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the 29th day 決戦
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カイ、レナ、レオナルドの3人は、教会の中を進んだ。レオナルドは前日に訪れた教会が全く違う場所のようになっていたことに、これが『空間の間』なのだと理解する。
木造の教会に入ったはずが、急に中庭が現れた。そこは、噴水と美しい芝生を持ち、太陽の光を受けて輝いていた。
「昨日は、噴水も中庭も無かった……」
レオナルドが術を体験して驚いているのを、
「そう……」
とレナは緊張した顔で反応する。明らかに表情が硬くなっているレナに、カイがその頭を軽くポンと叩いた。
「行くぞ」
レナはカイの顔を見て微笑し、
「そうね」
と振り絞るように一歩ずつ前に進む。レオナルドは2人に遅れて後に続いた。
中庭の噴水を横目に更に進むと、木製の扉がついた壁が現れる。
(ここに……いるのかもしれない……)
レナは木製の扉に手を掛けようとしたが、震えでうまく握れていなかった。その手をカイが上から握ると、
「いいか、戦いは俺の専門だ」
と言いながら、扉を開く。
レオナルドはくすりと笑って、
「確かに、ハウザー団長は戦いの専門で、王女殿下は呪術の使い手で……」
(僕は……)
と口に出せない言葉を飲み込むと、扉の奥にこちらを見て立つ碧い瞳をした金髪の女性の姿をハッキリと目に入れた。
「ミリーナか……」
カイとレオナルドが剣を抜いて構えると、レナは2人に武器を下ろさせた。
「あなたが、ミリーナ・トゥルノン……。私の、お母様ですか……?」
レナはしっかりミリーナを見つめていた。記憶には無かったが、目の前に立つ自分によく似た女性は、実の母親なのだろうとハッキリ分かる。
「ここまで来ましたか、ヘレナ。あなたは、結局私とは同じ道を歩かないのかしら」
レナの声質に少し似たミリーナの声が響くと、レナは、
「ご丁寧にかけていただきましたが、私はあなたの呪いに負けたくないわ」
とミリーナから目を離さずに言った。
「あの呪いが今頃掛かったということは、王室の腐った体制を最近知ったのかしら? どうせあなたは自分が誰かも分からなくなって、周りから疎まれながら死んでいくのよ。親子揃って、無様だこと……」
ミリーナはレナを馬鹿にしたように笑ったが、レナはじっとミリーナを見つめていた。
「諦めるつもりはありません」
レナがハッキリと言うと、その肩をカイの手が支えた。
よく言ったとでも言いたそうな顔をしているカイの表情を確認すると、レナは勇気が湧いて来るような気がする。
対するミリーナは、明らかに苛立った様子を隠さない。
「あなたのような未熟者が、何をするの? 諦めないなんて言うけれど、どうせポテンシア王子のものになるんでしょう? 愉快だこと。そのうち、あの大国の属国になるのがオチよ」
ミリーナはそう言うと、不気味に喉を鳴らして笑っていた。
「私も、この国も、ご心配には及びません。私の魂はずっと私だけのもの。婚姻は私の運命の中にある、道のひとつに過ぎません。それをあなたにどうこう言われる覚えもないはずです」
レナがハッキリと言うと、カイは「ふっ」と笑う。
「殿下の生きてきた道には、まともな親がいたことはなかったようだ。ミリーナ、その口からハッキリ聞きたい。殿下を呪って何を狙う」
カイはレナを庇うように前に出て、ミリーナをじっと睨んだ。
「その子が傷つくのを見るために、それを聞くのかしら?」
ミリーナはニヤニヤ笑ってカイを見ている。
「いいえ、あなたの考えていたことを、ただ知りたいだけです」
レナがそう言ってカイの腕にそっと触れた。
カイはレナの触れたところから何か熱いものが入り込んでくるのを感じながら、
(これは、何かの術か……?)
