アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 26th day 事情聴取

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 夕方を過ぎると、ルリアーナ城に各地の聖職者が到着した。城の大広間に集められ、何をされるのか、何が起きるのかと恐怖におののいている。ポテンシア兵は誰もが無傷で、聖職者は軽い打撲程度の怪我をしている者もいた。

 暫くすると、広間に背の高い黒髪の男が現れ、誰がどこから来た聖職者なのかを確認し始める。

「あの……なぜ私がここに来なければならなかったのか、分かっていないのですが」
 1人の聖職者が恐る恐る口を開くと、黒髪の男は、
「ああ、事情を聞いたらすぐに開放するつもりだ。ただ、協力者を探している」
 とぶっきらぼうに言った。その場にいる聖職者は『協力者』という言葉に、自分たちが糾弾されるために呼ばれたのではないのだとひとまず安心した。

「さっそく、そこの正教会の神父から、事情を聞かせてもらおうか。別室に一緒に来てもらおう」
 黒髪の男が1人の聖職者を呼んだので、その場に緊張が走る。
「はい……」

 黒髪の男は兵士風の見た目で、黄人、瞳の色も独特のグレーがかった黒だった。ルリアーナ人ではないことがハッキリ分かる。その場にいた聖職者たちの心中は、決して穏やかではなかった。

「さて、早速だが……正教会といえば先日こちらでメイソン元公爵を捕らえている。その後も、牢から呪術を使って悪事を働こうとした疑いがあるんだが……。何か知らないか?」
 カイは正教会の神父から事情聴取を始めた。隣にはルイスも座っている。

「その辺の事情……ですか。私も一応教会を運営している程度で、特別なことは行っておらず、特別有力者との関わりも持っていません……」
 神父が怯えながら話しているのを、カイは嘘をついていないか観察しながら更に続ける。

「正教会は、昔から王家との癒着で成り立っていたのだろう?」
 カイが鋭い瞳で尋ねたので、神父は何か恐ろしいものに睨まれたように怯え、
「いえ、私は……ルリアーナ女王の魂を祀り、後世に伝えることだけを行っているので……」
 と答えた。

「教会での活動に対して、誰かに何かを指示されることも無いのか?」
 カイはシンとロキから正教会は殆ど活動をしていない教会が多いと聞いていたため、なぜなのか不思議に思っていた。

「ええ……先導士がいたころは、各地に先導士の力で指示が飛んでいた時代もあったようですが、もう先導士がいなくなって20年ですから……」
 神父がそう言ったので、
「先導士がいたころは、指示が飛んでいたんだね。具体的には、どんな?」
 とルイスが穏やかに尋ねた。

「王家の行事ですとか、先日の収穫祭のことですとか、昔は天候を操る行事のことが流れたりしたらしいです」
 神父の言葉には嘘がなさそうだ。

「先導士と王家の繋がり……王家がやっていたことは、知っているんだね?」
 ルイスは神父に含みを持たせながら尋ねると、神父は気まずそうに頷いた。

「ふうん……。聖職者とはいえ、そこは、知っていて見て見ぬフリか」
 ルイスが冷たく言い放ったので、神父はぞっとしながら下を向いた。

「王家のやることが間違っているなど……とても思えないのです……」
 神父は振り絞るように言った。それを聞いたカイは、
「ありがちだな」
 と半ばあきれた様子を口にする。ルイスは小さく笑うと、
「君の主張は分かったよ。とりあえず、また広間で待っていてもらおう。ありがとう」
 とその場の聴取は終わりになった。

 ルイスの合図でポテンシア兵がやってきて、神父を連れて広間に戻って行く。
「そういうことらしいぞ、ハウザー団長」
 ルイスはカイに声を掛けた。

「正教会は、王家に利用されていた線が強そうですね。メイソンと組んでいた人間まであぶりだせると良いんですが。今回は難しいかもしれません」
 カイはそう言うと、次の聖職者を待った。

 次々に話を聞いて、事情を把握していく必要がある。それとは別に、ハオルが広間でレジスタンスの者を集めて呪術師を募っていた。
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