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the 30th day 帰路
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クロノスの背で、レナとカイはこれまでのことを話していた。
「今回の任務も、残すところ5日か。あっという間だった気もするし、やたら色々なことが起きた気もするな」
カイはそう言いながら、不安定な道をレナが落馬しないよう、片手でレナを抱きかかえている。
レナは、何度か経験したその行為に、恐らく普通のことなのだろうと、なるべく深く考えないようにしていた。
「そうね、カイとの時間もあともう少し……心細いわ。あなたにからかわれなくなることに対しても、それなりに寂しがっているのよ」
レナはそう言うと、これからはカイに気軽に相談することもできないのだと落ち込んだ。
「もう、殿下には見合いの護衛も、その後の相談も必要ないだろう。俺がいなくても、これから先はなんとかなるはずだ」
カイはそう言うと、
「まあ、今回の任務は特殊だったな。タメ語を強要させられて席に同席させられ、言い合いになりかけてから始まって……無事に婚約者が決まったかと思えば、呪いに倒れるわ……」
と付け加えて苦笑した。
「私だって、こんなに濃い1ヶ月になるとは思わなかったわよ」
レナもつられて苦笑すると、
「ありがとう、本当に」
と前を向いたまま、しみじみ言った。
「やめろ、調子が狂う」
カイはそう言ってレナを支えていた片手を外すと、レナの頭を軽く撫でた。
「なによ、あなただって……」
レナは後ろを振り返ってカイを見たが、自分の頭に手を置いたまま無表情に前を向くカイの表情から、何を考えているのかは読み取れない。
(急に優しかったりするから、調子が狂うのよ……)
カイの態度にときめいたりしたのは、恐らく時々見せるこの優しさに触れたからなのだと、レナの心は穏やかでない。
「特に……呪いに倒れた時には……あなたの言葉があったから自我を失わずにいられた気がするの。あの母様の呪いは、あなたの言葉で大分抑えられていたんじゃないかしら……」
レナはぽつりと呟くように言った。呪いに倒れて自分自身に絶望しそうになった時、カイがそれを止めてくれた。
あの行為は、きっと言霊として呪術をはねのけていたのだと、レナは思う。
「今となっては結果論だな。俺は……ただそうしたかっただけだ」
カイの声がレナの耳元で聞こえる。平坦な道を進むクロノスの上で、カイはレナの身体を包み込むように片手をレナの腰に回していた。
「それが、嬉しかったの」
レナは、カイの行為を受け入れ、カイの手に自分の手を重ねてみる。
2人の距離は相変わらず近く、声を掛け合うと息がかかるほど近い。レナより大きなカイのごつごつとした手は、少しだけ体温が高かった。
2人はそのまま無言になった。触れた手からゆっくりと体温が混ざり合い、レナの手は少し温かく、カイの手は少し冷たくなっていく。
ただ手が触れ合っているだけの時間が、どうしてか妙に懐かしく感じた。
レナは、なぜカイの手に触れているのか自分の行動を説明できそうにない。
これも、『ただそうしたかっただけ』なのだろうと、背中に感じるカイの存在に無理矢理納得した。
「今回の任務も、残すところ5日か。あっという間だった気もするし、やたら色々なことが起きた気もするな」
カイはそう言いながら、不安定な道をレナが落馬しないよう、片手でレナを抱きかかえている。
レナは、何度か経験したその行為に、恐らく普通のことなのだろうと、なるべく深く考えないようにしていた。
「そうね、カイとの時間もあともう少し……心細いわ。あなたにからかわれなくなることに対しても、それなりに寂しがっているのよ」
レナはそう言うと、これからはカイに気軽に相談することもできないのだと落ち込んだ。
「もう、殿下には見合いの護衛も、その後の相談も必要ないだろう。俺がいなくても、これから先はなんとかなるはずだ」
カイはそう言うと、
「まあ、今回の任務は特殊だったな。タメ語を強要させられて席に同席させられ、言い合いになりかけてから始まって……無事に婚約者が決まったかと思えば、呪いに倒れるわ……」
と付け加えて苦笑した。
「私だって、こんなに濃い1ヶ月になるとは思わなかったわよ」
レナもつられて苦笑すると、
「ありがとう、本当に」
と前を向いたまま、しみじみ言った。
「やめろ、調子が狂う」
カイはそう言ってレナを支えていた片手を外すと、レナの頭を軽く撫でた。
「なによ、あなただって……」
レナは後ろを振り返ってカイを見たが、自分の頭に手を置いたまま無表情に前を向くカイの表情から、何を考えているのかは読み取れない。
(急に優しかったりするから、調子が狂うのよ……)
カイの態度にときめいたりしたのは、恐らく時々見せるこの優しさに触れたからなのだと、レナの心は穏やかでない。
「特に……呪いに倒れた時には……あなたの言葉があったから自我を失わずにいられた気がするの。あの母様の呪いは、あなたの言葉で大分抑えられていたんじゃないかしら……」
レナはぽつりと呟くように言った。呪いに倒れて自分自身に絶望しそうになった時、カイがそれを止めてくれた。
あの行為は、きっと言霊として呪術をはねのけていたのだと、レナは思う。
「今となっては結果論だな。俺は……ただそうしたかっただけだ」
カイの声がレナの耳元で聞こえる。平坦な道を進むクロノスの上で、カイはレナの身体を包み込むように片手をレナの腰に回していた。
「それが、嬉しかったの」
レナは、カイの行為を受け入れ、カイの手に自分の手を重ねてみる。
2人の距離は相変わらず近く、声を掛け合うと息がかかるほど近い。レナより大きなカイのごつごつとした手は、少しだけ体温が高かった。
2人はそのまま無言になった。触れた手からゆっくりと体温が混ざり合い、レナの手は少し温かく、カイの手は少し冷たくなっていく。
ただ手が触れ合っているだけの時間が、どうしてか妙に懐かしく感じた。
レナは、なぜカイの手に触れているのか自分の行動を説明できそうにない。
これも、『ただそうしたかっただけ』なのだろうと、背中に感じるカイの存在に無理矢理納得した。
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