186 / 221
the 29th day 母に捧げる鎮魂歌
しおりを挟む
ミリーナが亡くなると、先程まで存在していた空間が崩れ、辺りはレオナルドが1度訪れたという教会の姿に変わってしまった。
いつの間にか3人は、ミリーナの遺体と共に教会の礼拝堂にいた。
「殿下、僕、今回のことを謝る気はないですよ。だって、あのままだと誰かが新しいミリーナの呪いにやられていたかもしれない。話し合って解決できる相手じゃないと見切っただけです」
レオナルドは血の海に横たわるミリーナの遺体を見ながら、レナに向かってそう言った。
「ルリアーナは、ポテンシアと違って殺人を肯定しないわ。もっと……話し合うことがあったかもしれないのに」
レナは涙を流しながら俯いていた。
「だが、ミリーナが呪いを使って既に何人もの人を殺めたことは間違いない。あのタイミングが良かったとは思わないが、レオナルドの判断は否定できない」
カイがレナに向かってそう言うと、レナはカイの胸に顔を埋めて暫く泣いた。
カイはその背中を静かにさすりながら、残酷な現実になぜこの王女ばかりが巻き込まれるのかと、奥歯を噛み締める。
レオナルドは無言でレナの姿をじっと見ていたが、横たわったミリーナの髪を握り、一束短剣で切り落とした。レオナルドは血のついた髪を包んで懐に仕舞う。
「これが僕の仕事なんです。軽蔑しますか……」
レオナルドは独り言のように言った。その肩には国王の勅命が常に乗っている。
「あなたを否定したいわけじゃないわ、レオナルド。私だって、カイを連れてここに来た以上、覚悟だってしていたけど……。あの人が……母様が死んで……。あの人が掛けていた私への呪いが……今、消えたの。私の子どもの頃の記憶がたった今蘇ったから、やりきれなかったのよ」
レナはカイの服で涙を拭っている。カイは苦笑しながらレナの頭を撫でた。
「呪いが……消えた? というのは、本当なのか?」
カイの言葉に、レナは頷いた。
「母様は、自分の肉体と精神を呪術の対価にしていたのね。もう、正常な精神を保つことはできなくなっていたのかもしれない。私に対しての呪いは、自我を無くすという呪いだけじゃなかったの。私、小さな頃、母様に確かに愛されていた。私のその記憶を呪いで封印していたわ。恨みの連鎖を起こすことでしか、生きていられなかった人だったのね」
レナはミリーナの遺体に向かって、鎮魂歌を静かに歌い始めた。無念や魂を癒す術を含んだ歌が、礼拝堂に響く。
『いつの日か 夢を抱き あなたを想う』
レナがそのフレーズを歌った時、ミリーナの身体から青い光が結晶のように舞い始めた。
「なんだ……?」
カイとレオナルドは目を丸くして、青い光が上ってはそのまま消える幻想的な光景を、暫くただ眺めていた。
「恐らくレジスタンスの多くの呪術師にも、母様の力が及ぶような術が掛かっていたみたい……大量の術の解除が起きている……。私の鎮魂歌は対価にされた身体や精神を失って残ってしまった術を、解除する効果があるのね。見えているのが、術式の破片よ。術者以外にも見えるくらい……この人の負っていたものは大量だったの」
レナは潤んだ瞳で笑顔を作る。
「きっと、母様の魂は救われたわ。埋葬を手配しなければね。あと、サラやサーヤのところに戻らなきゃ……」
そう言った途端、レナは意識を失ってその場に倒れ込んだ。
カイは咄嗟に、そのレナの身体を受け止めていた。
いつの間にか3人は、ミリーナの遺体と共に教会の礼拝堂にいた。
「殿下、僕、今回のことを謝る気はないですよ。だって、あのままだと誰かが新しいミリーナの呪いにやられていたかもしれない。話し合って解決できる相手じゃないと見切っただけです」
レオナルドは血の海に横たわるミリーナの遺体を見ながら、レナに向かってそう言った。
「ルリアーナは、ポテンシアと違って殺人を肯定しないわ。もっと……話し合うことがあったかもしれないのに」
レナは涙を流しながら俯いていた。
「だが、ミリーナが呪いを使って既に何人もの人を殺めたことは間違いない。あのタイミングが良かったとは思わないが、レオナルドの判断は否定できない」
カイがレナに向かってそう言うと、レナはカイの胸に顔を埋めて暫く泣いた。
カイはその背中を静かにさすりながら、残酷な現実になぜこの王女ばかりが巻き込まれるのかと、奥歯を噛み締める。
レオナルドは無言でレナの姿をじっと見ていたが、横たわったミリーナの髪を握り、一束短剣で切り落とした。レオナルドは血のついた髪を包んで懐に仕舞う。
「これが僕の仕事なんです。軽蔑しますか……」
レオナルドは独り言のように言った。その肩には国王の勅命が常に乗っている。
「あなたを否定したいわけじゃないわ、レオナルド。私だって、カイを連れてここに来た以上、覚悟だってしていたけど……。あの人が……母様が死んで……。あの人が掛けていた私への呪いが……今、消えたの。私の子どもの頃の記憶がたった今蘇ったから、やりきれなかったのよ」
レナはカイの服で涙を拭っている。カイは苦笑しながらレナの頭を撫でた。
「呪いが……消えた? というのは、本当なのか?」
カイの言葉に、レナは頷いた。
「母様は、自分の肉体と精神を呪術の対価にしていたのね。もう、正常な精神を保つことはできなくなっていたのかもしれない。私に対しての呪いは、自我を無くすという呪いだけじゃなかったの。私、小さな頃、母様に確かに愛されていた。私のその記憶を呪いで封印していたわ。恨みの連鎖を起こすことでしか、生きていられなかった人だったのね」
レナはミリーナの遺体に向かって、鎮魂歌を静かに歌い始めた。無念や魂を癒す術を含んだ歌が、礼拝堂に響く。
『いつの日か 夢を抱き あなたを想う』
レナがそのフレーズを歌った時、ミリーナの身体から青い光が結晶のように舞い始めた。
「なんだ……?」
カイとレオナルドは目を丸くして、青い光が上ってはそのまま消える幻想的な光景を、暫くただ眺めていた。
「恐らくレジスタンスの多くの呪術師にも、母様の力が及ぶような術が掛かっていたみたい……大量の術の解除が起きている……。私の鎮魂歌は対価にされた身体や精神を失って残ってしまった術を、解除する効果があるのね。見えているのが、術式の破片よ。術者以外にも見えるくらい……この人の負っていたものは大量だったの」
レナは潤んだ瞳で笑顔を作る。
「きっと、母様の魂は救われたわ。埋葬を手配しなければね。あと、サラやサーヤのところに戻らなきゃ……」
そう言った途端、レナは意識を失ってその場に倒れ込んだ。
カイは咄嗟に、そのレナの身体を受け止めていた。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる