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the 25th day 王子様は有能
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テーブルの上にルリアーナ国内の地図が広げられ、ハウザー騎士団は国の現状をルイスに報告した。
シンとロキが訪れた教会と、その様子や、途中の山道の状況。そして、レオナルドが潜伏している修道院とレジスタンスのこと、レナの実の母のこと。
一通りの話が終わると、ルイスは「そうか」と言って暫く考え込んだ。
「私も、王族の端くれなので家族というものはとても厄介な存在でね……。だから、王女の呪いや王家を滅ぼそうとするのが彼女の母親だと聞いても、特段驚いたりはしない。王女にとって唯一の肉親だったとしても、遠慮なく処罰すべきだと思っている」
ルイスがそう言い終わると、カイは、
「王女の母親であるミリーナという女性が、あの呪いを解いてくれるのが一番理想なんですが」
と悩まし気に口にした。
「ハウザー団長、念のため教えておくが、それは諦めた方がいい。恨みに駆られた身内ってやつは、どんなに脅迫したって改心しないものだよ。血の繋がりがあるからこそ、分かり合えないこともある」
カイの言葉に対して確信を持つルイスに、その場に絶望的な空気が流れた。
「かといって、望みを捨てるつもりはない。恐らく、ミリーナという女性にも弟子くらいはいるんじゃないか。そういう人間は、割と使える。王女を恨む動機が無く、怨恨に駆られた様を冷静に見ているような弟子が1人でもいれば、取り込もう」
ルイスは淡々と、無駄のない提案をした。
「ハオル殿は、その辺に心当たりは無いのですか?」
カイが後ろを振り返り、同室で給仕に立っていたハオルに尋ねた。
「弟子が多いのは、間違いないのですが……生憎、私のような王家に仕える人間には高位の術師の存在を隠しているので……申し訳ございません……」
ハオルが気まずそうにそう答えると、
「高位の術師が誰なのか、分かる方法がないのが困るな」
と、カイはがっかりした。
「まあ、各地の教会数も分かったことだし、この位の数であれば、明日一気に攻めて関係者を全員捕らえればいいんじゃないか? 1か所につき、兵を5名ずつ出すとしても、必要になるのはせいぜい100名。私が個人で手配できる人数だ。信教にはレオナルドも潜入していることだし、何かあるかもしれないと踏んで国境付近にも兵を30名ほど待機させてきたからね」
そう言ったルイスの提案に、
「いや、そちらの兵が呪いを食らったらどうするんですか……」
とカイは冷静に言うと、
「ブラッドは大丈夫だったんだろう?」
とルイスが確認するようにブラッドに向かって言う。
「ええ、そうですね。スウという呪術師の言葉の呪いに関しては、特に影響は受けなかったです」
ブラッドが初めてスウに呪いをかけられそうになった時のことを思い出し、答えた。
「私の仮説では、我が国はもう、過去の経験でルリアーナの呪いを研究・対策済だ。50年以上前に、先代国王の間諜が既にルリアーナの王族を調査して、呪術の報告を国に上げている。その上で、我が兵はあらゆる条件をクリアした者だけが近衛兵に採用されるようになっているんだ。恐らく……もともと呪術耐性を持つ者を選べるようにしたんだろう」
ルイスの言葉に、カイはスウが以前言っていたポテンシア兵に対する脅威について思い出した。
「なるほど……。周辺国への調査に抜かりが無いんですね」
カイは、本当の脅威は間違いなくポテンシア王国に違いないと思いながら、
「それでは、その言葉を信じます。こちらはルイス様を頼るしか道がないのでお願いするしかないのですが」
と加えた。
「我が国の近衛兵が呪術師に操られてしまったら、国自体が絶望的だろう? そう思えば、私のおじい様辺りが対策をしていたって何の不思議もない。現に、ブラッドが大丈夫だったというのであれば……そういうことなんじゃないか?」
ルイスはそう言うと、紙とペンをハオルに頼んで優雅な所作で書簡を仕上げた。
「さて」
ルイスは紙を細かく折り、ベランダに出てペンダントとして下げていた意匠の美しい銀の鷹笛を吹く。暫くすると大きな影が現れて、鷹が大きな羽を畳みながらルイスの腕に乗った。
「君は本当に良い子だ。頼むよ」
ルイスはそう言うと紙を鷹の足に括り付け、空に放つ。
「少しの雨くらいでは大丈夫だと思うが……一応念のため、陸の正規ルート用もこれから書いて送りたい。手配を頼めるかな?」
ルイスは追加の書簡を書き、ハオルに手配を頼んだ。
(流石だな、王子様は)
カイの側にいたシンは全てにおいてルイスの姿に感心し、ロキは、無表情のままカイの後ろに立っていた。
シンとロキが訪れた教会と、その様子や、途中の山道の状況。そして、レオナルドが潜伏している修道院とレジスタンスのこと、レナの実の母のこと。
一通りの話が終わると、ルイスは「そうか」と言って暫く考え込んだ。
「私も、王族の端くれなので家族というものはとても厄介な存在でね……。だから、王女の呪いや王家を滅ぼそうとするのが彼女の母親だと聞いても、特段驚いたりはしない。王女にとって唯一の肉親だったとしても、遠慮なく処罰すべきだと思っている」
ルイスがそう言い終わると、カイは、
「王女の母親であるミリーナという女性が、あの呪いを解いてくれるのが一番理想なんですが」
と悩まし気に口にした。
「ハウザー団長、念のため教えておくが、それは諦めた方がいい。恨みに駆られた身内ってやつは、どんなに脅迫したって改心しないものだよ。血の繋がりがあるからこそ、分かり合えないこともある」
カイの言葉に対して確信を持つルイスに、その場に絶望的な空気が流れた。
「かといって、望みを捨てるつもりはない。恐らく、ミリーナという女性にも弟子くらいはいるんじゃないか。そういう人間は、割と使える。王女を恨む動機が無く、怨恨に駆られた様を冷静に見ているような弟子が1人でもいれば、取り込もう」
ルイスは淡々と、無駄のない提案をした。
「ハオル殿は、その辺に心当たりは無いのですか?」
カイが後ろを振り返り、同室で給仕に立っていたハオルに尋ねた。
「弟子が多いのは、間違いないのですが……生憎、私のような王家に仕える人間には高位の術師の存在を隠しているので……申し訳ございません……」
ハオルが気まずそうにそう答えると、
「高位の術師が誰なのか、分かる方法がないのが困るな」
と、カイはがっかりした。
「まあ、各地の教会数も分かったことだし、この位の数であれば、明日一気に攻めて関係者を全員捕らえればいいんじゃないか? 1か所につき、兵を5名ずつ出すとしても、必要になるのはせいぜい100名。私が個人で手配できる人数だ。信教にはレオナルドも潜入していることだし、何かあるかもしれないと踏んで国境付近にも兵を30名ほど待機させてきたからね」
そう言ったルイスの提案に、
「いや、そちらの兵が呪いを食らったらどうするんですか……」
とカイは冷静に言うと、
「ブラッドは大丈夫だったんだろう?」
とルイスが確認するようにブラッドに向かって言う。
「ええ、そうですね。スウという呪術師の言葉の呪いに関しては、特に影響は受けなかったです」
ブラッドが初めてスウに呪いをかけられそうになった時のことを思い出し、答えた。
「私の仮説では、我が国はもう、過去の経験でルリアーナの呪いを研究・対策済だ。50年以上前に、先代国王の間諜が既にルリアーナの王族を調査して、呪術の報告を国に上げている。その上で、我が兵はあらゆる条件をクリアした者だけが近衛兵に採用されるようになっているんだ。恐らく……もともと呪術耐性を持つ者を選べるようにしたんだろう」
ルイスの言葉に、カイはスウが以前言っていたポテンシア兵に対する脅威について思い出した。
「なるほど……。周辺国への調査に抜かりが無いんですね」
カイは、本当の脅威は間違いなくポテンシア王国に違いないと思いながら、
「それでは、その言葉を信じます。こちらはルイス様を頼るしか道がないのでお願いするしかないのですが」
と加えた。
「我が国の近衛兵が呪術師に操られてしまったら、国自体が絶望的だろう? そう思えば、私のおじい様辺りが対策をしていたって何の不思議もない。現に、ブラッドが大丈夫だったというのであれば……そういうことなんじゃないか?」
ルイスはそう言うと、紙とペンをハオルに頼んで優雅な所作で書簡を仕上げた。
「さて」
ルイスは紙を細かく折り、ベランダに出てペンダントとして下げていた意匠の美しい銀の鷹笛を吹く。暫くすると大きな影が現れて、鷹が大きな羽を畳みながらルイスの腕に乗った。
「君は本当に良い子だ。頼むよ」
ルイスはそう言うと紙を鷹の足に括り付け、空に放つ。
「少しの雨くらいでは大丈夫だと思うが……一応念のため、陸の正規ルート用もこれから書いて送りたい。手配を頼めるかな?」
ルイスは追加の書簡を書き、ハオルに手配を頼んだ。
(流石だな、王子様は)
カイの側にいたシンは全てにおいてルイスの姿に感心し、ロキは、無表情のままカイの後ろに立っていた。
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