と振り向いてレナの表情を読もうとしたが、レナは無表情のままだった。
「私は、王族がとっとと滅びれば良いと思っただけよ。どうせ穢れたリブニケ王国の血が流れているだけの、呪術頼みの王室だったのだから。自分たちを繁栄させた呪術のせいで滅んでしまえばいいと、それだけのこと」
ミリーナはそう言うと、カイに向かって何かの術を放った。
「…………?」
カイは自分の身に何が起きたのか全く分からず立ち尽くしていたが、
「ヘレナ……あなた、覚醒したのは最近じゃなかったの……?」
とミリーナが目を丸くしているのを見て、レナが何かの術で自分を守ったのだと悟る。
「残念ですね、お母様。あなたが例えこの国で一番の術師だったとしても、私、あなたに負ける気がしません。怒りや恨みに駆られた人というのは、どうしてか考えていることが分かりやすいんだわ」
レナがそう言ったので、後ろにいたレオナルドは堪えきれず笑いだした。
「勝負あったね、ミリーナ」
レオナルドがニヤリと笑ったのを見て、ミリーナは、
「お前は……リオですか……」
と礼拝堂で会った修道士の姿を見て怒りを隠さなかった。
「レジスタンスという、王家を否定しやすい組織で呪術師の能力を活かしたところまでは上手かったけど、個人的な怨恨に人を巻き込むのは、もうおしまいにしようか」
レオナルドがそう言い終わらないうちに、ミリーナはその場で崩れ落ちた。
「え……?」
レナは、目の前でゆっくり倒れながら目を見開いているミリーナの腕を咄嗟に掴もうとしたが、突然真っ赤な鮮血が顔に掛かったことに驚いてたじろぐ。
あと一歩のところでミリーナに手が届かず、レナの目の前でミリーナはそのまま倒れ、床に赤い液体が拡がった。
「ごめんね、殿下。僕は暗殺の専門家なんだ」
レオナルドが血の滴る短剣を握りしめているのをレナは茫然と目に入れると、次の瞬間、その場にレナの叫び声が響く。
カイはレナの身体を引き寄せ、レオナルドを睨んでいた。
木造の教会に入ったはずが、急に中庭が現れた。そこは、噴水と美しい芝生を持ち、太陽の光を受けて輝いていた。
「昨日は、噴水も中庭も無かった……」
レオナルドが術を体験して驚いているのを、
「そう……」
とレナは緊張した顔で反応する。明らかに表情が硬くなっているレナに、カイがその頭を軽くポンと叩いた。
「行くぞ」
レナはカイの顔を見て微笑し、
「そうね」
と振り絞るように一歩ずつ前に進む。レオナルドは2人に遅れて後に続いた。
中庭の噴水を横目に更に進むと、木製の扉がついた壁が現れる。
(ここに……いるのかもしれない……)
レナは木製の扉に手を掛けようとしたが、震えでうまく握れていなかった。その手をカイが上から握ると、
「いいか、戦いは俺の専門だ」
と言いながら、扉を開く。
レオナルドはくすりと笑って、
「確かに、ハウザー団長は戦いの専門で、王女殿下は呪術の使い手で……」
(僕は……)
と口に出せない言葉を飲み込むと、扉の奥にこちらを見て立つ碧い瞳をした金髪の女性の姿をハッキリと目に入れた。
「ミリーナか……」
カイとレオナルドが剣を抜いて構えると、レナは2人に武器を下ろさせた。
「あなたが、ミリーナ・トゥルノン……。私の、お母様ですか……?」
レナはしっかりミリーナを見つめていた。記憶には無かったが、目の前に立つ自分によく似た女性は、実の母親なのだろうとハッキリ分かる。
「ここまで来ましたか、ヘレナ。あなたは、結局私とは同じ道を歩かないのかしら」
レナの声質に少し似たミリーナの声が響くと、レナは、
「ご丁寧にかけていただきましたが、私はあなたの呪いに負けたくないわ」
とミリーナから目を離さずに言った。
