言うと、紅茶のティーカップを持ったままゆっくり話し始めた。
「カイ・ハウザーという人を生まれたころから見ているから、あの子が合理的な判断をするようになっていった過程を知っているんです。決して感情が乏しい人ではないのに、実力でのし上がっていくには、感情論を切り捨てなきゃいけないところもあったりして。団長のイメージはどんどん合理的で冷たい人間になっていったけど……本当は、優しい子なんですよ」
サラの言葉に、レナは頷く。
「カイの優しさ、私は好きよ」
口に出してしまうと、やはりそうなのだなとレナは認めるしかない。どんな時も、レナが頼ろうとしたのはカイだった。
「案外、そう言ってくれる人は少ないんですよ」
サラは、カイの優しさを理解して認めたレナに、やはりこの王女はカイのことをちゃんと見ているのだと優しく笑った。
「確かに、少し分かりづらい優しさかもしれないわね」
レナはカイの意地悪な顔を思い出しながら小さく笑う。
(私は、あの性格に、救われた)
その事実を、カイが去る前にしっかりと本人に伝えなければと、レナは外をぼんやり眺めながら考えていた。
「戻って早々、忙しそうですね」
レナの側にいたサラが、レナを気遣った。
「倒れてから昨日まで、ずっと公務を休んでいたから仕方がないけれど……」
レナがそう言って伸びをした。サラはあんなことがあったからこそ、レナは休めばいいのにと残念な気持ちになる。この国は王女を気遣う人間が極端に少ないのではないか。
「これが日常なのね。クロノスの背で揺られていた方が楽しいわ」
レナが残念そうに言うと、サーヤが部屋に入って来た。
「お疲れでしょうから、少しは休憩されたらいかがでしょう?」
サーヤはレナとサラの分の紅茶とお菓子を用意していた。
「そうね、サラ、一緒に休憩しましょ」
レナはそう言って立ち上がり、テーブルに向かった。
「ところで……カイたちはどこに行ったの?」
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「国立図書館に行ってますよ。調べものと確認したいことがあるらしいです」
サラはそう言うと焼き菓子を頬張った。メレンゲの焼き菓子が口の中でふわっと溶けたのを、サラはうっとりとしながら堪能する。
「調べもの……そうなの。3人で出掛けるなんて珍しいわね」
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「あら、団長がいないと心細いですか? そういえばここのところ、ずっと団長が護衛に就いていたんでしたね」
サラはそう言って笑った。レナが呪い倒れてから、城に戻るまでは朝晩ずっとカイと一緒だったことをからかう。
「そうね」
レナがそのまま肯定したので、サラは固まった。
「えっ……?」
「えっ……あっ……。ずっとカイが護衛してくれていたところに対する『そうね』よ!」
レナはそう言って誤魔化したが、
「ううん……。やっぱり、カイがいないのは心細いわ」
と言い直した。残り少ない日がもうすぐ終わってしまうのだと思うと、レナは自分の気持ちを誤魔化す気にもなれない。
「そうですか……。団長がそんなにお役に立てるなんて、あたしも嬉しいです」
サラはそう言うと、紅茶のティーカップを持ったままゆっくり話し始めた。
「カイ・ハウザーという人を生まれたころから見ているから、あの子が合理的な判断をするようになっていった過程を知っているんです。決して感情が乏しい人ではないのに、実力でのし上がっていくには、感情論を切り捨てなきゃいけないところもあったりして。団長のイメージはどんどん合理的で冷たい人間になっていったけど……本当は、優しい子なんですよ」
サラの言葉に、レナは頷く。
「カイの優しさ、私は好きよ」
口に出してしまうと、やはりそうなのだなとレナは認めるしかない。どんな時も、レナが頼ろうとしたのはカイだった。
「案外、そう言ってくれる人は少ないんですよ」
サラは、カイの優しさを理解して認めたレナに、やはりこの王女はカイのことをちゃんと見ているのだと優しく笑った。
「確かに、少し分かりづらい優しさかもしれないわね」
レナはカイの意地悪な顔を思い出しながら小さく笑う。
(私は、あの性格に、救われた)
その事実を、カイが去る前にしっかりと本人に伝えなければと、レナは外をぼんやり眺めながら考えていた。
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