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the 29th day 甘やかし

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「ああ、気が付いたか」

 レナが目を覚ますと、目の前にカイの顔がある。いつの間にか倒れて抱きかかえられていたらしい。レナは驚いて身体を起こすと、教会前の階段に腰かけたカイの腕の中にいた。

「大丈夫ですか、レナ様……」
 サーヤが心配そうにレナを見つめていた。サラもサーヤの隣でハラハラしている。

「あ……私……。術の使い過ぎと母様のことで、気を失ったのね」

 レナは自分を抱えていたカイに、
「あなたには、本当に助けられてばかりね」
 と笑う。カイは、そのレナを見て困ったような顔をしていた。

 レナは、少し離れた場所にいるレオナルドの姿に向かって、
「さっきは責めてしまってごめんなさい。レオナルドにも、助けられていたのかしらね」
 と声を掛ける。

「別に……僕はあなたのためになることは、何もしていませんよ」
 レオナルドはそう言って横を向いていた。

「素直じゃないな」
 カイがそう言ってレオナルドをからかうと、
「うるさいなあ、ハウザーさんはいちいち男前で気に入らないんですよ」
 とレオナルドはぶつぶつ文句を言っている。


「城に戻る前に、休まなくて大丈夫か? どこかで1泊しておいた方が良いと思うんだが……」
 カイがレナの身体を気遣った。
 レナは、ずっと抱きかかえられたままでいることに、くすぐったさを感じる。

「どうかしら……。早く帰りたい気もするけど、さっき倒れたばかりだから自信がないわ。慣れない術を使ったし、自分で思ったよりも消耗しているのかもしれない」
 レナが不安そうに言ったのを、カイは「そうか」とだけ返事をした。カイは立ち上がってレナを抱きかかえたまま歩き出す。

「ちょっと……カイ」
 全員に見られている中、いわゆる「抱っこ」をされている恥ずかしさでレナは真っ赤になった。
 カイの体格に比べて小柄なレナは、子どものように軽々と持ち上げられてしまう。

「無理をするな。もう少し、護衛に甘えることも覚えておけ」
 カイは小さな声でレナに囁いた。
「!!」
 その瞬間、レナの顔は真っ赤に紅潮し、何も言えなくなってしまう。

「サラ、サーヤ殿、殿下を休ませることにした。適当に時間を潰しておいてくれ」
 カイがあっけに取られているサラとサーヤにそう言うと、
「分かったけど、団長はどこに行くつもり?」
 とサラは大きな声でカイに尋ねた。

「宿で寝かしつける。どうせここ数日まともに眠れていなかったんだ。少し休んでおいた方がいいだろう」
 カイがそう言うと、レオナルドと近衛兵たちは、
「じゃあ、もう解散ですね。こっちはこっちでやることがあるんで」
 と別行動に移ることにしたようだった。

 レナは、すぐ側にあるカイの顔をまともに見ることができずにいる。嬉しくてたまらないのと、恥ずかしいのとで、相変わらず顔は赤いままだ。

 サーヤはレナを運ぶカイを眺めながら、
「サラさん、私もハウザー様みたいな護衛が欲しいです……」
 と羨望の視線を送っていた。

「いやだからさ、今はちょっと格好よく見えるかもしれないけど、団長ってそんなに、アレよ?」
 サラはそう言ってサーヤの目を覚ませようとしたが、サーヤの耳には届いていない。


「ねえ、カイ」
 レナは勇気を振り絞ってカイに声を掛ける。
「甘えるって、どうやったらいいかしら? 私、今、すごく……あなたに甘えるってことをやってみたいの」

 レナの意外な言葉に、カイは穏やかに笑う。

「そうだな、いつもは出来ることを、あえてやらずに済むように命令してくれればいい。今は、歩けないから運べ、が甘えだとすれば、簡単だろ」
「それって……食事を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったり?」
 レナは、信じられずにカイの表情を窺う。

「王女殿下の仰せのままに」
 カイはそう言って得意気な顔で笑った。
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