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the 26th day 王子様と修道女
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その時は突然やってきた。
修道院の正面玄関から見たこともない兵士がぞろぞろと入ってくると、事情聴取にルリアーナ城まで連行する、と叫び、次々に修道士が捕まっていく。
呪術を使って抵抗しようとしたものは兵士に拳を食らわされ、走って逃げようとした者はすぐに追いつかれ、修道院の中は大騒ぎだった。
そんな中、修道士の中からフードとマントを脱いで現れた青年が、堂々と兵士たちの前に姿を現す。修道院でリオと呼ばれていたその青年は、兵士を見てニヤリと笑った。
「いや、よく来たね」
そう言った青年の姿を見て、兵士たちは頭を下げる。
「これまでの任務、お疲れ様でした」
兵士の言葉に「リオ」は笑って、
「いや、僕もそろそろそちら側に何が起きているのか知りたくて煮詰まっていたから、丁度良かった」
と答えている。
修道士たちは訳が分からずにそのやり取りを見ていたが、「リオ」が兵士たちに交じって身体から鋭い短剣を取り出したのを見て、ようやく事態を把握する。「リオ」はどの兵士よりも素早く走り、冷たい瞳で修道士たちを見つめていた。
ルイスはブラッドの陰に隠れながら、修道女たちが捕まって行くのを眺めていた。
「女性に暴力を振るうのは主義じゃないから、上手くやってくれたまえよ」
ルイスが声を掛けると、ブラッドも、
「分かりますよ、何の罪もない女性を傷付けるなんて、人生の汚点になります」
と言ってルイスを庇いながら、呪術で抵抗しようとする女性の手を拘束した。
「か弱い女性ばかりだな」
ルイスは女性の悲鳴を聞きながら、修道女たちを観察する。年齢の様々な修道女たちはポテンシア兵に怯えながら縮こまっていた。
「ミリーナらしき女性は、見つからないか」
あっという間に修道院の全てを捜索し終えると、ルイスはひとりひとりを確認してミリーナのことを尋ねたが、何も分からなかった。
「手荒な真似をしてすまないね。君たちに色々聞きたいことがある。まずはルリアーナ城に来てもらおうと思うけど……こんなにレディが多いとは思わなかったから、馬車の準備が足りないかもしれないな」
ルイスはそう言って修道女たちを見た。ざっと40人はいるだろうか。最初は怯えていた女性たちが、徐々に話ができるようになってきていた。
「どうして、お城なんですか?」
修道女の1人が尋ねたので、
「ミリーナという呪術師が、私の婚約者である王女に呪いをかけたからだよ」
とルイスはハッキリと答えた。
「ということは、あなたは……ポテンシアの第四王子……」
修道女たちは、初めて見る隣国の王子に驚いた。そして、ミリーナが王女に呪いをかけたという内容に驚いている修道女も多かった。
「ミリーナ様は、そこまでしてヘレナ様を追い詰めてしまったのですね」
ひとりの修道女が悲しそうに言ったので、ルイスは理解ができず、
「ヘレナ様?」
と聞き返した。
「ミリーナ様のお子様で、現在のルリアーナ第一王女の、『ヘレナ』様のことです」
修道女に説明されて、ルイスは、
「いや、第一王女は『レナ』様のはずだが」
と答える。
「いいえ、『レナ』様は先王が勝手にそう呼んだ名にすぎません。ミリーナ様の娘は『ヘレナ』様でこの国では豊穣の女神の化身をそう呼ぶのです。強い祝福を持って生まれた、ミリーナ様を凌ぐ術師になるお方ですから」
修道女の言葉に、ルイスは情報の整理が追い付かない。
「じゃあなぜ、ミリーナは、そんな娘に呪いをかけたんだ。娘は、何もしていなかっただろう」
ルイスは、レナを思い出して修道女たちにゆっくりと言った。
「ミリーナ様の安息は、滅びの中にしかありません。ヘレナ様が王家やご自身に絶望することがあれば、その時は全てが滅びるようにと、安息の呪いをかけたのです」
修道女のひとりが言ったのを、
「ほう……。君は、何か事情に通じているらしい。その辺の話を詳しく聞きたいし、君たちの言う『ヘレナ』を救う方法を知りたいんだが」
とルイスはゆっくり穏やかに言った。修道女たちはすっかり目の前の優雅な王子に安心している。
