アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 30th day 新しい朝

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 朝になり宿で目を覚ましたレナは、ベッドの脇にカイの姿が無いことに焦って飛び起きた。

「あ、おはようございます」
 そんなレナに気付いたサーヤが、レナに声を掛ける。サーヤはすっかり身支度を終えていた。

「あ、サーヤ。カイ、この部屋にいなかった?」
 レナがきょろきょろとカイの姿を探している。
「早朝に、もう大丈夫だろうと言ってご自分の部屋に戻られましたよ」
 サーヤに言われ、レナはそういうことかと納得した。

「ここ数日、ずっとハウザー様とご一緒でしたからね。レナ様、それが当たり前になられていましたね?」
 サーヤは嫉妬を込めた目をレナに向けて言った。

「そうね……そうかも……」
 レナはそう言うとサーヤと共に身支度を始める。もう、夜に呪いに怯えなくてもいいのだと安心するところが、妙にがっかりしている自分がいた。

「もう、あと5日で契約終了よ」
 レナが突然言ったのを、サーヤは何の話だろうと首を傾げたが、
「ああ、ハウザー様の雇用契約ですか? こんなにちゃんとしていただいているのに、更新されないんですね」
 と驚いてレナの顔を見る。

「勿論、私はずっといて欲しいと思ってるけど……。このままずっとカイを雇い続けるわけにもいかないでしょ。ルイス様にも相談して、どうするのがいいか決めるわ。契約を更新しなくても、また短期間とか、イベントごとの時だけ、とか、カイには来てもらいたいと思っているわよ」

 そう言ったレナが寂しそうなので、サーヤはつい、そのまま雇ってしまえばいいんですよ、と口に出しそうになった。

「このままずっと雇うのは、難しいんですか?」
 サーヤが尋ねるように声を掛け、鏡の前でレナの髪を整えだす。

 レナはサーヤの顔を鏡越しに見ながら、
「金額が金額だから、フィルリ7世の目が厳しいでしょうね。それに、今回のことで宗教の問題も含めて、自国の仕組みを考え直さなきゃいけない時が来ているのは、間違いないのよ」
 と、自分に言い聞かせるように言った。

 レナは、無知なふりをして権力をかざせば、自分の権限でカイを雇い続けられることも分かっている。
 現在、一番重要だった見合いの護衛任務はなくなった。高額な護衛を雇う理由がなくなっていても、最高権力者のレナが我儘を言えば通ってしまうのだろう。

 だからこそ、もうレナにカイは雇えなかった。
 レジスタンスが王政を否定して市民の支持を集めたように、国民の不満はまだ収まっていないと考えた方が良いのだろうと、レナは気を引き締める。

 呪いを克服した王女には、女王になるためにやることがあった。

「でも、ハウザー様はただの護衛というだけではなく……レナ様の相談相手として、必要な方ですよ」
 サーヤは残念そうに言ってレナの髪をまとめ上げた。
「そうね、私も、カイがいないと一番困るのはそこだわ」
 レナは鏡越しにサーヤを見て苦笑した。

 レナは、ただ側にいて欲しいと願ってしまう厄介な感情を、自分の奥に押し込んで、なるべく意識しないように努めた。
 カイを失って、夜に誰かと話したくなったらどうすれば良いのか分からない。

 これから、カイとの時間は終わりに向かっていくのだ。
 もう呪いに怯えなくても良くなったというのに、レナの気持ちは晴れなかった。
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