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the 28th night 不安な夜に
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城を出てから半日が経過したので、その日は3つ目に到着した町に宿を取ることになった。宿に3部屋確保できると、レナが特別室に入ることになる。
「特別室なんて、大袈裟じゃないかしら……」
レナは普通の部屋で構わないと最後まで主張したが、他の3人がそこだけは譲らなかった。
「身分を隠していたって、周りから見ればレナ様は侍女付きで護衛付きのお嬢様なんですから、その位はこちらの意見をお聞きくださいな。それほど高くなかったんですから、広いお部屋で休みましょ」
サーヤは不満気なレナにそう言って、持って来た荷物を次々にクローゼットに収納し始めていた。
「夕食は、お部屋にされます? それとも、どこかで?」
サーヤが尋ねると、レナは暫く考えて、
「本音はね……今、少しだけ、ひとりになりたいの」
と答える。サーヤは頷き、
「じゃあ、私はサラさんと外に行ってきますから、お部屋でお食事を取られてはいかがですか? ハウザー様には、護衛をお願いしておきますね」
と早々に外に出て行ってしまった。
「サーヤ……あっさりしてるわね……」
レナは部屋に一人取り残されて暫くボーっとしていたが、サーヤが言ったカイの護衛とは何だろうかと気になる。
特別室から廊下に続く扉を開いて、カイを探しに行こうとした。
すると、扉の横に良く知った黒髪の護衛が座っている。
「そんなところに居たの?」
レナが驚いてカイに尋ねると、
「こんなところに待機する羽目になった、の間違いだ」
とカイは不機嫌に言う。
「私のせいね……。ごめんなさい。夕食でも、一緒にどう?」
レナはそう言ってカイを部屋に招き入れた。
「今日の夜の護衛って、その扉のところになるの?」
レナとカイは、特別室に備え付けられた小さめの丸テーブルで、一緒に夕食をとっていた。
「扉の前がいいのかは、考えものだな。この町が、というより、殿下の身体に何か異変が起きた時に気付けないこと方が、よほど問題のような気がしている……」
カイが何気なく放った言葉は、レナが夜の間に呪いでおかしくなったら、という意味なのだろう。レナは、いつ芽が出るか分からない呪いを抱えているのだ。
普段は考えないようにしていることが、レナは急に怖くなった。
「私の身に何か起こったとして……あなたなら分かるの?」
レナは気まずそうにカイに尋ねる。自我が無くなった時にカイはどうするのだろうと不安になった。
「恐らく……分かるはずだ。殿下の『気』が変わるだろうからな」
カイが当たり前のように言ったのを聞いて、レナは俯いた。
「そう……。それは、あなたにしか頼れないわね」
レナは力なくそう言うと、持っていたフォークを置いて顔を手で覆った。よく見ると身体が小さく震えている。カイは、包み隠さずに呪いのことを口に出し過ぎてしまったことを後悔した。
「呪いを抑える術が効いていることを信じよう。あと……言い方が悪かった……すまない」
カイはそう言ってレナの様子を窺っている。自分が自分で無くなるかもしれない恐怖など、カイには想像もつかない。
「いいの……だって事実だもの。あなたの前だと、どうしても弱気になってしまうわね」
レナはそう言ってなんとか普通に笑おうと頑張ってみるが、うまく笑えず涙がこぼれた。
「吐き出せるものは、ここで吐き出せ」
カイはそう言って食事を中断すると、レナが無理をしている様子をじっと見ていた。
「自我が無くなったら、あなたのことも忘れてしまうの?」
レナはそう言うと声を上げて泣き始めた。泣き声もその顔も、今迄のレナとは明らかに違う。これまで我慢をしてきた分が、外に出たのだろう。
「忘れるな……そんな呪いなんかに負けるんじゃない」
カイは苛立ちを隠さずに言うと、椅子から立ち上がった。
「そんなものに、自分を奪わせるな。絶対に無事に帰るぞ」
カイは、もはや自分が何に怒っているのか分からなくなっていた。
実の娘に呪いをかけたミリーナに対してなのか、レナを苦しめる呪いそのものなのか。
理不尽な現実に、やり切れない気持ちが溢れる。
何故、レナが被害者にならなければいけなかったのか、実の母に向かわせなければならないのか。
カイは泣きじゃくるレナに胸を貸した。やり場のない怒りはなかなか収まらず、カイは歯を食いしばる。
レナの慟哭が暫く部屋に響き、カイはレナをぐっと抱きしめて願った。
