アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

文字の大きさ
上 下
183 / 221

the 29th day 世間話

しおりを挟む
 目的地の村に着くと、サラとサーヤは3名の近衛兵と共に飲食店で食事を取りながら待機になった。

 レナとカイ、レオナルドの3人はミリーナを探しに出かけていく。その後ろ姿をサーヤは店内から眺めていた。

「実の母親を罪人として捕らえに行くなんて、とてもじゃないけど私にはできません」
 サーヤは頬杖をつきながら言った。

「すみません……人違いかもしれませんが、あなたがサーヤ様ですか?」
 近衛兵の1人に尋ねられ、サーヤが、
「ええ、そうですが、何か?」
 と答えると、近衛兵たちは3人でわっと盛り上がっている。

「いえ、ブラッドさんが王女殿下の侍女の方について話をしておりましたので、もしやと思ったんです」
 近衛兵たちに言われてサーヤは困りながら、
「あ……あの、クラウス様は、他になんて言ってました?」
 と余計なことを言われていないか確認しようとした。サラは隣でその一部始終を興味深げに眺めている。

「仕事熱心で、気の利く女性だと褒めていましたが……まあブラッドさんのことだから、あなたにご迷惑をおかけしたかもしれませんね」
「女性相手だと、途端に不器用な方ですからね」

 近衛兵たちはブラッドをフォローしていた。サーヤは余計なことは言われていないようだとほっとする。

「もしサーヤさんにお相手がいないようなら、ブラッドさん良いんですけどねー。不器用なだけで優良物件、お薦めですけど……」
 近衛兵の一人が言った。

「なんで私に、クラウス様を薦めるんですか……」
 サーヤは明らかに不機嫌な顔をする。

「いや、ブラッドさんも適齢期で結婚願望も強いですし、最上級の優良物件なんですが……。女性のことになるとどこかずれているんで心配してるんです。私たちがブラッドさんから聞いたサーヤさんであれば、きっとブラッドさんを幸せにしてくれるんじゃないかと……」
 近衛兵のひとりが話している間、あとの2名も大きく頷いていた。

「どうして、私がクラウス様を幸せにしなきゃいけないんですか……」
 サーヤが嫌悪感を隠さない顔で言うと、
「ああいうタイプには、気が利く女性が身近にいるだけで人生が180度変わったりするものですし……。お互い王女殿下と王子殿下についているので、会話も合うんじゃないかと……」
 と近衛兵が答えたので、サラが、
「まあ確かに、部外者から見れば一理あるわね」
 と口を開く。

「だけどねえ、あんたたちの『ブラッドさん』はどうもサーヤさんの気持ちを汲むのが苦手みたいなのよ。加えて、今はうちの団長みたいな男性が近くにいるでしょ? もう少し『ブラッドさん』の魅力がサーヤさんに伝わるように、行動してもらった方がいいんじゃないかしら?」
 と近衛兵に言って睨みを利かせた。

「まあ……確かに……」
 近衛兵の1人はブラッドを思い浮かべながらサラの言うことが最もだと納得しているようだった。

「ブラッドさんがカッコイイのは仕事中だけですし、これといって女性に向けてアピールできるところがないのも事実……」
「クラウス家はポテンシアでは名門中の名門なんですが、そういうのはあんまりですか?」
「家柄勝負はダメだろ……サーヤさんだって王女殿下付きなんだから、良縁の話が来るはずだ……」

 3人は頭を抱えながらブラッドの良いところを挙げ始めたが、すぐに煮詰まったようだった。

「もう、なんなんですか、私にだって選ぶ権利はあるんですからね?」
 サーヤはそう言って飲食店のメニューを持ち、昼食を選び始めた。

「ああでも……おばさんからのアドバイスだけど、結婚相手は顔で選んじゃだめよ」
 突然サラがサーヤに真剣な顔で言ったので、サーヤは驚いて目を丸くした。

「サラさんの騎士団の男性陣、みなさま揃って顔が整っている気がしますけど……」
 サーヤはメニューを持ったままサラをじっと見ると、
「あたしたちの仕事はサービス業みたいなものだから、見た目の良い男はそれだけで有利なところもあるのよ……。でもね……あの子たち、女の子が寄って来る分、ちょっと危ういのよね……」
 とサラは深いため息をつきながらしみじみと言った。

「ハウザー様は違うじゃないですか!」
 サーヤが必死にカイを庇おうとしたが、
「団長は結婚しないわよ、あの調子だと恐らく、誰とも……」
 とサラは低い声で言った。

「遊び人が改心して家庭に入るなんてことは、幻想だと思いなさい……。顔が良くて見た目で良い思いをしているような男が、結婚後も外でその恩恵を受けないとでもお思い? 男ってのはね……いくつになってもその辺が愚かにできているのよ……」
 サラの迫力のある声と顔に、その場にいた全員は凍った。

「じゃ、じゃあ、サラさんはどんな人だったら良いって言うんですか……」
 サーヤがサラの迫力に圧倒されながら尋ねると、
「女性の言うことをよく聞いて、反論せず、家庭のために奴隷になれる男と結婚しなさい……」
 とサラは不敵な笑みを浮かべた。

「……なんだか、結婚に夢を持たせない持論ですね……」
 近衛兵の1人が沈んだ顔で言うと、
「結婚に夢を持つのは、若い証拠よ……」
 とサラが続けたので、サーヤは頭を抱えながら、
「それも少し違う気がします……」
 と渋い顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...