179 / 221
the 28th day 2人の間にあるもの
しおりを挟む
村の小さな飲食店でそれぞれ飲み物を頼むと、4人は座りながら話していた。
「どうやって、ミリーナの気配を探るつもりだ?」
カイに聞かれてレナは、
「正直、策は無いんだけど……」
と笑うと、
「何となくだけど、彼女が居る場所に到着したら、分かる気がするの」
と付け加えたのを、カイは妙に納得して聞いていた。
「もし、ミリーナ様に会ったら、どうされるつもりですか?」
サーヤが心配そうにレナに言う。サーヤはミリーナの術師としての実力についてはいくつかの話を聞いたことがある。恐らくレナの太刀打ちできる相手ではない。また新たな被害に遭う可能性もあった。
「カイと2人がかりで拘束するんじゃないかしら。私ひとりじゃ、恐らく術を防ぐくらいのことしかできないと思うし」
レナが当たり前のように言ったので、サラは、
「そんなに、すごい方なのね。ミリーナ様ってのは」
と感心したように驚いていた。
「分からないけど、術師としてのキャリアが圧倒的に違うもの」
レナの呪術師としての実力は、ここ数日で身に付けた付け焼刃のようなものしかない。
「サーヤは、会ったことあるの?」
レナが尋ねると、サーヤは気まずそうに頷いた。
「教会に、ミリーナ様がいらしていたことがあって、祈りを捧げてくださったことがあります。教会の中心にあった噴水の水が一瞬浮かんで、光の粒のようになって礼拝堂にキラキラと舞って……とても気持ちの良い祈りでした。美しい声と、美しい瞳をした方でしたよ」
サーヤはミリーナを思い出して言った。
「あの方が、そんな悪いことをする方には思えません」
サーヤは悲痛な表情を浮かべていた。
「そうね。きっと、誰から見ても悪人という人は、あまりいないんだと思うの。あなたのようなレジスタンスの信仰者にとって、ミリーナという人は必要で大切な人だったのかもしれない。そして、きっと彼女も被害者でしかなかった。でも……だからと言って、罪もない人に呪いを掛けたり、殺したりすることを肯定することはできないでしょ」
レナがそう言うと、サラとサーヤは無言で頷いている。
「殿下に、ミリーナの記憶はあるのか?」
ふいにカイが尋ねると、レナは首を振って、
「それも恐らく彼女の力で封印されているんだと思うわ。思い出しそうになることはあったけど、ちゃんと思い出せたことが無いの」
と寂しそうに言った。
「殿下みたいな良い子が娘だったら、あたしはいくらでも自慢して可愛がるわよ」
サラが悔しそうに言ったので、レナは小さく「ありがとう」と言って、目の前に置かれたアイスティーに口を付ける。
「親なんかいなくたって、今迄やれてきたのなら困ることは無い。俺もロキも……殿下の知る通りだ」
カイが得意気にレナを見る。
「確かに、カイもロキも、親とは早くに離れていたわね。心強いわ」
とレナは嬉しそうにカイに言った。
「次の目的地までは、あとどのくらい?サーヤは大丈夫?」
「大丈夫です、ご心配をおかけしました」
「次の目的地まで、3時間弱見ている。少し道が悪そうだから、揺れるかもしれないな」
サーヤとカイがレナの質問に答えた。
「じゃあ、行きましょうか」
レナがサーヤの様子を確認すると、店を出ることにする。
サーヤとサラは店の会計に向かい、レナは店の外で待っていたクロノスとウレアのところに向かった。側には護衛のカイがしっかりついている。
2人が馬と戯れている様子を見ながら、
「ハウザー様って、レナ様と一緒にいる時は表情が豊かな気がします……」
とサーヤがサラに呟いた。
「まあ、団長はあのお姫様の事、気に入ってると思うけど。雇用主に異性としての好意を持つのは、うちは禁止だから、そういうのじゃないんでしょうね」
サラはそう言うと、カイとレナの姿を見て「絵になる2人と絵になる馬が揃ってキラキラしてるわね」と呟く。
「私、レナ様とハウザー様がなんであんなに親密そうなのか、不思議でした」
サーヤは楽しそうに笑い合っているカイとレナを見ていた。
「あたしだって、団長にしては女性と打ち解けているから結構驚いたけど、今は納得してるわよ」
サラの言葉に、サーヤは不思議そうな顔をしたので、
「団長も同じ年の頃に両親を亡くしているから、あのお姫様の気持ちが分かるのよ。あと、生まれのせいで避けられないプレッシャーとか、やりきれなさみたいなものに、共感しているんでしょうね」
とサラは加えた。
サーヤは、2人の間には自分の理解しきれない共感軸があるのだと知る。同時に自分には一生分からないことなのだと思うと、外で楽しそうにする2人の姿にぐっと胸が苦しくなった。