(この悲しみを彼女から消すために、俺はここにいるのではないのか。恐れられてきた己の能力が、このためだったと信じたい)
「カイ……あなたを、忘れたくないわ」
レナは、泣き疲れると小さな声でそう言った。
「特別室なんて、大袈裟じゃないかしら……」
レナは普通の部屋で構わないと最後まで主張したが、他の3人がそこだけは譲らなかった。
「身分を隠していたって、周りから見ればレナ様は侍女付きで護衛付きのお嬢様なんですから、その位はこちらの意見をお聞きくださいな。それほど高くなかったんですから、広いお部屋で休みましょ」
サーヤは不満気なレナにそう言って、持って来た荷物を次々にクローゼットに収納し始めていた。
「夕食は、お部屋にされます? それとも、どこかで?」
サーヤが尋ねると、レナは暫く考えて、
「本音はね……今、少しだけ、ひとりになりたいの」
と答える。サーヤは頷き、
「じゃあ、私はサラさんと外に行ってきますから、お部屋でお食事を取られてはいかがですか? ハウザー様には、護衛をお願いしておきますね」
と早々に外に出て行ってしまった。
「サーヤ……あっさりしてるわね……」
レナは部屋に一人取り残されて暫くボーっとしていたが、サーヤが言ったカイの護衛とは何だろうかと気になる。
特別室から廊下に続く扉を開いて、カイを探しに行こうとした。
すると、扉の横に良く知った黒髪の護衛が座っている。
「そんなところに居たの?」
レナが驚いてカイに尋ねると、
「こんなところに待機する羽目になった、の間違いだ」
とカイは不機嫌に言う。
「私のせいね……。ごめんなさい。夕食でも、一緒にどう?」
レナはそう言ってカイを部屋に招き入れた。
「今日の夜の護衛って、その扉のところになるの?」
レナとカイは、特別室に備え付けられた小さめの丸テーブルで、一緒に夕食をとっていた。
「扉の前がいいのかは、考えものだな。この町が、というより、殿下の身体に何か異変が起きた時に気付けないこと方が、よほど問題のような気がしている……」
カイが何気なく放った言葉は、レナが夜の間に呪いでおかしくなったら、という意味なのだろう。レナは、いつ芽が出るか分からない呪いを抱えているのだ。
普段は考えないようにしていることが、レナは急に怖くなった。
「私の身に何か起こったとして……あなたなら分かるの?」
レナは気まずそうにカイに尋ねる。自我が無くなった時にカイはどうするのだろうと不安になった。
「恐らく……分かるはずだ。殿下の『気』が変わるだろうからな」
カイが当たり前のように言ったのを聞いて、レナは俯いた。
「そう……。それは、あなたにしか頼れないわね」
レナは力なくそう言うと、持っていたフォークを置いて顔を手で覆った。よく見ると身体が小さく震えている。カイは、包み隠さずに呪いのことを口に出し過ぎてしまったことを後悔した。
「呪いを抑える術が効いていることを信じよう。あと……言い方が悪かった……すまない」
カイはそう言ってレナの様子を窺っている。自分が自分で無くなるかもしれない恐怖など、カイには想像もつかない。
「いいの……だって事実だもの。あなたの前だと、どうしても弱気になってしまうわね」
レナはそう言ってなんとか普通に笑おうと頑張ってみるが、うまく笑えず涙がこぼれた。
「吐き出せるものは、ここで吐き出せ」
カイはそう言って食事を中断すると、レナが無理をしている様子をじっと見ていた。
「自我が無くなったら、あなたのことも忘れてしまうの?」
レナはそう言うと声を上げて泣き始めた。泣き声もその顔も、今迄のレナとは明らかに違う。これまで我慢をしてきた分が、外に出たのだろう。
「忘れるな……そんな呪いなんかに負けるんじゃない」
カイは苛立ちを隠さずに言うと、椅子から立ち上がった。
「そんなものに、自分を奪わせるな。絶対に無事に帰るぞ」
カイは、もはや自分が何に怒っているのか分からなくなっていた。
実の娘に呪いをかけたミリーナに対してなのか、レナを苦しめる呪いそのものなのか。
理不尽な現実に、やり切れない気持ちが溢れる。
何故、レナが被害者にならなければいけなかったのか、実の母に向かわせなければならないのか。
カイは泣きじゃくるレナに胸を貸した。やり場のない怒りはなかなか収まらず、カイは歯を食いしばる。
レナの慟哭が暫く部屋に響き、カイはレナをぐっと抱きしめて願った。
(この悲しみを彼女から消すために、俺はここにいるのではないのか。恐れられてきた己の能力が、このためだったと信じたい)
「カイ……あなたを、忘れたくないわ」
レナは、泣き疲れると小さな声でそう言った。
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