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the 26th day 気分転換
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ルイス達が修道院に向かって出発すると、ルリアーナ城は静かになった。
「あの一行が居ないだけで、随分落ち着いている気がするな」
「そうね、いつもこんなに静かだったかしらね?」
カイは、昼も夜もレナの護衛に付いていた。呪いに倒れて以降、レナもカイの側を離れようとしない。
カイがほとんど休息を取らずに護衛に入っているのを気にして、シンとロキも力になりたがる。
その日は、レナが3人を護衛に付けて城の庭を散歩した。
「団長は、部屋で休んでいればいいじゃないですか……」
ロキが面白くなさそうに言うので、
「まあ、殿下が不安がるからだろ……」
とシンがフォローした。ずっとレナがカイばかりを頼っているのは、側にいれば分かる。
「任せたいのはやまやまだが、事情が事情だからな。責任問題というやつだ」
カイはそう言って2人を連れ、レナの部屋を訪れる。
レナは久しぶりに外に出られるのが嬉しいのか、明るい顔で3人を迎えた。
「外出するわけじゃなくても、人に気を遣わずに散歩ができるって良いわね」
レナがそう言って、当たり前のようにカイの横に来る。その距離が近いのは誰から見ても明らかだった。
シンとロキはそんな2人を見ながら後に続く。シンは隣にいるロキを気にしていた。
「メイソンの時といい、今回といい、結局ルイス王子頼みになっているな。」
「やっぱり、兵を持たないっていうのも、考えものね。」
「丁度いいんじゃないか?あの婚約者に相談するのが。」
「私がこんな事態になったら、婚約でルイス様を縛ってはいけないでしょ。」
空は快晴だった。レナが呪いに倒れても、まるで平和そのものだ。
カイとレナが庭を歩きながら会話をしていると、強めの風にレナの被っていた帽子が飛ばされた。
鍔の広い帽子が宙に舞ったので、カイもレナも自然と手を伸ばす。
「殿下には術を控えて欲しいんだが?」
「あなたにばかり頼るのもどうかと思うのよ?」
レナの起こした風とカイの起こした風が、帽子を引き寄せた。
そよ風同士がぶつかり合って突風を起こす。レナがその勢いによろけたので、カイはレナを支えながら戻ってきた帽子を掴んだ。
「風同士ってのは、どうも勢いを抑えられないな」
「そうね。同時に風を起こすのは危険かも……」
「言っておくが、俺は風しか起こせないんだ」
カイは掴んだ帽子をレナに無造作に被せ、そのまま歩き出す。レナは口を尖らせて帽子を被りなおし、小走りしてカイの側にぴったりと付いた。
「じゃあ、カイが側にいる時は、風は使わないようにすればいいの?」
「極力、そうしてもらった方がいい」
「ふうん?」
レナは、満足そうに頷いていた。
「やけに機嫌がよさそうだな」
ずっと塞ぎこむようにしていたレナが、笑顔で歩いている。カイは散歩で気分が変わったのだろうとレナを見た。
「カイと役割を分担できると思ったら、なんだか嬉しくなったの」
そう言うと、レナは鼻歌を歌っている。それの何が嬉しいのか、とカイは半ば呆れながらその様子を見ていた。
「それ以外、私は全部使っていいのね。ただ、風に関わることだけは、あなたが」
そう言うレナが急に表情を真剣なものに切り替えたのを、カイは見逃さなかった。
「何を考えている?」
「あなたを頼るわ。だから、私のことも頼ってね」
レナはそう言うと、少し寂しそうな表情で微笑んだ。
呪いで自分はこの先どうなるか分からない。
レナは、あとどれだけできることがあるのだろうかと考えていた。
カイはしんみりしながら寂しそうに歩くレナの、帽子の鍔をぐっと下げる。
「辛気臭くなるな。そんな風に言われても、頼りづらい」
「何するのよ! 前が見えなかったら危ないじゃない」
レナは、帽子の鍔を上げてカイを睨む。
「この程度で危なくなるくせに、無理に協力しようとするな」
カイはそう言ってレナを睨み返した。
「私だって、力になりたいのよ」
レナは拗ねたようにしながら、口を尖らせて言った。
「そういうことなら、間に合っている」
「私なんか、役に立たないって意味?」
「その逆だ。充分役に立っている」
「ルイス王子がこうして動いたのは、殿下の力だ。人を動かすのが君主の役目だろう」
カイが呟くように言ったのを聞いて、レナは小さく首を傾げる。
「王の器というやつで役に立っているんだ。もっと自信を持て」
カイはレナの方を見ずに付け加えた。