「どうやって、ミリーナの気配を探るつもりだ?」
カイに聞かれてレナは、
「正直、策は無いんだけど……」
と笑うと、
「何となくだけど、彼女が居る場所に到着したら、分かる気がするの」
と付け加えたのを、カイは妙に納得して聞いていた。
「もし、ミリーナ様に会ったら、どうされるつもりですか?」
サーヤが心配そうにレナに言う。サーヤはミリーナの術師としての実力についてはいくつかの話を聞いたことがある。恐らくレナの太刀打ちできる相手ではない。また新たな被害に遭う可能性もあった。
「カイと2人がかりで拘束するんじゃないかしら。私ひとりじゃ、恐らく術を防ぐくらいのことしかできないと思うし」
レナが当たり前のように言ったので、サラは、
「そんなに、すごい方なのね。ミリーナ様ってのは」
と感心したように驚いていた。
「分からないけど、術師としてのキャリアが圧倒的に違うもの」
レナの呪術師としての実力は、ここ数日で身に付けた付け焼刃のようなものしかない。
「サーヤは、会ったことあるの?」
レナが尋ねると、サーヤは気まずそうに頷いた。
「教会に、ミリーナ様がいらしていたことがあって、祈りを捧げてくださったことがあります。教会の中心にあった噴水の水が一瞬浮かんで、光の粒のようになって礼拝堂にキラキラと舞って……とても気持ちの良い祈りでした。美しい声と、美しい瞳をした方でしたよ」
サーヤはミリーナを思い出して言った。
「あの方が、そんな悪いことをする方には思えません」
サーヤは悲痛な表情を浮かべていた。
「そうね。きっと、誰から見ても悪人という人は、あまりいないんだと思うの。あなたのようなレジスタンスの信仰者にとって、ミリーナという人は必要で大切な人だったのかもしれない。そして、きっと彼女も被害者でしかなかった。でも……だからと言って、罪もない人に呪いを掛けたり、殺したりすることを肯定することはできないでしょ」
レナがそう言うと、サラとサーヤは無言で頷いている。
「殿下に、ミリーナの記憶はあるのか?」
ふいにカイが尋ねると、レナは首を振って、
「それも恐らく彼女の力で封印されているんだと思うわ。思い出しそうになることはあったけど、ちゃんと思い出せたことが無いの」
と寂しそうに言った。
「殿下みたいな良い子が娘だったら、あたしはいくらでも自慢して可愛がるわよ」
サラが悔しそうに言ったので、レナは小さく「ありがとう」と言って、目の前に置かれたアイスティーに口を付ける。
「親なんかいなくたって、今迄やれてきたのなら困ることは無い。俺もロキも……殿下の知る通りだ」
カイが得意気にレナを見る。
「確かに、カイもロキも、親とは早くに離れていたわね。心強いわ」
とレナは嬉しそうにカイに言った。
「次の目的地までは、あとどのくらい?サーヤは大丈夫?」
「大丈夫です、ご心配をおかけしました」
「次の目的地まで、3時間弱見ている。少し道が悪そうだから、揺れるかもしれないな」
サーヤとカイがレナの質問に答えた。
「じゃあ、行きましょうか」
レナがサーヤの様子を確認すると、店を出ることにする。
サーヤとサラは店の会計に向かい、レナは店の外で待っていたクロノスとウレアのところに向かった。側には護衛のカイがしっかりついている。
2人が馬と戯れている様子を見ながら、
「ハウザー様って、レナ様と一緒にいる時は表情が豊かな気がします……」
とサーヤがサラに呟いた。
「まあ、団長はあのお姫様の事、気に入ってると思うけど。雇用主に異性としての好意を持つのは、うちは禁止だから、そういうのじゃないんでしょうね」
サラはそう言うと、カイとレナの姿を見て「絵になる2人と絵になる馬が揃ってキラキラしてるわね」と呟く。
「私、レナ様とハウザー様がなんであんなに親密そうなのか、不思議でした」
サーヤは楽しそうに笑い合っているカイとレナを見ていた。
「あたしだって、団長にしては女性と打ち解けているから結構驚いたけど、今は納得してるわよ」
サラの言葉に、サーヤは不思議そうな顔をしたので、
「団長も同じ年の頃に両親を亡くしているから、あのお姫様の気持ちが分かるのよ。あと、生まれのせいで避けられないプレッシャーとか、やりきれなさみたいなものに、共感しているんでしょうね」
とサラは加えた。
サーヤは、2人の間には自分の理解しきれない共感軸があるのだと知る。同時に自分には一生分からないことなのだと思うと、外で楽しそうにする2人の姿にぐっと胸が苦しくなった。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる