アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 28th day 旅立ち

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 レナとサーヤが城を出ると、城門の近くでカイとサラがそれぞれ立派な毛並みの馬をブラッシングしていた。

 カイの馬は黒い毛並みが美しい青毛(※肌の色と毛の色が黒い馬のこと)の馬で、サラの馬はカイの馬と体格の似た栗毛の馬だった。
 それぞれ、馬と持ち主の髪の色が同じなのは偶然なのだろうかとレナは遠くから眺めていた。

 近づくにつれて、その馬の大きさが明らかになる。レナは圧倒され、輝く毛並みの美しさに感動していた。

「カイ! サラ! 私、こんな綺麗な馬に乗れるなんて、嬉しい!」

 レナは、あまり見たことのない大型の馬に、心を奪われた。

 カイはその様子が分かると、
「ご存じかもしれないが、馬は人の言葉を理解するし、人間関係を観察して主従関係や社会を作る。こちらの黒い馬が『クロノス』で栗色の馬が『ウレア』だ。従兄弟同士で、馬同士の相性も良い」
 とレナに説明した。

 その説明の間、カイはクロノスのたてがみの根元にブラシを入れていたが、クロノスは左右の耳を器用に動かしながらレナを見て、カイの話をじっと聞いているようだった。

「綺麗な目。クロノスに触れても良い?」
 レナは黒くて艶のある美しい瞳をしたクロノスをじっと見つめる。

「顔周りは少し苦手な奴だから、触れるなら身体にしてやってくれ」
 カイはブラシを止め、レナを自分の脇に呼んだ。

「分かった」
 レナはクロノスの前足の付け根から背中にかけて、少し強めに身体を叩くように触れる。クロノスは嬉しそうに後ろ脚をバタバタさせて鼻を鳴らしていた。

「気に入られたようだな」
 カイはレナに声を掛けた後、サーヤの持っていた荷物をクロノスとウレアに器用にロープで括り付け、
「前はそこまで揺れないはずだが、道がそれなりに険しい場所もありそうだから落馬しないよう気を付けろよ」
 と当たり前のように言い放つ。

 それを聞いたサーヤは途端に青くなったが、
「大丈夫よ!私に寄りかかってもらえれば」
 とサラが大きな口を開け、得意そうにサーヤに言った。

「私……こんな素敵な馬に乗って出かけられるなんて、夢みたい」

 レナは、カイの愛馬に乗れることが嬉しくてたまらない様子だ。

「ほんと、ここのお姫様ってば度胸があるわね。落馬しないでよ」
 サラは、全く臆することなくクロノスを見つめるレナに笑った。

「気を付けるわね」
 レナは上機嫌だ。

 サラとカイがそれぞれ馬にまたがると、馬上から手を差し伸べてレナ、サーヤを自分たちの座っている前に座らせる。

「高い……!」

 サーヤが下を見ながら恐怖に怯えたが、目の前にカイがいてレナと密着している様子が目に入ると、そちらに目を奪われ、他のことが気にならなくなってしまった。

「ねえ、これからどの位の時間、馬で移動するの?」

 レナは完全にカイに包まれる形になって身体を密着させながら、すぐ後ろのカイに尋ねる。

「まずは2時間程度走らせて、様子を見ながらところどころ休憩を入れるつもりだ」

 カイの声が頭の上から聞こえて来る状況に、レナは動揺した。
 悪いことをしているわけではないのに、密着して包まれているような距離感と状況に、これで良いのだろうかと鼓動が早くやかましく打っている。

(カイは私の護衛なんだから、良いんだろうけど……)

 身体を寄せ合う状況になっていることに、レナはどうしようもなく後ろめたい気持ちが襲って来る。
 この状況を、まるで当たり前のようにしているカイが信じられなかった。

「2時間で、どの位進めそうなの?」
 レナはなるべく考えないようにカイに尋ねた。

「ところどころ速歩はやあし(※馬の走り方のこと)を使って行きたい。最初の村には到着できるはずだ」
 カイはそう言って、手綱を一旦張ってサラの方を確認した。

 サラも同じ姿勢を取っているのを目視すると、
「じゃあ、出発するぞ!」
 と声を張り上げて手綱を緩め、かかとでクロノスの腹を蹴る。

 クロノスは主人の声と合図に答えてゆっくり歩き始め、ピンと立った耳を左右に動かしていた。

 レナは馬上の光景に心を躍らせながら、
「カイ、クロノスはとても賢いわね!」
 と喜ぶ。カイは、はしゃぎすぎてうっかり落馬でもされたらたまらないと焦り、片手で手綱を握って片手でレナの身体を抱えた。

 レナはカイに後ろから抱きしめられる形になってしまったことに大いに動揺する。
 これは一体どういう状況だろうかと軽く混乱していた。
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