184 / 221
the 29th day 呪術の洗礼
しおりを挟む
レオナルド、カイ、レナの3人は静かに村の中を歩いていた。
カイはレオナルドから発せられる不気味な殺気が何に向けられているのか分からず、レナを自分の身体で隠していた。
一方レナは、とうとうミリーナと対峙する場面が近づいていることに緊張し、カイの側で心の準備をしようとしている。
「ところで、レオナルドはミリーナをどうするつもりでいる?」
カイに聞かれ、レオナルドは、
「あちらの態度次第かなと思ってます。本当は追い詰めて色々確認したいことがあるんですけど」
と答える。カイの顔に嫌悪感がハッキリと見て取れたのを確認し、レオナルドはニヤリと笑った。
「態度次第、とお前が言うと物騒だ」
「いや、物騒なんですよ? 僕」
カイとレオナルドが小さな声で言い合った時、レナが小さな声を上げた。カイは何があったのかとレナを背に隠したまま、振り返ってレナの方を見た。
「そこの教会の中に、何かあるかもしれない……」
レナが目の前に現れた小さな木造の教会を指差す。
「そこ、僕も3回くらい隅々まで探したんですよ。やっぱり何か術が施してありますか……」
とレオナルドはため息をついた。レナは教会を見ながら、生唾をごくりと飲む。
「術式を読むわね……。1階層に、他人が入ることができない空間を作って、2階層目に術者とそうでない者で違うところに入るように組まれている……。恐らく、ここにレオナルドの言った『空間の間』が作られているんじゃないかしら……?」
「へえ……? ところで、その術式ってやつは、どんな見え方をしているんですか?」
レオナルドは呪術がどんなものなのか気になったらしく、レナに純粋な疑問を投げかけた。
「文字だったり記号だったり、図形だったり、形は色々だけど……人が生みだした『術を使うための式の形』が構造物のように見えるのよ。術者は、術式を頭の中に描きながら、それぞれ使いこなしているの」
レナはそう説明したが、目で見えていないカイはどんな状態なのか想像がつかなかった。
「じゃあ、術者には特殊な目が備わっているような状態なんですね」
レオナルドが返した時、教会の中から新しい術式の列が溢れてくるのをレナは確認する。
「カイ、来るわ!」
レナは大声を上げた。
術式の列が次々に小さな雷に変わると、周囲に雷が様々な角度から走り、木や草を燃やしていく。
「雷は初めて見たな」
カイが自分の身体を強化させレナの前に立ち、手を掲げて「気」の壁を作りながら雷を受ける。痺れが残った掌を軽く振りながら舌打ちした。
「あーあー、何が起きてるか分からないってのは、イライラするな……」
レオナルドは身体を伏せながら、目の前で次々起こる超常現象に、明らかに苛立っていた。
「俺だって見えていないから安心しろ」
カイがそう言って笑うと、レオナルドは「ふん」とだけ声を出し、両手に短剣を構えた。
「話し合いは、無理かもしれないわ……」
レナは建物から次々と現れる大量の術式を見ながら、絶望して言った。
「何が見えているんだ?」
カイが尋ねた時、レナは焦って、
「伏せて!」
と叫ぶ。大きな爆発音がして、周囲に砂や石などを始めとした周囲にあるものが飛び散っていた。
レナは覆いかぶさってきたカイの下で怪我をせずに済んでいたが、レオナルドは身体中にかすり傷を作ってうっすらと傷から血を浮かばせている。
「やってくれるじゃないか……。呪術師っていうのは、姿を見るのも大変で、攻撃も難解だね」
レオナルドはそう言うと、口の中に溜まった血を軽く吐いて教会の中に向かって行こうとした。
「待って! あなただけで進むと、術者のいるところには行けないようになっているの」
レナがレオナルドを制して、カイを連れて3人で進むのを提案した。
「何から何まで、ややこしいんですね……」
レオナルドは渋々レナの側まで戻り、
「こうやって一緒に進めば、ミリーナのいるところに行けそうですか?」
と素直にレナに従おうとしていた。カイはレオナルドとレナの間に割って入り、
「では、王女の護衛はここにいた方がいいな」
と大きな体でレナを隠す。
それを見たレオナルドは苦笑いをすると、
「勝手にしてくださいよ、騎士様」
と言ってカイから視線を外し、教会の中を睨むようにじっと見た。
「まさか、攻撃がこれで終わりってことはないでしょうね?」
「さっきの術はもともと張っていた罠か何かだと思うわよ……」
レオナルドの問いに、レナは息を呑みながら答えた。
カイはレオナルドから発せられる不気味な殺気が何に向けられているのか分からず、レナを自分の身体で隠していた。
一方レナは、とうとうミリーナと対峙する場面が近づいていることに緊張し、カイの側で心の準備をしようとしている。
「ところで、レオナルドはミリーナをどうするつもりでいる?」
カイに聞かれ、レオナルドは、