ルイスはこの場に乗り込んでもミリーナを捕らえられなかったことを静かに悔しがった。
修道院の正面玄関から見たこともない兵士がぞろぞろと入ってくると、事情聴取にルリアーナ城まで連行する、と叫び、次々に修道士が捕まっていく。
呪術を使って抵抗しようとしたものは兵士に拳を食らわされ、走って逃げようとした者はすぐに追いつかれ、修道院の中は大騒ぎだった。
そんな中、修道士の中からフードとマントを脱いで現れた青年が、堂々と兵士たちの前に姿を現す。修道院でリオと呼ばれていたその青年は、兵士を見てニヤリと笑った。
「いや、よく来たね」
そう言った青年の姿を見て、兵士たちは頭を下げる。
「これまでの任務、お疲れ様でした」
兵士の言葉に「リオ」は笑って、
「いや、僕もそろそろそちら側に何が起きているのか知りたくて煮詰まっていたから、丁度良かった」
と答えている。
修道士たちは訳が分からずにそのやり取りを見ていたが、「リオ」が兵士たちに交じって身体から鋭い短剣を取り出したのを見て、ようやく事態を把握する。「リオ」はどの兵士よりも素早く走り、冷たい瞳で修道士たちを見つめていた。
ルイスはブラッドの陰に隠れながら、修道女たちが捕まって行くのを眺めていた。
「女性に暴力を振るうのは主義じゃないから、上手くやってくれたまえよ」
ルイスが声を掛けると、ブラッドも、
「分かりますよ、何の罪もない女性を傷付けるなんて、人生の汚点になります」
と言ってルイスを庇いながら、呪術で抵抗しようとする女性の手を拘束した。
「か弱い女性ばかりだな」
ルイスは女性の悲鳴を聞きながら、修道女たちを観察する。年齢の様々な修道女たちはポテンシア兵に怯えながら縮こまっていた。
「ミリーナらしき女性は、見つからないか」
あっという間に修道院の全てを捜索し終えると、ルイスはひとりひとりを確認してミリーナのことを尋ねたが、何も分からなかった。
「手荒な真似をしてすまないね。君たちに色々聞きたいことがある。まずはルリアーナ城に来てもらおうと思うけど……こんなにレディが多いとは思わなかったから、馬車の準備が足りないかもしれないな」
ルイスはそう言って修道女たちを見た。ざっと40人はいるだろうか。最初は怯えていた女性たちが、徐々に話ができるようになってきていた。
「どうして、お城なんですか?」
修道女の1人が尋ねたので、
「ミリーナという呪術師が、私の婚約者である王女に呪いをかけたからだよ」
とルイスはハッキリと答えた。
「ということは、あなたは……ポテンシアの第四王子……」
修道女たちは、初めて見る隣国の王子に驚いた。そして、ミリーナが王女に呪いをかけたという内容に驚いている修道女も多かった。
「ミリーナ様は、そこまでしてヘレナ様を追い詰めてしまったのですね」
ひとりの修道女が悲しそうに言ったので、ルイスは理解ができず、
「ヘレナ様?」
と聞き返した。
「ミリーナ様のお子様で、現在のルリアーナ第一王女の、『ヘレナ』様のことです」
修道女に説明されて、ルイスは、
「いや、第一王女は『レナ』様のはずだが」
と答える。
「いいえ、『レナ』様は先王が勝手にそう呼んだ名にすぎません。ミリーナ様の娘は『ヘレナ』様でこの国では豊穣の女神の化身をそう呼ぶのです。強い祝福を持って生まれた、ミリーナ様を凌ぐ術師になるお方ですから」
修道女の言葉に、ルイスは情報の整理が追い付かない。
「じゃあなぜ、ミリーナは、そんな娘に呪いをかけたんだ。娘は、何もしていなかっただろう」
ルイスは、レナを思い出して修道女たちにゆっくりと言った。
「ミリーナ様の安息は、滅びの中にしかありません。ヘレナ様が王家やご自身に絶望することがあれば、その時は全てが滅びるようにと、安息の呪いをかけたのです」
修道女のひとりが言ったのを、
「ほう……。君は、何か事情に通じているらしい。その辺の話を詳しく聞きたいし、君たちの言う『ヘレナ』を救う方法を知りたいんだが」
とルイスはゆっくり穏やかに言った。修道女たちはすっかり目の前の優雅な王子に安心している。
ルイスはこの場に乗り込んでもミリーナを捕らえられなかったことを静かに悔しがった。
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