アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 28th day 旅路の負担

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 城を出発してから2時間弱ほど経過すると、最初の村に到着した。

 カイはクロノスを止めて背から降りると、手綱を束ねて握りながらレナの手を取り、クロノスからゆっくり降りるレナを受け止めた。

 後ろからその様子を見ていたサーヤは、カイがレナを抱きしめるように身体を支えていたことに胸を痛めたが、気を取り直して同じように馬から降りる。サーヤは緊張で身体中筋肉痛になりそうだった。

「大丈夫だったか?」
 カイがレナを気遣うと、レナは、
「いくらでも乗っていたい気分よ」
 と嬉しそうに言う。カイは、こちらは問題なさそうだなとレナを眺めた。呪いに倒れてからずっと見られなかった笑顔を浮かべている。カイは、そんなレナにほっとしていた。

「シンとロキが歩きで国を回った時にも感じたらしいが、この国で馬車での移動は目立ちすぎる。それで、今回は馬にしたんだ。だが……この後の移動は少し心配だな……」
 サーヤがサラにもたれ掛かっている様子を眺めながら、カイは王女よりも侍女が耐えられないのかもしれないと考え直すことになった。

「クロノスはあなたの愛馬なの? 可愛いわね」
 レナがクロノスの首をポンポンと叩きながら言うと、
「そうだ。体力があって賢いところが気に入っている」
 とカイはクロノスの顎を触って言った。クロノスは主人に喜んで頭をしきりに動かしていたので、レナはその様子に目を細めた。

「愛馬……私も、馬で走り回れたら…………」
 クロノスとカイの姿を羨ましそうに眺めながらレナが言うと、
「王室で馬を飼うくらいは普通じゃないのか? そんなに難しくは無さそうだが」
 とカイは不思議そうに言って、村の中を歩き出した。

「乗馬くらいなら、そこまでうるさく言われないけれど……私も城内から出られないことが増えたから」
 レナはカイの隣に付いて歩き、村の様子をうかがっていた。後ろに付いてくるサラとサーヤの足取りが重いのがどうしても気になっている。

「どこか、休めるところを探した方が良くないかしら……」
「仕方がないな……。なるべく急ぎたいところなんだが……」

 カイはレナの呪いを心配している。一刻も早く、ミリーナの元にレナを連れて行きたい気持ちが先を急がせていた。

「急ぐばかりが近道じゃないわよ。あなたの言っていることは理解できるけど……」
 レナはそう言ってカイをなだめた。自分が一番急ぎたいのではないかと、カイはレナを見て心苦しくなる。

「本音が外に出せない立場ってやつは、なかなか厄介だな」
 カイはレナだけに聞こえるような声で言った。

「あなたがそうやって理解してくれるだけでも、嬉しいものね」
 レナも小さな声で答えると、2人はお互いをじっと見て思わず微笑した。
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