「あの呪いが今頃掛かったということは、王室の腐った体制を最近知ったのかしら? どうせあなたは自分が誰かも分からなくなって、周りから疎まれながら死んでいくのよ。親子揃って、無様だこと……」
ミリーナはレナを馬鹿にしたように笑ったが、レナはじっとミリーナを見つめていた。
「諦めるつもりはありません」
レナがハッキリと言うと、その肩をカイの手が支えた。
よく言ったとでも言いたそうな顔をしているカイの表情を確認すると、レナは勇気が湧いて来るような気がする。
対するミリーナは、明らかに苛立った様子を隠さない。
「あなたのような未熟者が、何をするの? 諦めないなんて言うけれど、どうせポテンシア王子のものになるんでしょう? 愉快だこと。そのうち、あの大国の属国になるのがオチよ」
ミリーナはそう言うと、不気味に喉を鳴らして笑っていた。
「私も、この国も、ご心配には及びません。私の魂はずっと私だけのもの。婚姻は私の運命の中にある、道のひとつに過ぎません。それをあなたにどうこう言われる覚えもないはずです」
レナがハッキリと言うと、カイは「ふっ」と笑う。
「殿下の生きてきた道には、まともな親がいたことはなかったようだ。ミリーナ、その口からハッキリ聞きたい。殿下を呪って何を狙う」
カイはレナを庇うように前に出て、ミリーナをじっと睨んだ。
「その子が傷つくのを見るために、それを聞くのかしら?」
ミリーナはニヤニヤ笑ってカイを見ている。
「いいえ、あなたの考えていたことを、ただ知りたいだけです」
レナがそう言ってカイの腕にそっと触れた。
カイはレナの触れたところから何か熱いものが入り込んでくるのを感じながら、
(これは、何かの術か……?)
と振り向いてレナの表情を読もうとしたが、レナは無表情のままだった。
「私は、王族がとっとと滅びれば良いと思っただけよ。どうせ穢れたリブニケ王国の血が流れているだけの、呪術頼みの王室だったのだから。自分たちを繁栄させた呪術のせいで滅んでしまえばいいと、それだけのこと」
ミリーナはそう言うと、カイに向かって何かの術を放った。
「…………?」
カイは自分の身に何が起きたのか全く分からず立ち尽くしていたが、
「ヘレナ……あなた、覚醒したのは最近じゃなかったの……?」
とミリーナが目を丸くしているのを見て、レナが何かの術で自分を守ったのだと悟る。
「残念ですね、お母様。あなたが例えこの国で一番の術師だったとしても、私、あなたに負ける気がしません。怒りや恨みに駆られた人というのは、どうしてか考えていることが分かりやすいんだわ」
レナがそう言ったので、後ろにいたレオナルドは堪えきれず笑いだした。
「勝負あったね、ミリーナ」
レオナルドがニヤリと笑ったのを見て、ミリーナは、
「お前は……リオですか……」
と礼拝堂で会った修道士の姿を見て怒りを隠さなかった。
「レジスタンスという、王家を否定しやすい組織で呪術師の能力を活かしたところまでは上手かったけど、個人的な怨恨に人を巻き込むのは、もうおしまいにしようか」
レオナルドがそう言い終わらないうちに、ミリーナはその場で崩れ落ちた。
「え……?」
レナは、目の前でゆっくり倒れながら目を見開いているミリーナの腕を咄嗟に掴もうとしたが、突然真っ赤な鮮血が顔に掛かったことに驚いてたじろぐ。
あと一歩のところでミリーナに手が届かず、レナの目の前でミリーナはそのまま倒れ、床に赤い液体が拡がった。
「ごめんね、殿下。僕は暗殺の専門家なんだ」
レオナルドが血の滴る短剣を握りしめているのをレナは茫然と目に入れると、次の瞬間、その場にレナの叫び声が響く。
カイはレナの身体を引き寄せ、レオナルドを睨んでいた。
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