(そんなのじゃないわ、本当は私自身がカイの力になりたいのに)
晴れた庭を歩きながら、レナはそれを願うだけに留めた。
「あの一行が居ないだけで、随分落ち着いている気がするな」
「そうね、いつもこんなに静かだったかしらね?」
カイは、昼も夜もレナの護衛に付いていた。呪いに倒れて以降、レナもカイの側を離れようとしない。
カイがほとんど休息を取らずに護衛に入っているのを気にして、シンとロキも力になりたがる。
その日は、レナが3人を護衛に付けて城の庭を散歩した。
「団長は、部屋で休んでいればいいじゃないですか……」
ロキが面白くなさそうに言うので、
「まあ、殿下が不安がるからだろ……」
とシンがフォローした。ずっとレナがカイばかりを頼っているのは、側にいれば分かる。
「任せたいのはやまやまだが、事情が事情だからな。責任問題というやつだ」
カイはそう言って2人を連れ、レナの部屋を訪れる。
レナは久しぶりに外に出られるのが嬉しいのか、明るい顔で3人を迎えた。
「外出するわけじゃなくても、人に気を遣わずに散歩ができるって良いわね」
レナがそう言って、当たり前のようにカイの横に来る。その距離が近いのは誰から見ても明らかだった。
シンとロキはそんな2人を見ながら後に続く。シンは隣にいるロキを気にしていた。
「メイソンの時といい、今回といい、結局ルイス王子頼みになっているな。」
「やっぱり、兵を持たないっていうのも、考えものね。」
「丁度いいんじゃないか?あの婚約者に相談するのが。」
「私がこんな事態になったら、婚約でルイス様を縛ってはいけないでしょ。」
空は快晴だった。レナが呪いに倒れても、まるで平和そのものだ。
カイとレナが庭を歩きながら会話をしていると、強めの風にレナの被っていた帽子が飛ばされた。
鍔の広い帽子が宙に舞ったので、カイもレナも自然と手を伸ばす。
「殿下には術を控えて欲しいんだが?」
「あなたにばかり頼るのもどうかと思うのよ?」
レナの起こした風とカイの起こした風が、帽子を引き寄せた。
そよ風同士がぶつかり合って突風を起こす。レナがその勢いによろけたので、カイはレナを支えながら戻ってきた帽子を掴んだ。
「風同士ってのは、どうも勢いを抑えられないな」
「そうね。同時に風を起こすのは危険かも……」
「言っておくが、俺は風しか起こせないんだ」
カイは掴んだ帽子をレナに無造作に被せ、そのまま歩き出す。レナは口を尖らせて帽子を被りなおし、小走りしてカイの側にぴったりと付いた。
「じゃあ、カイが側にいる時は、風は使わないようにすればいいの?」
「極力、そうしてもらった方がいい」
「ふうん?」
レナは、満足そうに頷いていた。
「やけに機嫌がよさそうだな」
ずっと塞ぎこむようにしていたレナが、笑顔で歩いている。カイは散歩で気分が変わったのだろうとレナを見た。
「カイと役割を分担できると思ったら、なんだか嬉しくなったの」
そう言うと、レナは鼻歌を歌っている。それの何が嬉しいのか、とカイは半ば呆れながらその様子を見ていた。
「それ以外、私は全部使っていいのね。ただ、風に関わることだけは、あなたが」
そう言うレナが急に表情を真剣なものに切り替えたのを、カイは見逃さなかった。
「何を考えている?」
「あなたを頼るわ。だから、私のことも頼ってね」
レナはそう言うと、少し寂しそうな表情で微笑んだ。
呪いで自分はこの先どうなるか分からない。
レナは、あとどれだけできることがあるのだろうかと考えていた。
カイはしんみりしながら寂しそうに歩くレナの、帽子の鍔をぐっと下げる。
「辛気臭くなるな。そんな風に言われても、頼りづらい」
「何するのよ! 前が見えなかったら危ないじゃない」
レナは、帽子の鍔を上げてカイを睨む。
「この程度で危なくなるくせに、無理に協力しようとするな」
カイはそう言ってレナを睨み返した。
「私だって、力になりたいのよ」
レナは拗ねたようにしながら、口を尖らせて言った。
「そういうことなら、間に合っている」
「私なんか、役に立たないって意味?」
「その逆だ。充分役に立っている」
「ルイス王子がこうして動いたのは、殿下の力だ。人を動かすのが君主の役目だろう」
カイが呟くように言ったのを聞いて、レナは小さく首を傾げる。
「王の器というやつで役に立っているんだ。もっと自信を持て」
カイはレナの方を見ずに付け加えた。
(そんなのじゃないわ、本当は私自身がカイの力になりたいのに)
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