「あちらの態度次第かなと思ってます。本当は追い詰めて色々確認したいことがあるんですけど」
と答える。カイの顔に嫌悪感がハッキリと見て取れたのを確認し、レオナルドはニヤリと笑った。
「態度次第、とお前が言うと物騒だ」
「いや、物騒なんですよ? 僕」
カイとレオナルドが小さな声で言い合った時、レナが小さな声を上げた。カイは何があったのかとレナを背に隠したまま、振り返ってレナの方を見た。
「そこの教会の中に、何かあるかもしれない……」
レナが目の前に現れた小さな木造の教会を指差す。
「そこ、僕も3回くらい隅々まで探したんですよ。やっぱり何か術が施してありますか……」
とレオナルドはため息をついた。レナは教会を見ながら、生唾をごくりと飲む。
「術式を読むわね……。1階層に、他人が入ることができない空間を作って、2階層目に術者とそうでない者で違うところに入るように組まれている……。恐らく、ここにレオナルドの言った『空間の間』が作られているんじゃないかしら……?」
「へえ……? ところで、その術式ってやつは、どんな見え方をしているんですか?」
レオナルドは呪術がどんなものなのか気になったらしく、レナに純粋な疑問を投げかけた。
「文字だったり記号だったり、図形だったり、形は色々だけど……人が生みだした『術を使うための式の形』が構造物のように見えるのよ。術者は、術式を頭の中に描きながら、それぞれ使いこなしているの」
レナはそう説明したが、目で見えていないカイはどんな状態なのか想像がつかなかった。
「じゃあ、術者には特殊な目が備わっているような状態なんですね」
レオナルドが返した時、教会の中から新しい術式の列が溢れてくるのをレナは確認する。
「カイ、来るわ!」
レナは大声を上げた。
術式の列が次々に小さな雷に変わると、周囲に雷が様々な角度から走り、木や草を燃やしていく。
「雷は初めて見たな」
カイが自分の身体を強化させレナの前に立ち、手を掲げて「気」の壁を作りながら雷を受ける。痺れが残った掌を軽く振りながら舌打ちした。
「あーあー、何が起きてるか分からないってのは、イライラするな……」
レオナルドは身体を伏せながら、目の前で次々起こる超常現象に、明らかに苛立っていた。
「俺だって見えていないから安心しろ」
カイがそう言って笑うと、レオナルドは「ふん」とだけ声を出し、両手に短剣を構えた。
「話し合いは、無理かもしれないわ……」
レナは建物から次々と現れる大量の術式を見ながら、絶望して言った。
「何が見えているんだ?」
カイが尋ねた時、レナは焦って、
「伏せて!」
と叫ぶ。大きな爆発音がして、周囲に砂や石などを始めとした周囲にあるものが飛び散っていた。
レナは覆いかぶさってきたカイの下で怪我をせずに済んでいたが、レオナルドは身体中にかすり傷を作ってうっすらと傷から血を浮かばせている。
「やってくれるじゃないか……。呪術師っていうのは、姿を見るのも大変で、攻撃も難解だね」
レオナルドはそう言うと、口の中に溜まった血を軽く吐いて教会の中に向かって行こうとした。
「待って! あなただけで進むと、術者のいるところには行けないようになっているの」
レナがレオナルドを制して、カイを連れて3人で進むのを提案した。
「何から何まで、ややこしいんですね……」
レオナルドは渋々レナの側まで戻り、
「こうやって一緒に進めば、ミリーナのいるところに行けそうですか?」
と素直にレナに従おうとしていた。カイはレオナルドとレナの間に割って入り、
「では、王女の護衛はここにいた方がいいな」
と大きな体でレナを隠す。
それを見たレオナルドは苦笑いをすると、
「勝手にしてくださいよ、騎士様」
と言ってカイから視線を外し、教会の中を睨むようにじっと見た。
「まさか、攻撃がこれで終わりってことはないでしょうね?」
「さっきの術はもともと張っていた罠か何かだと思うわよ……」
レオナルドの問いに、レナは息を呑みながら答えた。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
灰と王国のグリザイユ 〜理系王女は再建をめざす!
桂花
恋愛
ここは灰の降りやまない火山の王国。
ドームに覆われた上位階層区の桜城では、崩御した王の隠し子について、賞金付きの捜索が始まろうとしていた。
寄宿舎で暮らす、博士の称号を持つ16歳の天才少女アニスは、ある日自分を王女だという近衛兵のツバキに連れられ、初めて街の外へ出る。だが刺客に追われ、着いた先は灰だらけの最下層。
そこでギャングと思しき団体の、仕事を手伝うことになるのだが…
灰に覆われ、何が真実か見えないふたりを待つのは闇か光か宿命か。
世間知らずな主人公の、恋に仕事に奮闘する成長ストーリー!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる